677話 玉石混淆27
【ヒスイ】……本名【深川緑】のバリアを破壊した俺はさらに追撃で下方からの切り上げである逆風を放ち着実にダメージを与えていった。
「わざわざ本名の方で呼ばないで欲しいわ!」
ふっ、これも精神攻撃みたいなものだ。
俺はプレイヤーキラーだからな、俺から個人情報の探りを入れることは流石にやらないが、今回は自分から暴露したことだからセコく戦術に使わせてもらおう。
【深川緑】っ!【深川緑】っ!【深川緑】っ!
俺は【ヒスイ】の本名を連呼しながら包丁で切り結んでいく。
斧を正面に構えて斬撃を何度か防いできたが、動揺を隠せないのか切り傷が増えてきている。
「ちょっとっ!
連呼しないでよ……」
嫌なこった!
……とか言いつつも、俺はこいつの防御の固さが少し気になった。
バリアも剥がれて、【現界名称】も不発にさせたのにここまでダメージが上手く通らないとは。
「私もコッチちゃんと同じようにドワーフになっているわよ!
ちょっとやそっとの柔な攻撃ならやられないわ!」
こいつもドワーフかよ……
この調子だとピッケル次元はドワーフに種族転生したプレイヤーが増殖してるんじゃないか?
包丁次元では竜人が増殖しているからそれと似たようなものだろう。
もしかすると今【軍刀歩兵】と戦っている【ガーネット】もドワーフかもしれないな。
むしろタンクプレイヤーなんだから防御の上がる種族のドワーフになってない方がおかしいか。
「このっ!このっ!このっ!」
おっ、危ない危ない。
ちょっと煽りすぎたか?
攻撃が苛烈さが少し増してる気がするぞ……
だが、元々大きい斧で攻撃の精度が高いとは言えなかったのにさらに雑になってるぞ?
ほれっ!足元ががら空きだ!
俺は【ヒスイ】の足元に滑り込み、そこから真上に包丁を突き出した。
「はぅん!?
……やって、くれ、た、わね!?」
ぐぇ、やっぱりドワーフは防御力とか高いんだな。
今の身体の真下からの刺突で脳天まで切り裂いてやる勢いだったんだが、股にクリーンヒットが入ったまでに留まってしまったようだ。
大ダメージを入れられたのはいいのだが、変に追い込んでしまったのが怖い。
窮鼠猫を噛むと言うしな、変に追い込んでしまったことによって最後っ屁で何かとんでもないことをしでかしてくれる可能性もある。
「その通り……
私を散々弄んでくれたお返しをしてあげるわ!
スキル発動!【玉石混淆】!」
決死の覚悟を決めたような表情の【ヒスイ】の全身にヒビが入り始めた。
それは人間の身体に亀裂が入るというよりは、岩の内部から力が加わり膨れ上がった結果割れていっているような感じだ。
その俺の表現は的確だったようで、【ヒスイ】の身体の内部にエネルギーが蓄積されていっている。
そのエネルギーが【ヒスイ】の身体を書き替えていっているようだ。
「これでどうかしら!
くらいなさいっ!」
そう自信満々に言い放った【ヒスイ】が大斧を軽々と持ち上げて猛スピードで突進してきた。
その速さは先程までとは比べ物にならないほどのものである。
スピード特化型の【ペグ忍者】にも追いつけそうなそのスピードで振るわれた大斧による一撃を片手を犠牲にして受け止めた俺は、仰け反りながらも返す刀で包丁を振り上げて大斧を持つ【ヒスイ】の片手を切り落とした。
痛み分けといったところか。
……あれっ、あっさり切れたな?
さっきまで全然攻撃が上手く通らなかったのにここまですっぱり行けるとは。
急に上がったスピードと関係があるのか?
「片手の交換ってわけね!
コッチちゃんにいい手土産が出来たわ。
そして、上がったのはスピードだけじゃないわよ!」
そう言うと【ヒスイ】は先程まで両手で持ち上げるのがちょうどだったはずの大斧を片手でひょいと持ち上げてきた。
スピードだけじゃなくてパワーも上がってるのかよ!?
そんな壊れスキル、デメリットが無いはずが……
いや、ヒビ割れ……あっさり切れた片手……そうかそういうことだったんだな?
あの【玉石混淆】とかいうスキル、ステータスの入れ替えのような性能を持っているのだろう。
ドワーフという種族の防御性能だったりを丸々攻撃力とスピードに配分し直したのだろう。
防御力が0に近い状態だからあんな風にひび割れた身体になったり、こっちからの攻撃が通りやすくなっているというわけだ。
包丁次元にはスキルではないが、似たようなabilityを所有する【短剣探険者】がいるから検討はつけやすかった。
ピッケル次元のネタの一つも割ったところでそろそろフィニッシュと行かせてもらおうか!
俺は包丁を中腰で身体から引き気味に構え、そのまま警戒陣を張る。
そして、元々その警戒陣の中にいた【ヒスイ】に向かって包丁を一気に振り抜いた。
「あっ、えっ?」
何が起きたのか理解できないまま【ヒスイ】は頭部と胴体が切り離されて、その境目から光の粒子が流出していきその場から姿を消していった。
俺が今やったのは似非釣竿一刀流【抜刀斬】とでも言うのだろうか。
【釣竿剣士】の技法を何度か目にしてきたから俺流で再現してみたというわけだ。
全然練習していないから作りは甘いが、悪くない。
居合い切りの要領で一気に振り抜かれた包丁が【ヒスイ】の大斧という障害を容易く乗り越えて、お目当ての首を一閃した形だ。
ま、ざっとこんなもんよ。
途中ヒヤリとさせられることもあったが、片手という犠牲で済んだし安いもんよ。
安かったり、高かったりする……
やっぱり身体に執着が無さすぎていびつなの。
【Bottom Down-Online Now loading……】