712話 小遣いを持ち寄る子供の如く
【Raid Battle!】
【深淵域の管理者】
【エルル】
【???】【上位権限】【ボーダー】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【深淵へ誘い】
【冒険者を堕とす】
【深き真価を見極め】
【境界に流転する】
【封印された夢想が解き放たれし時】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン……ではなく深淵奈落の横穴を進んでいったことによってルル様と遭遇したことを示すレイドアナウンスが流れたわけだ。
だからアビスの方でログインしたわけじゃなくて、通常のボトムダウンオンラインのままだな。
若干不便だが、俺以外の二人に合わせるためには仕方ない。
「カッカッカッ!
今日は大所帯ではないか、同時に三人以上のプレイヤーが突入してくるとはのぅ……
そこの【ジェーライト】を宿すお前は何度か見たが、この時点で我の忠臣である【忍び寄る蜘蛛糸】……【ファイヌル】の細胞を宿すものがいるとは驚きだ。
なにせ、あやつはまだ倒されておらぬ故にな。
【包丁戦士】が【蕭条たる百足壁】の深淵細胞を手に入れたことよりも驚きであるな」
ルル様は俺たちと遭遇して早々に三人で来たことや、【骨笛ネクロマンサー】が【忍び寄る蜘蛛糸】の深淵細胞を保有していることについて指摘してきた。
「ふひひっ、はじめまして【深淵域の管理者】さん……
【骨笛ネクロマンサー】ですぅぅ……
ファイヌルさんとの経緯は一先ず秘密にさせてくださいぃぃ……」
「カッカッカッ、それも良かろう。
あの忠臣ファイヌルが認めた者であれば、我も深くは聞くまい」
そうそう、俺も気になってたけど教えてくれなかったんだよな……
それは俺相手だけではなく、ルル様相手でも同じだったようだ。
あの巨大蜘蛛がどこにいたのか、どうやって知り合ったのかとか、何があったのかとか、聞きたいことは多いんだがなぁ……
「それで我にどのような用かのぅ?
これだけの人数で来て、ただ観光に来ただけというのでは拍子抜けな故にな。
精々、我が面白いと思う理由だと嬉しいのだが」
【菜刀天子】といいルル様といい、【上位権限】レイドボスたちは刺激、娯楽に飢えているからな。
俺たちプレイヤーが普段とは違う行動をするのを望んでいるのだろう。
黒幕的な存在はどんな世界でもそういうものなんだろうか。
まあ、それは置いておくとして今回ここに来たのは、【深淵奈落中層ールルナティック】のアビスシステムによる深淵種族レイドボス相手の再戦にこの二人を巻き込めないか相談したくてな。
【Bottom Down-Online The Abyss】をこの二人はインストール出来ないだろうから、深淵奈落を自由に闊歩することは難しいんだろうが深淵種族に近しいこいつらならレイドボス戦の時だけ呼び出せるように何とかしてもらえないか……という嘆願である。
俺の上目遣い気味のすがるような表情とは裏腹に、ルル様の表情は芳しくない。
何やら思案しているようだった。
「それは中々難しい相談だのぅ……
こやつらに【Bottom Down-Online The Abyss】をインストールするための許可を与えるのは流石の我でも骨が折れる。
我がそこまでの労力を割くのにお前たちは我に何を見返りとして差し出すのだ?」
「み、見返りですか!?
いや~、私に差し出せるのはこの身体くらいしかないですよ!?」
こらこら、勝手に身体を差し出そうとするな!?
簡単にルル様相手にアバターを譲るようなことをしたら、その後どうなるのか想像もしたくない。
既にジェーライトに寄生されているボマードちゃんはその辺の感覚が麻痺しているのだろう。
「ふひひっ、ボマードさんの場合は【失伝秘具】とかありますよねぇぇ?
それではダメですかぁぁ……?」
「【失伝秘具】【天地照堕盾】か……
あれも悪くはないが、我を動かすにはちと掛け金が足りぬのぅ……
あれに加えてまだ何か出してもらわねば、割に合わぬというものだ」
【失伝秘具】よりも追加パッチの方が価値が上ということか……
これは中々厳しいぞ!?
俺も【失伝秘具】は何個か持っているが、セット運用前提のものや種族転生に関わるものなので容易に差し出せないからな。
しかもあの包丁や【クロックギア】も失ったばかりだから、セットで手に入れた鍵と本を手に入れたとはいえ手持ちの数はプラスマイナス0だ。
「【失伝秘具】を我に渡すことでこの【包丁戦士】と同等の権利を得たいのであれば、せめて最低でも3つ……性能が次第ではもう少し数を集めて持ってきて欲しいのぅ……
それでも、正規手段で【Bottom Down-Online The Abyss】を手に入れた【包丁戦士】よりは制約が課せられるとは思うがな」
俺が先行で手に入れたからこそ実行できる裏口入学と言ったところか。
この深淵奈落の先のことを知っていなかったら交渉すらしようがなかったから、俺が頑張って深淵奈落ルートを拡張し続けた甲斐があるってもんだ!
……で、お前たち。
ルル様に渡せる【失伝秘具】ってあるか?
「私はさっき言われましたけど【失伝秘具】【天地照堕盾】しか持ってないです!
いや~、力不足ですみません……」
「ふひひっ、あてぃしは1つだけなら出せますよぉぉ……
こう見えても色々隠し球はありますからねぇぇ……」
ボマードちゃんはまあ知っていたが、【骨笛ネクロマンサー】も【失伝秘具】を持っていたのか。
でも、出せるのは1つだけ……か。
【骨笛ネクロマンサー】は独自で深淵細胞を手に入れていたりしていたし、他にも何かあると思っていたが【失伝秘具】まで隠し持っていたとは驚きだな。
でも、これだけでは数が足りない。
「いや~、これは出直すしかないですね~!」
「ふひひっ、どうするんですかぁぁ……?」
安心しろ、俺に考えがある!
「【包丁戦士】司令官さん!?」
「ふひひっ、これフラグですよぉぉ……」
誰が司令官だ!
それと、フラグじゃない……と思うぞ?
有力なあてがあるからな!
さて、本当かのぅ……?
【Bottom Down-Online Now loading……】