689話 闘技場兎虎
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
【図書館】の本のロックが解除できるようになるまで時間がかかるようなので、しばらく時間潰しでもしておこう!
というわけでやってきました新緑都市アネイブルの闘技場。
実は俺が闘技場に来ることってほとんど無いんだよな。
俺はプレイヤーキラーだから、公式の機能である決闘モードや決闘を行うための施設を利用してではなく、あくまでも野良で辻斬り感覚でプレイヤーたちを屠っていきたい気持ちが強いからな!
闘技場では決闘モードで、お互いに一定のルールを守って戦うことが前提になっているし公式のイベント以外ではほとんど来ていないのだ。
そんな闘技場では、やけに大きな声援の中行われている試合があった。
バトルフィールドを見てみると、そこで戦っていたのは……
「……まだまだ、あまい。
それは、わたしに、とどかない!」
紫色のチャイナドレスで身を包んだ両手に鉤爪を装着している無表情な女……ミューンが活躍していたのだ!
えっ、【菜刀天子】討伐戦で倒したんじゃなかったかって?
あれはあくまでも聖獣レイドボスたちの意識だけを憑依させた偽の肉体のようなものだった。
本体はそれぞれ残ったままなのだ。
だってあの場にいたオメガンドも冒険者ギルドでピンピンしていたからな。
ミューンが残っていても何ら不思議な話ではないだろう。
むしろ、【菜刀天子】が倒されたことによって礼拝所からの行動制限が解除されて、本来のミューンのジョブである【アリーナチャンピオン】の基となっている闘技場で楽しんでいるようだった。
【アリーナチャンピオン】の権限は俺も一時的に使えるが、レイドボスとしての力を失ったはずのミューンも使おうと思えば使えると言っていた。
つまり、プレイヤー規格で使える能力はある程度残っているんだろうなぁ。
そんなことを考えていたら、戦闘を終えたミューンが俺に気づいて近寄ってきた。
「……【包丁戦士】、めずらしい。
わたしと、たたかう?」
出会って早々に戦闘をご所望とは、流石血気盛んな戦闘狂と色々なやつに言われているだけあるな。
ミューンの戦闘意欲は俺のプレイヤーキル意欲と似たようなものだろうが、同一ではない。
ミューンは戦って満足できれば欲望を満たせるだろうが、俺は戦うことそのものよりもプレイヤーをキルする瞬間が一番快楽を得られるからな!
戦闘狂と俺を一緒にされても困るぞ!
「……でも、【包丁戦士】と、わたしは、いっしんどうたい。
これ、けっていじこう」
ぐぬぬ、この無表情娘否定しにくい要素を持ってきたな……
そう言われると反論しようにも、しようがなくなってしまう。
話は変わるが、新緑都市アネイブルのエリアが拡張されたんだがお前に何か影響があったりするのか?
お前はこの新緑都市アネイブルのレイドボスだったから、身体とかに変化が現れているかもしれないと思ったが。
ミューンに会ったのは偶然だが、ちょうどいいタイミングだし聞いておこう。
「……そういえば、むねが、すこしおおきく、なった」
あぁん?
それは俺を煽っているのか?
よりによってその話題を振ってくるとはなぁ!!
……と、挑発にのせるのがミューンの狙いなんだろう。
こいつは俺と戦いたいらしいからな。
逆上させて戦闘に持ち込もうとしたんだな。
いつものパターンだからそう簡単にはのってやらない。
でも、悔しいぃぃ!!!
俺は断崖絶壁のような自分の胸と、ミューンの豊満な胸部装甲を見比べて歯を食い縛りながら怒りが溢れる寸前で止めた。
俺が落ち着いたのを見計らって、ミューンは止めていた言葉を再度紡ぎ始めた。
「……それとは、べつに、かわったことある。
じつは、れいどぼすのちからを、いちじてきに、とりもどせるようになった」
マジかよ!?
レイドボスの力を取り戻せるって……つまり(廻)がついた状態で復活できるようになったってことか?
「……それで、あってる。
わたしが、れいはいしつのかんりを、していたから……
いちばん、えいきょうをうけた」
そういえばあそこにある聖獣の像をミューンは定期的に掃除していたな。
基本的にあそこから出られなかったが故に、アネイブル拡張と【菜刀天子】の討伐、そして像に秘められた再現能力の影響を身近に受けることになったんだろう。
でも、そのわりには今まで通りのプレイヤー規格の身体と力を使ってこの闘技場で戦っていたのはなんでだ?
せっかくレイドボスの力を発揮できるようになったのに。
俺は疑問に思ったので聞いてみることにした。
「……せんとうは、ちからがおなじくらいが、いちばん、たのしい。
このからだなら、ぜんりょくをだせないから、ほんきでたたかえる!」
おおぅ、縛りプレイってわけか流石は戦闘狂だな。
戦いを楽しみたいからこそ自分で出せる力の上限にリミットをかけるというのは、どんなゲームでもよほどのマニアじゃないとやらない。
俺は勘弁だが、ミューンがやるのなら納得だな……
【Bottom Down-Online Now loading……】