713話 ワケアリの和気藹々
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日はルル様を説き伏せられなかったので、その交渉材料になる【失伝秘具】を集めるぞ!
「それで、【包丁戦士】さんのあてってどこにあるんですか?
いや~、私には検討もつかないですよ~!」
ボマードちゃん、本当に分からないのか?
変な経路でアイテムを手に入れてくる変わり者が俺たちのクランにいるじゃないか!
「変わり者ばかりのクランなので、判断が難しいですよ!?
いや~、私は一般的美少女ですけどね!」
どの口がそう言うんだか……
少なくとも深淵種族のジェーライトに突発的に身体を乗っ取られてるやつが言うようなセリフではない。
「いや、俺っちの目の前で俺っちを変わり者扱いしないで欲しいッスけど……
ボマードちゃんもなんで目の前にいる俺っちに言及しないッスか!?」
そう、俺の心当たりとは【バットシーフ】後輩のことだったのだ!
「てっきり【包丁戦士】に偶然巻き込まれただけだと思ってましたよ!
いや~、【コラテラルダメージ】メンバーは【包丁戦士】さんにそういうことされますからね~!」
「……ちょっと分かる気がするッス」
わかるなよ……
特訓したりとか、ショッピングしたりとか普通のことも結構やってるじゃん!
まあ、今回はその変なことに巻き込む予定だけどな。
「やっぱりそうじゃないッスか!
……それで俺っちは何を求められているッスか?」
なんだ、話が早いじゃないか。
お前も俺とのつきあい方ってものが分かってきたんじゃないか?
いい傾向だぞ。
【バットシーフ】後輩に求めるのは【失伝秘具】だな。
お前なら、その悪い手癖で【失伝秘具】の一つや二つを持っていたりしないのか……と思ってな。
俺やボマードちゃんが深淵奈落の次のステージに進むための糧みたいなものにする予定だ。
「つまり【失伝秘具】をただ手放すってことッスよね?
しかも、深淵奈落って俺っちが行けないッスから、ほとんどメリットがないッスよ!?」
……【バットシーフ】後輩のメリットか。
なにがあるんだろうか?
皆目検討もつかないな、だって【バットシーフ】後輩って何故か深淵細胞が馴染まないからな……
他のことはコピー出来るのに、【深淵顕現権限】に連なるものはコピー出来ないのは何か複雑な理由があるのだろう。
「それなら私のライブ衣装を決める権利とかどうですか!
いや~、私の衣装を作ってくれる人はいるので、【バットシーフ】さんの好みの衣装とか言ってもらえたらビシバシ着ますよ~!」
「ピクッ」
おっ、食いついたぞ!?
ボマードちゃんはこういう男を骨抜きにする才能はピカ一だからな。
まさか衣装決定権利とは考えたな……
珍しくお花畑脳のボマードちゃんに素直に感心してしまったぞ。
「そ、そういうことなら手をうってもいいッスよ?
俺っちが手癖でダンジョン探索中のパーティーから盗んできたこの【失伝秘具】【洛落陽葉】なら譲ってもいいッス!
盗んでみたはいいものの、使い方がさっぱり分からなくてポケットの肥やしになっていたからちょうどいいッスね」
ほーん、やっぱりしれっと【失伝秘具】を持っていたか。
こういうのを知ると、俺の知らない間にクランメンバーたちも活動をしているってことが実感できて不思議な感じがするぞ。
それで、【バットシーフ】後輩はどんな衣装をボマードちゃんに着てもらいたいんだ?
若干赤面しながらモジモジしている【バットシーフ】後輩に、俺はニヤニヤしながら見つめてそう問いかけた。
ウブな反応は見ていて面白いからついつい弄りたくなる。
繊細なガラス細工を指先でつついてみたくなるようないたずら心だ!
「そっ、そうッスね……
ボマードちゃんに着てもらえるなら、是非チアガールの衣装を着て欲しいッスよ!
両手にポンポンを持ってもらえると最高ッス!」
ほー、いい趣味してるじゃないかこいつ~!
折角だから俺もチアガールに衣装着てやろうか?
ついでだついで、サービスで着てやるよ。
「えっ、先輩の胸って絶壁じゃないッスか……
ポンポンと一緒にチア服で揺れる胸がいいんッスよ!
先輩じゃ意味ないッス」
急に真顔になった【バットシーフ】後輩に冷静に俺の提案は取り下げられてしまった。
人が気にしていることを……っ!
お前っ、許さんぞぉぉぉぉ!!!!
スキル発動!【深淵顕現権限Л(エルラシア)】っ!
俺はボマードちゃんを生け贄に捧げて身体に宿る深淵の竜……【エルラシア=ガルザヴォーク】の細胞を励起させていく。
俺の身体は普段の【深淵顕現権限】のように黒い霧に纏われるのではなく、黒炎に焼かれるように包み込まれて火傷が発生するかのごとく黒炎の竜鱗が全身を覆い尽くしていった。
……流石は【上位権限】レイドボスの深淵細胞だっ!
力が漲ってくるな!
俺は黒炎を纏った手で包丁を握り、俺の貧乳を罵った【バットシーフ】後輩に天誅を下すべく身体のうちに足を踏み入れていく。
そして俺の十八番である斜めの斬撃である袈裟斬りを放つと、そこから黒炎が残像のように残り【バットシーフ】後輩の身体を焼き尽くしていっている。
「あつっ!?
痛っ!?
先輩の沸点が不安定過ぎて怖すぎるッスよ……」
悲痛な表情を浮かべた【バットシーフ】後輩は、そのまま身体を焼かれていき光の粒子と化した後に死に戻りしたのだった……
ガハハ!!!
やはり【コラテラルダメージ】のメンバーは仲が良いな!!!
和気藹々としていて、ワシも鼻が高いぞ!!!
……そうかのぅ……?
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