685話 貯蓄の包丁1
「あっ、狂人が戻ってきたぞ!」
「狂巫女様~!最高~!」
「【包丁戦士】、やはりトッププレイヤーと呼ばれるだけあってしぶといな?」
「ボマードちゃんはいないのか、残念過ぎる……」
俺が包丁次元の拠点の中央にある【神殿】の目の前にたどり着くと、既に作業を終えた生産プレイヤーたちがわらわらと俺の周りに群がりはじめた。
誉められているのか貶されているのかよく分からない声援のなか迎えられたが……
まあ、俺の日頃の行いが反映された声たちって感じだな。
「そんなことより、早く【神殿】の中心部に行ってくれよ!」
「【失伝秘具】なんて、俺たち持ってなかったから待ってたんだ」
「いや、持ってる人の方が少ないわよね?」
……そんなに多くはないだろうな。
持っているのは運がいいか、一連の流れに組み込まれてしまったプレイヤーくらいだろう。
少なくともアクティブにフィールドを移動しているか、親プレイヤータイプのレイドボスと深く関わりを持っていないと見つけられないシロモノだ。
ホイホイ持っているやつが現れたら驚いてしまう。
そんな生産プレイヤーたちを伴いながら俺は【神殿】の中に入ろうとしたが、後ろを振り返ると誰も入ってこようとしなかった。
……どうした?
お前たち来ないのか?
疑問に思った俺は10人の生産プレイヤーたちに声をかけたが、俺の声を聞いたあいつらの表情からすると答えは……
「【包丁戦士】も気づいてるんだろ?
そろそろ来るぜ【エヌレッド=シャーク(廻)】が」
「私たち生産プレイヤーだし、そんなに戦えるわけじゃないけど……」
「一秒でも時間を稼いでやるさ」
「そろそろ俺も戦闘で身体を動かしたくなってきたし、ちょうどいいぜ!」
「狂人に恩を売るのも悪くないか……」
「狂巫女様へ捧げる愛!
受け取って~!」
……わかった、お前たちの気持ち受け取っておくぞ。
俺は10人の生産プレイヤーたちに見送られながら、【神殿】の最奥へと足を進めていった。
「ぐぉっ……」
「なにくそ!」
「うおおおお、負けるかああああ」
勇ましい声や情けない声が聞こえ始めたな?
戦闘も長くは持たないだろう。
さっさと行くとしよう。
【神殿】の奥には巨大虫眼鏡を核にシンボル素材である【エルダーレッドフィッシュの頭】を祭壇に見立て、【エルダーレッドフィッシュの臓器】を供物として捧げてあった。
……冒涜的過ぎる見た目だな!?
【エルダーレッドフィッシュ】の頭が自分の臓器を食べようとしている構図になっているから、普通に考えたらこれを作ったやつ頭おかしいだろ……と思うだろう。
俺ですらそう思ったからな……
まあ、深淵種族が勢力を巻き返しつつある包丁次元の【神殿】の祭壇としては相応しいかもしれないが。
ルル様の棲み家である【深淵奈落】の横穴も骸骨みたいなのが散らばっていたし、それも踏まえるとこの祭壇の完成度は高いと言えるだろう。
そんな祭壇に【失伝秘具】を使用する必要があるが、こんな形状を見せられたら使い方なんて一つだろ!
俺は直感的に閃いた方法で【神殿】の完成を遂げることにした。
まず俺は腰に提げていたチュートリアル武器である包丁の形状を変化させていく。
姿を変えた包丁は、様々な要素を混ぜ込んで出来上がった大剣サイズの中華包丁と成った。
これは【失伝秘具】の【大深罪鉄林包丁】だ。
【槌鍛冶士】が作り上げた大罪と深淵と森人の力を絶妙に配分した対【菜刀天子】決戦兵器だったが、ここでもう一度使わせてもらうぞ!
俺の予想と予感が合っていれば、次元戦争後の俺の進路を左右する可能性があるから【八卦深淵板】ではなくこちらを選んだ。
あと、もう一つの理由は……これだぁぁぁぁぁぁ!!!!
俺は【大深罪鉄林包丁】を祭壇に捧げられている供物を上から突き刺すようにして振り下ろし、【エルダーレッドフィッシュ】の頭を貫通させるように串刺しにした。
まるでダイナー式の店舗で提供されるハンバーガーの如く、大胆な貫通を見せた【大深罪鉄林包丁】だったが祭壇や供物から赤色の光が発され、それが【大深罪鉄林包丁】へと吸収され始めた。
今顕現させているアルベーの眼で力の流れを詳しく観察してみると、【エルダーレッドフィッシュ】の素材たちから【大深罪鉄林包丁】へと内包しているエネルギーの移動が行われているようだった。
エネルギーの移動先である【大深罪鉄林包丁】だったが、元々保有していたエネルギーを【菜刀天子】討伐総力戦でほとんど消費しきっていたためエネルギーが膨張し過ぎることなく保有できるようになっていた。
だからこそ【大深罪鉄林包丁】がちょうどいいと思ったってわけだ。
まあ、そういうわけでこれでクリアだあああああっ!!!
……!!!
【Bottom Down-Online Now loading……】