704話 夢幻の詳細
この自律して動いている俺の包丁だが、意識を投げ掛けてみると俺の方へとすり寄ってきた。
もちろん刃を俺に突き立てるようなことはしていない。
持ち主である俺に刃向かってくるようならワカラセてやらないといけないところだった。
そんな手間は無駄でしか無かったので助かるけど。
こっちに寄せることが出来たので今度は俺の意志で飛ばすことが出来るのかも試してみる。
それっ!
「カッカッカッ、何食わぬ顔で我を狙うとはいい度胸ではないか!
それでこそ我が見込んだ【包丁戦士】ではあるが、豪胆だのぅ……」
……しれっとルル様に狼包丁を飛ばしてみたが、飛翔する途中で触手によって巻き取られてしまった。
ちぇっ、どれくらいダメージが入るのかの指標にしてやろうと思っていたがそう甘くないか。
今までルル様に攻撃をマトモに通したことがなかったら、いい機会だったんだがな……
まあ、本目的である狼包丁が俺の意志で自由に空中を飛び回らせることが出来るって分かっただけヨシとしようか。
包丁がフリーハンドで動くのなら、俺自身は純粋に手数を増やせるってことだからな。
「我が見たところ、それだけではないようだが……
それはお前自身が確かめながら実感していくべきであろうな」
……とりあえず包丁については自律行動させられるということだけ覚えておこう。
どうせ戦闘にならないと詳しいことは分からないだろ。
次は十二枚の紫色の羽について見ていくか。
羽っぽいってことは飛べるんだろうが、どうやってやるんだろうか?
俺に直接生えているわけじゃないからいまいち感覚が掴めないが……
うわっ!?
「カッカッカッ、派手にやりおるのぅ……
天井に勢いよくぶつかりおったわ!」
ルル様のいう通り、俺は羽の制御に失敗して顔面から壁面に叩きつけられることとなった……
痛い痛いっ、何してくれるんだこの羽はっ!
包丁といい、羽といい俺の思念に影響されて動くようだが一つだけの包丁と違い、羽は十二枚もあるから勝手がまるで違う。
俺が飛びたいと思った時には十二枚全てが上昇移動を補助してしまい、超スピードで飛翔し俺が壁に叩きつけられることになったわけだ。
一枚、もしくは二枚の羽で充分な移動を十二枚の羽全てで行おうとしたらそりゃそうなるわ……
理屈の上では理解できる。
だが、実際にこれを完全制御しようとしたら相当難易度が高いぞ!?
【風船飛行士】のように並列思考が出来るプレイヤーならともかく、俺はそこまで器用に思考を分断することが出来ないからな。
「その制御をしてみせるのがお前の見せ場というものであろう。
それでも、その羽は我の翼の完全態よりも制御が簡単そうであるからな。
故に、その羽の制御が出来ねばこの先に進むことは難しいであろう」
うへー、これよりも難しいルル様の翼の完全態ってどれだけ難易度が上がるんだよ……
今はあまり考えたくないな……
「最後に【失伝秘具】【深淵異本】だが、それを経由することによって深淵細胞に効果の影響を受けるスキルが【深淵顕現権限】や【深淵纏縛】を使っている状態と同じように深淵スキルを行使することが可能になるであろう」
レイドボス産のスキル……【魚尾砲撃】、【阻鴉邪眼】、【堕枝深淵】がこれに該当するな。
【魚尾砲撃】は通常自爆スキルだが、深淵細胞によって極太レーザーになる。
【阻鴉邪眼】は通常デバフサークルを1つの生み出しデメリットに右半身が動かなくなるが、深淵細胞によって2つのデバフサークルになりデメリットも無くなる。
【堕枝深淵】は深淵細胞を励起していない状態でほとんど使ったことがないから比較が難しいな……
キリゲー由来の【鵄嘴縁断】は今は使えないし、ルル様が代行行使したことによって名前が判明した【蕭条たる百足壁】のスキル【塞百足壁】はそもそも獲得出来ていない。
あのデカブツムカデの深淵細胞は持っているのに、そのスキルを使えないから宝の持ち腐れ状態なんだよなぁ……
そしてガルザヴォーク由来のスキルも同様に獲得出来ていないが、そもそもガルザヴォークは包丁次元では【フランベルジェナイト】に転生しているからシステム的な救済が無い限りスキルを手に入れることは出来ないだろう。
【Л細胞】だけは完全にフレーバーレベルの深淵細胞となっている。
まあ、いつも使いがちな【魚尾砲撃】、【阻鴉邪眼】、【堕枝深淵】を使いたい形で使えるならこのスキル【夢幻深淵】……黒セーラー服フォームもかなり有能なスキルといえるだろう。
だが、一つだけ気になることがある。
【失伝秘具】の【夢幻銀鍵】にエネルギーを溜めることではじめて使うことが出来るスキルって説明だったが、このエネルギーはどんな換算をされているんだ?
消費量や消費スピード、溜めるための時間とかについてだな。
「カッカッカッ、そこは気になるであろうな……
我としても推測しか出来ぬが、【包丁戦士】のスペックで換算すると最大までエネルギーを溜めるのに一週間、【夢幻深淵】の持続時間は五分、そこから追加でスキルを使用することでさらに持続時間は短くなるのぅ……
お前の深度が一桁であった時の【深淵顕現権限】と似たような扱いと考えればスキル発動後は動きやすいはずだ。
ただ、特殊な場面と場所ではその限りではない。
どう考えても打破が困難と思われたあれならば夢幻エネルギーも特殊な挙動をするであろう……」
持続時間的にはそうなんだろうが、エネルギーを再充填していくまでに一週間っていうのは長いな……
奥の手とするしかないだろう。
特殊な挙動については……ルル様の言い振りから何について話しているか推測できたから今度試してみよう。
それにしても、こういうのをルル様から直接聞けたのは大きい。
この数値を自分で計測するなら何回か使った後でしか判明させられないはずだし、エネルギーの関係から何回も使えるものじゃない。
【上位権限】レイドボスに媚びを売り続けて好感度を上げた成果の一つって言ってもいいはずだよな?
これでも俺はルル様の好感度は結構気にしていたし、配慮されていると信じたいところだ。
「否定はしないが、我の目の前で言うことではないのぅ……」
ソウデスヨネ~
この我の力の一端、夢幻の力をどこまで【包丁戦士】が使いこなせるか見させてもらおうかのぅ……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】