700話 【検証班長】の1日
「【検証班長】しゃん~、ジョブ【メイジ】で【渦炎炭鳥】を使ったときの飛行距離と威力の関係のデータが取れたのら!
今回も大変な資料だったから、はやく【釣竿剣士】ちゃんをストーキングして癒されたいのらぁぁぁ~」
「思ったより早くデータが集まりましたね。
【ペグ忍者】、ご苦労様。
それと、【釣竿剣士】さんに迷惑がかかるし、ストーキングは止めて欲しいんだけど」
「嫌なのらよ~
ぐふふふふ、はやく会いに行きたいのら~」
ボクは【検証班長】、これでもクラン【検証班】のリーダーを務めているんだよね。
ちなみに、いつも白衣を来てプレイしているのは何故かと聞かれることが多いけど、気が引き締まるからだよ。
物事の検証をするには、どんな細かいことでも見逃さないようにしないといけないから大変だ。
そして、今データ報告をしに来たのはピンク色の長髪をした忍者の格好の女性プレイヤーの【ペグ忍者】だ。
幼い外見のアバターを使用しているプレイヤーだけど、中身は多分ボクよりも年上……かな?
ボクの洞察力に鈍りがなければ合っていると思う。
変な語尾や怪しい挙動を目を瞑ると、仕事も細かいしテキパキ動いてくれるからこういうことに慣れている社会人だと思っているよ。
そんな【ペグ忍者】が持ってきた資料を確認すると、細かく数値管理された図と解説が記されていた。
「なるほど……確かに至近距離で【渦炎炭鳥】を使った方が威力は高いけど、このデータ通りなら威力と距離を踏まえて効果的なのは2メートルから3メートルのようですね。
本当は10メートルくらいで効果的な運用できたらいいんだけれど、【メイジ】は基本ジョブだからこのレベルが限度かな」
「【ペグ忍者】もそう思うのら!
でも、【検証班長】しゃんと【ドライバー修理人】しゃんが【テイマー】から派生させた【パイロット】みたいに別方向に変わる可能性もあるのらよ~」
「ジョブ【パイロット】は正統な上位ジョブというよりは派生系に近いからね。
【テイマー】の上位ジョブだと、基本性能がそのまま上がるのかもね」
ボクはユニーククエストで【包丁戦士】さんに勝つために【パイロット】に就任して【邪神像】をテイムしたから【テイマー】についての検証はまだまだ出来ていないんだよね……
【ペグ忍者】に【テイマー】を任せるつもりも無いから、他のメンバーに任せることになりそうです。
「【ペグ忍者】の報告はこれくらいでいいのら?
そろそろ【釣竿剣士】ちゃんのストーキングに行ってくるのらよ~!!!」
そう言いながら【ペグ忍者】はヨダレを垂れ流して走り去っていきました……
あの変態性は何とかならないかなぁ……
通報しないでくれている【釣竿剣士】さんには本当に頭が上がらないですね。
【ペグ忍者】が去ってから資料を見返したり、他のメンバーが持ち込んできた情報を纏め直していると唐突に【渡月伝心】でメッセージが飛んできました。
……これは、【風船飛行士】さんだね。
用件は「とりあえず渓谷エリアまで来てくれwww」という具体的な内容が分からないものでした。
とりあえずこのまま【風船飛行士】さんが教えてくれるとは思えないので向かってみようかな。
「よく来たな【検証班長】さんよぉwww
この前のユニーククエストではいいところまで行っただけに残念だったなwww
やっぱり【包丁戦士】の単騎性能がずば抜けてるから仕方ねーけどwww
それでも、悔しく過ぎてワロエナイんだがwww」
【風船飛行士】さんは出会って早々にユニーククエストでの敗北のことに触れてきました。
もう済んだこととはいえ、人数的には有利だった機戒兵側が負けてしまったのは【包丁戦士】さんの奇策だったり個人の戦闘能力で押し返されてしまったことが大きな原因だったから思うところはあるんだろうね。
「ボクも同じですね。
奥の手の【タウラノ】や【邪神像】を使って、【ペグ忍者】を控えさせていてなんとか相討ちに近い形でしたから。
【上位権限】レイドボスの【大罪魔】を時限つきといえ引き連れてくるのはボクでも読めなかったよね。
突拍子もないことをやらせるなら【包丁戦士】さんほどの適任者は居ないよ」
あの脈絡もない行動力は【包丁戦士】さんと出会う前のボクの心臓が撃ち抜かれるほどのものだからね……
今回のユニーククエストもせっかく念入りに作戦を立てていたのに、それを真横から倒してくる感覚でした。
あの可愛い顔とは真逆の、どす黒いことをやってのけるのはもはや流石としか言いようがないです。
「オレもヤンチャなことはやってるつもりだったが、【包丁戦士】の歪な行動力には勝てる気がしないンゴねぇ……
顔だけは良いんだが、あれについていけるやつなんていないだろwww
ついて行けなくなるか、切り捨てられるのがヲチってはっきりワカンダネwww」
おや、【風船飛行士】さんも同じことを考えていたようです。
【包丁戦士】さん、アバターが小柄で顔が可愛いのでついつい見とれてしまうこともありますけど、腹の中に飼っている本性は毒虫のように危険なものですから危ういです。
「チュートリアルの時にあいつにキルされたのは未だに忘れないからなwww
なんで初手でプレイヤーキルするのか理解不能ンゴwww
……という話は置いておくとして、ここからは真面目な話だ」
「真面目な話ですか?」
急に【風船飛行士】さんの雰囲気が変わりましたね?
