697話 VR竜人(挿し絵あり)
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は【フランベルジェナイト】にでも会いにいくか!
……というわけでやってきました渓谷エリア、【地蒜生渓谷メドニキャニオン】!
【フランベルジェナイト】はここで対人戦の練習をしていたようだった。
俺がほとんど使うことのない決闘モード利用中の柵が張り巡らされているから、この戦闘に俺は干渉できなさそうだ。
「フェイちゃんを守るために俺はもっと強くならないとっ!」
「意気込むのはいいけど、意識を逸らして私の攻撃を甘く見られたら困るヨネ~」
「【短剣探険者】頑張ってねっ!
出番が来るまで後ろから見てるよっ!」
【フランベルジェナイト】と対峙しているのはクラン【冒険者の宴】に所属している双子プレイヤーの姉……【短剣探険者】だ。
手に持った短剣でフランベルジェを払いながらコンスタントに突きを入れたり、切り込んだりしているようだ。
チュートリアル武器のリーチから判断するなら【フランベルジェナイト】が有利だろう。
だが、一気に距離を詰めることが出来るのならその相性は逆転するだろう。
「ほいっ、そいっ!」
現に【短剣探険者】はそのリーチの差を補うように立ち回れているので、互角の戦いを繰り広げている。
【短剣探険者】が距離を詰め、そこから引き離すように【フランベルジェナイト】が剣を振り抜いて距離を離す。
過程に多少変化はあれど、大体そんな感じになっている。
「あっ、【包丁戦士】さんどうもっ!
姉が【フランベルジェナイト】さんの訓練相手になっているんだけど、接戦だよねっ」
俺に気がついた男の娘プレイヤーである【ブーメラン冒険者】が声をかけてきた。
せっかくだし一緒に観戦するか。
「イクヨっ、スキル【竜鱗図冊】っ!
ability【天手古舞】っ!」
目の前の女の腰に提げられていた巻物がぶわっと広がり帯のように伸びていく。
そしてその巻物から六角形の竜の鱗のような物が飛び出てきて【短剣探険者】の短剣と身体を包み込んだ。
これがクラン【冒険者の宴】の得意技【竜鱗図冊】だ。
竜人に種族転生した状態でこれを使うとさらに能力向上値が上がるので、この状態の【短剣探険者】を止めるのはそこらのプレイヤーでは困難だろう。
「そっちがその気なら俺も使わせてもらう!
スキル発動!【竜鱗図冊】っ!」
それに対抗するように【フランベルジェナイト】も巻物を取り出して鱗を発生させた。
それを纏うことによって【フランベルジェナイト】は邪悪竜人としての力の一端を解放していく。
互いにスキルを発動させたが、それだけだったら【フランベルジェナイト】の方が出力的には上だったはずだ。
深淵の竜【ガルザヴォーク】の力を潜在的に秘めているからな。
だが、その出力の差を埋めているのが【短剣探険者】が【竜鱗図冊】と一緒に発動していたability【天手古舞】だ。
パワーなどを飛躍的に上昇させる【天手古舞】によって短剣の威力は、木が倒れてきた時の衝撃に匹敵する重みを持って【フランベルジェナイト】へと襲いかかっているのだ。
「イクヨイクヨイクヨ!
これが私の連続重撃ダヨ!」
「くっ、ability込みだと流石に俺が不利かっ!
だが、フェイちゃんの手前訓練であっても俺は負けるわけにはいかないんだ!」
【短剣探険者】が突き出した短剣による一撃を、【フランベルジェナイト】は地面にフランベルジェを突き刺しそれを軸にして回転することで回避しそのままフランベルジェを引き抜いた。
そして、【短剣探険者】の右太ももへと切りつけた。
【フランベルジェナイト】はダメージを与えた後に追撃しようとしたが、【短剣探険者】はそれを上手く回避して一気に距離を引き離して仕切り直しに成功したようだ。
この技と技がぶつかり合う攻防……最高だな!
「これは痛いダメージを食らっちゃったヨネ……
……こうなったら!
スキル発動!【波状風流】!」
「俺相手にそのスキルを使うか。
いいぞ、正面対決といこうか!
スキル発動!【波状風流】!」
お互いがこの局面で同じスキルを起動してきた。
それぞれスプリンクラーのようなものを設置し、そこから見えざる風の刃を相手に向かって飛ばしていっている。
破壊されるまで何度も風の刃を放っているからか、空中でお互いの刃がぶつかり合うこともあったがそうならない刃への対応は……
【短剣探険者】の場合は短剣を手前に出しながらの一か八かの突撃のようだ。
急所だけを守り、他へのダメージは許容する戦術だな。
俺もよくやる。
それに対して【フランベルジェナイト】は……
「ここと、ここだな」
手に持ったフランベルジェを使い、あたかも風の刃が見えているかのように次々と切り落としていっているのだ!
【オメガンド】討伐の時にもこの技術を見せていたが、【フランベルジェナイト】は【波状風流】系統の技をほぼ完璧に見極めることが出来るらしい。
こんな差が生まれてしまったらダメージレースでは【短剣探険者】に勝ち目はない。
そのまま手負いの【短剣探険者】は【フランベルジェナイト】に切り捨てられて、戦闘が終わったことを証明するようにバトルフィールドが解除されたのだった……
「俺はフェイちゃんのためにももっと、もっと強くならないとっ!!!」
こいつはどこまで強くなるつもりなんだろうか……
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