701話 槌鍵士
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
何か不穏な気配がした気もするが、気にせず俺は俺のやるべきことをやるだけだ。
というわけでやってきました新緑都市アネイブルの拡張エリア!
ここにある【槌鍛冶士】の新工房に足を踏み入れると、出来たばかりの建物なのにも関わらずどこか懐かしい感じがした。
暑苦しい閉塞感のある場所、何かを叩きつけるような金属音が鳴り響く場所……場所は変われど居る人物が同じなら似たような趣になるのは当然か。
「ガハハ!!!
その通りだとも!!!
ワシが居るところが【槌鍛冶士】……そして【鉄血森林の森人君主】の鍛冶場となるのだ!!!
この感じ、悪くはないだろう???!!!」
この暑苦しいガチムチのおっさんは【槌鍛冶士】、俺の相棒だ。
相変わらずうるさいが、この煩さが一度失われてからだと何処か心地よく思えてくるのは不思議だな。
そして、そんな【槌鍛冶士】がいるこの場所の感じも悪くない。
前よりもバージョンアップしてるな。
過ごしやすくなった気がするぞ。
「そうだろう!!!
この新緑都市アネイブルの拡張エリアに割り振られた新たなリソースを、高濃度で集めるように設計したから当然だがな!!!
しかもプレイヤー規格のアバターが心地よく過ごせる部分までで抑えてあるからなおのことだろう!!!」
器用なことするよな~
普通のプレイヤーだったらそんなこと出来ないとは思うが、俺は建築関係の生産についてはからっきしなのでどのくらい凄いことなのかまでは分からない。
生産プレイヤーの立場が低めに見られるのは戦闘系プレイヤーと比較して、こういう不透明な基準が多いからなんだろう。
分からないことを評価するのは実はかなり難しかったりするからな!
……それで、今回俺がここに来た目的だが。
「分かっている分かっている!!!
深淵の禁書の封印を解く鍵だろう!!!
当然出来ているぞ!!!
ワシにかかればこんなものだ!!!」
そう言って【槌鍛冶士】が俺に手渡してきたのは銀色に輝く鍵だった。
奇妙なアラベスク模様に表面が覆われた、長さが5インチ近くある大きな銀の鍵がずしりと俺の小柄な手にのし掛かると思わず少し手が下に持っていかれてしまった。
思ったよりも重いなこの鍵……
この鍵……【槌鍛冶士】が特別に作り上げただけあって、不思議な力が感じられる。
この感じはあの包丁を思わせる感じだが……おそらくは【失伝秘具】に相当するものに仕上がっているのだろう。
万全を期したであろう【槌鍛冶士】が半端なものを作り上げるとは思えないからな。
それくらい【槌鍛冶士】の腕前を誰よりも信頼しているってことだ。
「この鍵は【失伝秘具】【夢幻銀鍵】というものだ。
主な用途は深淵の禁書の封印を解除するためのものだが、解除した後にこの鍵がどうなるかまではワシにもわからん!!!
何せ、ワシは深淵の力について詳しいわけではないからな!!!
あくまでも、封印の構造から逆算してこれを作り上げただけであって具体的な仕組みまでは分からんからな!!!
言ってしまうのなら、設計図通りに作った……というのが正解だな!!!」
ぶっちゃけるな~
まあ、それくらい言い切ってくれた方が変な不信感を抱かなくても済むし助かるけど。
ルル様とか【菜刀天子】とかは知っていても「なんとかするだろう」「言わない方が面白い」みたいな雑なフリをしてくることがあるからな。
先に言ってくれたらいいものをワザワザ勿体ぶるのは強者の特権か何かなんだろうかと邪推してしまったことも度々あったりする。
その点【槌鍛冶士】はプレイヤー目線で教えてくれるからな、信頼できるというものよ。
「詳しいことはワシには分からないが、使えることだけは保証しておくぞ!!!
なんなら【深淵域の管理者】に直接確認してみてもいいぞ!!!」
いや、止めておこう。
【槌鍛冶士】が保証してくれるのなら、それだけで充分だ。
おそらく普段は全く使わないようにしているであろう【上位権限】も使ってくれているくらいだ、【槌鍛冶士】の腕前も含めて信用できる。
「そう言ってもらえると鍛冶士冥利に尽きるな!!!
ガハハハハハ!!!」
俺が【槌鍛冶士】を褒めちぎると、この暑苦しいおっさんは豪快に笑い始めた。
うるさいぞ!
笑いすぎだ!
……いくら聞き慣れているからと言っても、やっぱり煩かったので包丁を突き刺して死に戻りさせてやった。
普通のプレイヤーとは異なる赤色の粒子が飛び散っていく様子はいつ見ても綺麗だな。
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