これは【オメガンド】戦で少しだけ見せた真剣なモードでしょう。
おちゃらけたアバターの見た目とのギャップが、より真剣さを引き立てていますね。
そんな【風船飛行士】さんがボクに持ちかける話……少し怖いですが興味がありますね。
「冒険者ギルドの冒険者ランクを上げた先でユニーククエストが発生したんだ。
コイツの攻略を【検証班】と【冒険者の宴】の合同でやらないか?
少々厄介な案件で、オレのクランだけでは手に負えそうにないからな」
ユニーククエストのお誘いのようですね。
これは嬉しいですけど、気になることがひとつあります。
「【トランポリン守兵】さん……クラン【お屋敷組】と【釣竿剣士】さん……クラン【釣り堀連盟】は参加されるのですか?」
「いや、今回あいつらは誘っていない。
どっちも敵対する可能性のある【包丁戦士】に流れる可能性があるからな」
「それはボクも同じでは?
これまでのレイドクエストでボクと【包丁戦士】さんは常に同席していましたよ」
どんな根拠を持ってボクを誘ったのか少し深掘りしてみましょうか。
正直このまま協力してもいいんですけど、飄々とした【風船飛行士】さんがわざわざ真剣にボクに話しかけているので、ここで抜き取れる情報を抜かせてもらいましょう。
ボクが立ち回るためにも、不足しているものはどんなものでも集めたいですからね。
「何、単純なことだ。
お前は【包丁戦士】に執着しているだろ?
……いや、肯定も否定もしなくてもいい。
同じ男だし、それにオレは良くも悪くも場の風を感じ取れるセンスがあるから分かってしまうんだよ。
普段のオレの態度はそこを誤魔化すための一つの方便さ」
……っ、あの戦いの最後のボクの発言を聞いていたわけでもないのにそれに気づいていたんですね。
【風船飛行士】さん、思っていたよりもデキる人みたいです。
頭脳がキレるのは前から分かっていましたけど、人の機微も詳しく感じられるのなら常に全力で動いていたらもっと強いのでしょう。
でも、それが出来ない事情もあるんだろうね。
オメガンド戦のときは【包丁戦士】さんが一時的に払拭させていたようだけど、あくまで一時しのぎでしか無かったみたいだ。
「ユニーククエストで【検証班長】を誘った理由は、ただ一つ。
【検証班長】としての頭脳よりも、【包丁戦士】と戦う上で一人の男として信用できそうだったからだ。
今回のユニーククエストをクリアできたら【包丁戦士】へのカウンターの手札を一枚増やせる見込みがあるからな。
これで納得できたか?
これでもオレはかなり腹を割って話しているつもりだが、これで信用できなかったらこの話は無かったことに……」
「いえ、心配ありません。
その話、乗らせてもらいましょうか!
ユニーククエストも気になるのもありますが……【包丁戦士】さんに今度こそ勝ちたいからね」
こうして、ボクと【風船飛行士】さんの間で密約が交わされることになりました。
さて、面白くなってきましたよ!
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700話に到達しました!
ここまで見てくださった方々ありがとうございます!
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