694話 海の支配者
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日は海の上を進んでいく方法が失敗したな……
無人島からの脱出方法の中だと正規ルートに一番近いと思ったんだがな……
「脱出方法が間違っているか、脱出のためのフラグが立っていないのでしょう。
別のルートを辿るのか、あるいはクエストのようなものが脱出に関わっているのかもしれませんわね……」
俺たちのようにここの散策もまともにしないで、初手で海を越えようとする漂流者ってレアケースだろうからな……
どちらにしても然るべき行動をとっていないのは間違いない。
「ではさっそく、二人で歩いて見ますわよ!
ここからですと【渡月伝心】も届かないようですし、クランメンバーたちが心配しているに違いありませんわ!
早く脱出手段を見つけなくてはなりませんわ……」
ここに漂流してから既に何日か経っているからな……
俺がログインしたら包丁次元のプレイヤーにアナウンスが流れるから失踪を疑うやつはいないはずだが、【トランポリン守兵】お嬢様はもしかしたらボトムダウンオンラインを引退したと思われてもおかしくはない。
悲しいことに、いつも姿を見せていたプレイヤーがぽつりと居なくなることはオンラインゲームならよくあることだからな……
「悲しいこと仰らないでくださいまし?
そう思われないためにも早く脱出するのですわ!」
そう言いながら張りきって歩き始めた【トランポリン守兵】お嬢様。
体格の差もあってか、同じペースで歩こうとすると俺が少し置いてかれそうになる。
……誰がチンチクリンだ!
「誰もそんなこと言っておりませんわよ……?
あなた様はたまに不可解なことを仰られますわよね?」
それはよく言われる。
これは、そういうものだと思って気にしないでくれたらいいぞ!
さて、周りに見えるので一番多くあるのが南国風の木だな。
木の実もなっていて、ヤシの木っぽい。
葉が少ない代わりに、一つ一つの葉が大きいので見ていて迫力もあるぞ!
「ここはやはり普段ワタクシたちが活動しているエリアとは植生が違いますわね?
こちらの素材を持ち帰れた場合、生産プレイヤーの方々はお喜びになられますわよ!」
木にしても植物にしても変わったものが多いから、これらを使えば今まで作れなかったものも作れるようになるかもしれない。
そう考えたらここは宝物庫のようなものだな。
「ですが、植物以外にこれといったものは見つかりませんわね……
せめて脱出の手がかりになるようなものがあればよかったのですが、そう上手くは行きませんわね……」
ゲームの中とはいえ、簡単に脱出できるようには作られていないだろう。
……いや、むしろこのプレイヤーに人権のないゲームだからこそ真っ当な手段で出られるとは思えない。
下手するとこのまま何を見つからない可能性もある。
……そんな風に考えていた時期が俺にもありました(広告並感)。
しばらく探索を続けていたら、この無人島エリア(仮名)にあった砂浜を歩いていたら俺たちが漂流した島の真逆の砂浜に埋まっている少女がいたのだ。
ツーサイドアップに纏められた赤髪が砂浜から見えたときはギョッとしたが、砂の中から引き抜いた少女が普通に息をしていたのでホッとした。
ここで活動している貴重なやつを逃したく無かったからな、ただのオブジェクトだったりしたら肩を落としていただろう。
出てきた少女は青色の長袖の服の上に赤色のノースリーブ、青色のスカートという派手な服装をしていた。
とんちんかんな配色はまるでピエロのようにも思えた。
だが、それ以上に目立ったのはまるで紅葉のように紅い……カニのハサミのような形状をした羽を生やしていることだ。
これは少なくとも底辺種族というわけではないという証明となる。
「……当方を引き摺り出すとはいい度胸カニ!」
カニ!?
これまた変な語尾のやつが出てきたな……
【ペグ忍者】といい、このゲームではキャラ作りのために無理矢理な語尾をつけるやつがたまにいるからな……
「それであなた様は2つ名などありますかしら?
もしよろしければ教えていただけませんこと?」
俺が変な語尾に驚いている間に【トランポリン守兵】お嬢様はこのヘンテコ少女に名前を尋ねているが、こいつに2つ名はないだろうな……
何故そんなことがわかるのかというと、対面したら何となくこいつの正体が分かってしまったからだ。
「そんなに当方の正体が知りたいカニ?
それなら見せてやるカニよ!!!」
そういうと、目の前の少女の姿が膨張し体長七メートルほどの巨大な真っ赤なカニの姿へと変貌したのだ!
やはり、こいつの正体は……
【Raid Battle!】
【絶深海の総座長】
【???】
【???】【上位権限】【???】
【ーーー海域に適応していないため開示拒否ーーー】
【ーーー海域に適応していないため開示拒否ーーー】
【ーーー海域に適応していないため開示拒否ーーー】
【ーーー海域に適応していないため開示拒否ーーー】
【ーーー海域に適応していないため開示拒否ーーー】
【ーーー海域に適応していないため開示拒否ーーー】
【ーーー海域に適応していないため開示拒否ーーー】
【ーーー海域に適応していないため開示拒否ーーー】
【レイドバトルを開始します】
ここの【上位権限】レイドボスだったというわけだ!
俺と【トランポリン守兵】お嬢様は突如として巨大化したカニが現れた瞬間に押し潰されて、なす術もなく光の粒子となり死に戻りすることとなった……
当方に干渉するなんて酷いカニ!
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