681話 シャークトルネード19
「私も行きますよ!
いや~、こういう時のための爆弾投げです!」
ボマードちゃんは【深淵顕現権限】の生け贄を用意出来ないので、自然由来の即席爆弾を【エヌレッド=シャーク(廻)】の周りに投げながらロープ使いのモブプレイヤーに運ばれている。
爆弾が設置されたところを【エヌレッド=シャーク(廻)】が通ると、その衝撃で爆発し僅かではあるがダメージが入っていっている。
……あの爆弾は【レッド】系統の素材で作ったやつだな?
【レッド】系統の素材で作ったアイテムは、【レッド】系統のモンスターに対して特殊な効果が発揮されるって少し前に検証して分かったから【エヌレッド=シャーク(廻)】に対しても有効だ。
爆弾に付与された効果はダメージの上方補正だったはずだから、【レッド】系統のレイドボスである【エヌレッド=シャーク(廻)】にも多くダメージが通っているのだろう。
そんな爆弾を投げるボマードちゃんをチュートリアル武器のロープで背中に固定したモブプレイヤーは、ひたすらに走り回っている。
普通ならこのロープ使いのモブプレイヤーが自分で投げた方が手っ取り早い気もするが、ボマードちゃんは爆弾の威力を向上させる称号を獲得しているからな。
数に限りのある爆弾を有効活用するためにはボマードちゃんに投げてもらわないというジレンマがあったのだが、いつの間に他のプレイヤーとそんな連携をする段取りになってたんだ……
「この人はアイドルの私のファンですからね!
いや~、日頃の行いが良いから戦場で活かされるっていうことですよね!
私、可愛いですし!」
急にナルシストぶってきたなこの爆弾魔……
可愛いのは否定しないがなんかムカつくな。
そんなことを思いながらも俺は天子の翼を使って上空から何度か強襲を仕掛けている。
【菜刀天子】を倒してから神度が大幅に上がったので長時間維持できるようになったこの翼は使い勝手がかなり良くなった。
旋回しながら【エヌレッド=シャーク(廻)】の移動方向と垂直になるように飛行し、すれ違いざまに包丁で切り込んでいく。
地に足をつけていないので深い切り傷には出来なかったが、背負っている【レッド】素材で作られ【エルダーレッドフィッシュ】の素材でカスタムし直したランドセルによる攻撃力バフや、俺が事前に食べておいた【エルダーレッドフィッシュ】のマリネによる固定ダメージ追加バフによって見た目以上のダメージは与えられているはずだ。
この辺のバフはプレイヤー相手に一切発動しないっぽかったから、ようやく最大活用できるってわけだな!
上空に逃げようとした時には俺が、地上では【釣竿剣士】をメインで、補助でボマードちゃんによる爆撃が行われている。
そして、その合間に残りのモブプレイヤーたちの攻撃や防御が入ってきている。
これまでのレイドボス討伐総力戦に比べると圧倒的に小規模での戦いだが、それでも何とか戦えている。
「スキル発動!【渡月伝心】だ!」
「スキル発動!【渦炎炭鳥】よ~」
片手剣使いが【渡月伝心】でダメージ強化のオーラを纏い始め、フリスビー使いが【渦炎炭鳥】による火の玉を放ち始めた。
それぞれジョブチェンジで【ウォーリア】と【メイジ】のやつがいたみたいだな。
まだ無職のプレイヤーが多い中で、ここまでジョブチェンジしたやつが残ってくれたのは心底助かるな。
より汎用的なスキルを使えるやつは戦力として頼りやすいし。
攻撃のバリエーションが増えたことにより、【エヌレッド=シャーク(廻)】へのダメージの通りが良くなってきた。
だが、それに呼応するように【エヌレッド=シャーク(廻)】は新たな動きを見せてきた。
竜巻を飛ばすのではなく自身を中心にして纏わせてきたのだ。
その猛威は、立っているだけでも身体が後ろに飛ばされそうな風速で、【渦炎炭鳥】の火の玉も【エヌレッド=シャーク(廻)】に届く前にかき消されるようになってしまった。
「そんな……私の【渦炎炭鳥】が……」
フリスビー使いのモブプレイヤーも思わずガックリ来ているな。
だが、そのまま呆然としているのは不味い!
さっさとそこから逃げろ!
「えっ!?
うわぁっぁぁぁぁぁっぁ!?!?!?」
俺は攻撃を消されて落ち込んでいたフリスビー使いの女に警告したが、時既に遅し。
俺の声に反応した瞬間に、竜巻を纏ったままの【エヌレッド=シャーク(廻)】の突撃を回避することが出来ずにミンチになり光の粒子へと変換されていってしまった……
これで戦闘要員はあと8人……【ドライバー修理人】は【神殿】の方に戻っていったからな……
あいつはこっちにいるよりも、さっさと【神殿】を完成させてくれた方が助かるし。
【レッド】系統の装備やアイテムによる特効バフはあるにしても、この少人数でレイドボスに勝てるとは思えないしさっさと【神殿】を完成させてくれ!
俺は竜巻を収めた後の【エヌレッド=シャーク(廻)】の通常の突撃を包丁の腹を使って受け流しながら、冷や汗を滴しこの戦闘の向かう先を案じていたのだった……
ミーの眷属の勝利は目前だ。
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