723話 ただの蜘蛛糸
「ふひひっ、スキル発動!【堕音深笛】」
【骨笛ネクロマンサー】が一瞬効果が切れてしまった黒い霧のガシャドクロを再度生み出し、俺やボマードちゃん(ジェーライト)にバフを再配布していく。
それなりに長い時間戦闘を続けているので、スキルの効果が切れていくのは仕方ない。
本来は【深淵顕現権限】や【夢幻深淵】もとっくに効果が無くなっているはずだからな。
あくまでも深淵奈落という特殊な場所の恩恵を受けているから効果が続いているだけの話だ。
そこを責めるのはお門違いというものだろう。
「うーん、やっぱりあの鏡をどうにかしないと勝てる気がしませんよ……
いや~、正直私の身体も限界ですし……」
「宿主様の身体は特に脆弱だからナァ……
イャ~、いくら俺様でも疲労限界まで来た身体を操作するのは骨が折れるゼェ!」
「ふひひっ、骨ですかぁぁ?」
「えっ、いや関係ないですよ!?」
完全に考慮していなかったが、ボマードちゃんは普段よりも動き回っているせいか身体に疲労が蓄積しているようだ。
いわゆるスタミナ切れというやつだ。
こうなると移動速度も落ちてくるし、回避精度も大幅に低下してしまう。
普通にプレイしていたらこんなことにはならないんだが、ボマードちゃんの身体はデバフの影響でクソザコになっているからそうなるだろう。
【骨笛ネクロマンサー】の【堕音深笛】で多少はマシになってはいるが、それも含めて限界になっているのだろう。
ボマードちゃんが死ぬにしても、あの鏡をどうにかした後じゃないと非常に困ってしまう。
お前たち何か案はないか?
「とりあえず叩いて壊しますか?
いや~、力こそ正義ですよね~!」
【БББББББББББ!!!!】
「ってうわぁっ、【アルベー】さんが怒って突撃して来ましたよっ!?」
ボマードちゃんが案を出すと、その意見に反応したのか【アルベー】がボマードちゃんに急速接近して飛び蹴りを放とうとしていた。
瞬発力に長けた飛び蹴りにボマードちゃんは対応することが出来ず、
こらこらこら!
ボマードちゃんに今死なれては困るんだっ、加減しろ【アルベー】っ!!
俺は間一髪で【アルベー】とボマードちゃんの間に狼包丁を差し込み、包丁の腹で受け流して攻撃を防ぐことに成功した。
……今のはマジで危なかったぞ!
力押しであの鏡を破壊するのは可能かもしれないが、その前に俺たちが力押しで壊されそうだな……
今の俺はレイドボス並のスペックを確保できているが、ボマードちゃんと【骨笛ネクロマンサー】はそうでもないからな。
俺が【トランポリン守兵】お嬢様擬きのような、チュートリアル武器を盾のようにしてタンクの役割を果たしていなかったら二人ともお陀仏になっていただろう。
これまでの総力戦と違って参加プレイヤーが少ないので、的も絞られるからな……
自然と個々人のヘイトが減らすことが出来ないほど高まっているだろう。
それほど薄氷の上のような戦線に俺たちは立っているってことさ。
「ひっ、ひぃ~!?
いやー、【包丁戦士】さん助けてくださいぃぃ!!!
ヤバいです、本当にヤバいですよっ!?」
ボマードちゃんは叫び声をあげながら【アルベー】から必死に逃げていっている。
まあ、身体を操作しているのはボマードちゃんじゃなくて【ジェーライト】だろうが。
「ふひひっ、今助けますよぉぉ……
スキル発動!【深淵顕現権限Φ】ですぅぅ」
【骨笛ネクロマンサー】は尻尾のような突起を身体に生み出した。
そして、そのまま突起から蜘蛛糸を飛ばしてボマードちゃんを強制的に後方へと引っ張り戻すことに成功した。
ほーん、【ファイヌル】の尻尾は蜘蛛糸を出せるんだな。
予想はしていたが、便利そうじゃないか。
ちなみに、【ファイヌル】のスキルである【儡蜘蛛糸】は使えるか?
あれが使えるなら一気に状況を変えられるはずだが……
何せスキルの操作を強奪できるんだからな。
鏡の操作をここで奪うことが出来たのなら【アルベー】を丸裸にできる。
俺が一抹の希望を願いながら【骨笛ネクロマンサー】へと問いかけると、【骨笛ネクロマンサー】は申し訳なさそうな表情を浮かべ口を開いた。
「ふひひっ、残念ですけど普通の蜘蛛糸しか出せないですぅぅ……
こういう直接的な動きは苦手なので、滅多に使わないんですよぉぉ……」
【骨笛ネクロマンサー】が肉弾戦をしていることは見たことないからな……
見た目からしても身体操作が得意には見えないから、意外でも何でもないけど。
だが、折角の手札だ。
この蜘蛛糸を使って何か面白い作戦とかあれば……
とりあえずあれでもやってみるか!
あれとは何かのぅ……?
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】