707話 諦念と慣れ
さて、次に試すのは……
俺が一番問題視していた十二枚の羽だな。
狼包丁は遅延性があったとはいえ、元々イメージ通りに動かせていた。
しかし、羽については制御出来ないままこの戦闘に挑んでいるから戦いながら慣らしていくしかない。
というわけで、今まで完全に機能を停止させたままにしていた十二枚の羽……のうち一つだけ動くように意識を切り替えていく。
どれかだけ動かすというコマンドは無いので、俺の思考の裁量に依るものだけどな。
はじめから無意識でというのは無理なので、一枚だけ……一枚だけ……と強く念じてジェーライトから遠ざかるように横にスライド飛行する様子を脳内に想い描いていく。
あっ、がっ、ぐぉっ!?
無理やり一枚だけ動かそうとしかたから、バランスが取れず羽によって空中で回転させられ、その後地面をのたうち回ることとなってしまった。
心なしか、遠くに見えるジェーライトが同情するような様子を見せているようにも思えるほど惨めな転がりっぷりだった。
この羽……操作難易度高すぎるぞ……
一枚で操作が上手くいかないならこれ以上減らしようがないし、操作のコツを急に掴む……もしくは別の工夫を凝らさないとただのお飾り状態だ。
なんなら、ずっと背後に不気味な羽があるという点では気持ち的にただのお飾りの方がまだプラスだったかもしれないな……
だってこの羽、模様が何か怖いしさ……
ジェーライトが近寄り始めていることを確認した俺は、羽の操作を諦めて移動については自らの足で行うことにした。
気まぐれや緊急回避に使うくらいにして、少しずつ実戦の中の感覚を身体に刻んでいかないと身につかないだろうからな。
このまま羽ばかりに固執していてはジェーライトにタコ殴りにされてしまうので、他の技術取得がままならないという理由もある。
というわけで、思いつくカテゴリーの中で最後の試運転だ!
俺は【図書館】で封印を解除して俺のものにした【失伝秘具】の【深淵異本】を取り出した。
この本は俺のモノになった時点で小型化しており、片手で持ちやすいサイズとなっている。
珍しくユーザーに優しい変化だな。
これの使用についてはそんなに心配していないが、狼包丁のように少しだけ癖があるかもしれないから気を引き締めていこう。
【失伝秘具】の【深淵異本】は【夢幻深淵】使用中に限り、覚えている深淵種族のスキルを第二段階の状態で使用できるようになる便利アイテムだ。
第二段階の状態とは……
【魚尾砲撃】は通常自爆スキルだが、深淵細胞によって極太レーザーになる。
【阻鴉邪眼】は通常デバフサークルを1つの生み出しデメリットに右半身が動かなくなるが、深淵細胞によって2つのデバフサークルになりデメリットも無くなる。
【堕枝深淵】は深淵細胞を励起していない状態でほとんど使ったことがないから比較が難しいな……
上の例のように、俺の姿形によって同じ名前でも効果が変わった後のモノを指している。
さーて、まずは……
スキル発動!【魚尾砲撃】!
まず俺は対峙しているレイドボスであるジェーライトの必殺技、極太レーザーの【魚尾砲撃】を放つため【失伝秘具】の【深淵異本】を介してスキルを起動した。
すると俺の手にある本がひとりでにページを捲りはじめ、ジェーライトについて記載してあると思われるページで止まると黒く光始めた。
そして、その光が俺の背後にある十二枚の羽のうち二枚を取り囲み姿を変えていったのだ!
その羽は脈動する蛇や鰻のような形へと変化し、そこから粘液を地面に落としながら蠢きはじめた。
……これはいつも俺がお尻から生やしているジェーライトの尻尾とほぼ同じものだな!?
二本変化したということは【深淵顕現権限】ではなく、【深淵纏縛】基準で間違いないはずだ。
そんな粘液を垂らしている尻尾の先にエネルギーを集約し始め、飽和寸前になったタイミングで膨大なエネルギーを放出していくっ!
二本の極太レーザーとして放たれた【魚尾砲撃】は真っ直ぐにジェーライトへと向かっていくが……
【#ЖЖ####【Ж】!!!】
ジェーライトは俺の【魚尾砲撃】を見て、迎撃と言わんばかりに雄叫びを上げて同じように極太レーザーを放ってきた。
だが流石は本家本元、俺が二本放った【魚尾砲撃】を合わせたものと、ジェーライトが放った一本の【魚尾砲撃】が同等の太さとなっていた。
威力は……若干俺の方が弱いのか少しずつ押し返されてきているな。
このままだと分が悪いので、一度地面に極太レーザーを誘導して誘爆させることによって一度仕切り直しさせた。
これはあれだ、俺がよくやる包丁の腹での受け流しをスキルに流用したテクニックってやつだ!
まあ、受け流したところであの【魚尾砲撃】は俺の【魚尾砲撃】では突破できないっぽい。
さて、どうしたものかな……
今は時間がある故に、思う存分考えるのだ……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】