727話 凍蒸の道化蟹(挿絵あり)
「……まあ、何はともあれ。
生産プレイヤーとして、水棲生物レイドボスと一度戦ってみたいわけですよ。
【包丁戦士】さんも生産プレイヤーなら当然この気持ちが分かりますよね?」
【釣竿剣士】がそんな無茶振りをしてきたが、別に生産プレイヤーが積極的にレイドボスと戦いたいなんて傾向はないはずだ。
俺は戦ってもいいが、俺も例外みたいになりつつあるから参考にされても困る……
【ドライバー修理人】辺りがこんな無茶振りをされたら泣いてしまうだろうよ。
「もしかして当方と戦うつもりカニ?
戦いを拒むつもりはないカニが、ギミックを何も解いてないのに当方に勝てるとは思わないで欲しいカニよ!」
そう言って【カニタマ】は幼女のような身体を肥大化させ、体長七メートルほどの巨大な真っ赤なカニの姿へと変貌したのだ!
「さっきまで着ていた服装みたいに足の色が赤色のものと青色のものがありますね?
想像していたよりもカラフルでファンシーな蟹ですね。
……大きいですけど」
大元が幼女の姿だったのでギャップが凄いよな。
そんな【カニタマ】が手始めに俺たちに向かって長い足を横凪に振り回してきた。
俺はそれをしゃがんで回避したが、【釣竿剣士】はというと……
「釣竿一刀流【飛翔】っ!
……ふぅ、間一髪でしたね」
チュートリアル武器の釣竿をプロペラのように回転させながら上空へと飛び上がっていっていた。
相変わらず同じ人間とは思えない技だな。
俺は翼を生やして飛ぶが、あれはあくまでもゲーム内スキルによる補助があってのことだ。
それに対して【釣竿剣士】はこの釣竿一刀流【飛翔】を現実でも使えるというのだから、もはや存在がチートのようなものだ。
「人聞きが悪いことを言わないで欲しいですね、努力の賜物と言って欲しいですよ!
……さて、上空に来たのでこのまま胴体に着地を……っ!?
なっ、なんですかこれは!?
熱すぎますよ!」
【釣竿剣士】が【カニタマ】の甲羅部分に着地したと思ったら、甲羅に触れている部分が……つまり【釣竿剣士】の足が蒸発し始めたのだ。
みるみるうちに足が無くなっていっている【釣竿剣士】は、ここからの再起は不可能と考えたのかせめて一矢報いるために攻撃に転じようとしていた。
「釣竿一刀流【抜刀斬】っ!
これで少しでもダメージを……」
【釣竿剣士】が手に持っていた釣竿を甲羅に向かって振り下ろしたが、まるで防壁に阻まれたかのように固い甲羅に傷一つつけることなく、そのまま【釣竿剣士】は光の粒子となって消えていってしまった……
……あの固さ、【特殊防御権限】でほとんどダメージが通らないようになっているっぽいな!
やっぱりギミック解除を全くしていないこいつを倒すのは無理そうだな。
普通のレイドボス相手ならギミックの取り逃しがあっても多少ダメージが通るが、【上位権限】レイドボスはまた仕様が違うらしい。
【菜刀天子】にもダメージが通ってなかったし、分かっていたことではあったがな。
というか、【釣竿剣士】が戦闘開始してすぐに落ちたのはキツすぎる……
初見殺しでの死に方だったので仕方ないが、蒸発させられるとはな……
俺もだらだらと戦闘を続けても実りが無さそうだし、積極攻撃でいかせてもらうか!
スキル発動!【フィレオ】!
俺は包丁を横凪ぎで振るい、そのから軌道を延伸するように飛翔する斬撃が【カニタマ】の青色の足へと飛んでいった。
スキルのデメリットによって俺の右足はあらぬ方向へと飛んでいき、海の中へとポッチャリと落ちていったがそんなことは些細な問題でしかない。
俺の【フィレオ】による斬撃なら少しくらい切れるはず、そう思い放った必殺の一撃だったが……
【この段階で当方にその攻撃は効かないカニよ!】
【この海をもう少し楽しんでから出直してくるカニ!】
【フィレオ】は弾かれたように消失していき、【カニタマ】は無傷でそこに立ちはだかっていた。
そして、非情な言葉を言い放つと俺に向かって巨大な足を振り下ろしてきた。
俺は咄嗟に回避したのだが、足が着地した地面から凍結し始めて俺はそこに釘付けにされてしまった。
そしてそのまま凍結が全身に回っていき……粉々に砕け散り俺は呆気なく死に戻りすることとなったのだ。
高熱と凍結を使いこなす巨大な蟹か……
しかも常にその効果が身体に現れているのは厄介すぎるぞ……
本当に倒せるのか……?
倒されるつもりはないカニよ!
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