676話 不発弾29
「敵襲!敵襲!」
「コッチさんが居ない間に攻めてくるとは!?」
「いや、あの人一回も戻ってきてないから……」
「ぐわぁっ!?
こいつ、強、い、ぞ……ガクッ」
というわけでピッケル次元の拠点へ侵攻を始めた俺達。
戦闘は俺……【包丁戦士】。
その後ろに続くのは【軍刀歩兵】と、そのクランメンバーたち。
戦闘に特に秀でた連中ではないが、隠密行動が得意なやつらを連れてきたとのことで奇襲は見事成功した。
初手で俺が4人キルしている間に他の連中も見張りのプレイヤーたちをキルしており、これで一気に7人倒すことができた。
「くそっ、このまま負けてられるかよっ!
スキル発動!【渦炎炭鳥】!」
「何っ!?
回り込まれたか」
【渦炎炭鳥】は緊急回避スキルで、包丁次元でも解放されているが今使ってきたやつはピッケル次元のプレイヤーだ。
このようにして奇襲をかわしたピッケル次元のプレイヤーは、包丁次元のプレイヤーを後ろから攻撃して逆にキルしていたりもした。
まあ、こんな感じで返り討ちにあったやつもいるがこっちの被害は二人だけだったので費用対効果で考えて成功ってことだ。
そんな混乱の中、落ち着いて守りを固めてくるプレイヤーが二人居た。
「崩れた体勢を立て直すぞ!
スキル発動!【水流万花】!」
一人はフルフェイスの兜にガチガチの金属鎧を着こんだ……少しだけ小柄な男だ。
顔がよく見えないから年齢を外見から判断できないが、声からすると30台前半くらいだろうか?
両手にそれぞれタワーシールドを構えながら【水流万花】を発動し、水の花弁で守りを固めているのを見ると守りに自信のあるタンクプレイヤーだろうと予想できた。
「包丁次元って何やってくるかわからないし、防御スキルの傾向も散らしておくわ……
スキル発動!【月下心裏】!」
もう一人は二十代半ばくらいのポニーテールの女だ。
一見すると軽装に見える装備をつけているが要所要所を金属のサポーターで覆っており、機能性を確保しつつも防御を抜かることのない良い装備をしている。
そんなポニテ女だが、両手持ちの大きな斧を担ぎ上げながら【月下心裏】を発動させて三日月の形をしたバリアを展開してきた。
「んあ……
狂巫女様、やはりピッケル次元の装備やスキルから見ると全体的に防御に比重が置かれているな。
変に時間をかけられてMVPプレイヤーが戻ってきても厄介だ。
引き際だけ狂巫女様に任せるが、それまで俺達【包丁戦士狂教団】が出来るだけ多くの敵を引き付けておく。
狂巫女様にはその引き際の判断を忘れない程度で、思ったままに暴れてもらいたい」
ふーん、俺好みの作戦だな。
無策というほどではないが、大雑把で分かりやすい。
いいぜ、その辺のモブプレイヤーは任せた。
俺はこの二人をヤる……が、【軍刀歩兵】だけはこのどちらかを一人倒すまで俺に付き合ってくれ。
「んあ!?
狂巫女様のプレイヤーキルに付き合えるなんて光栄だっ!
よし、お前たち覚悟しておけ」
「何かテンションが高いやつが来たぞ!?
【ヒスイ】が相手するか?」
「あの軍刀使い雰囲気が怖いし【ガーネット】が戦ってよ……
私は軍刀使いと戦いたくないわ」
どうやらタワーシールド使いの男は【ガーネット】、両手持ち斧の使い手のポニテ女は【ヒスイ】というらしい。
ふーん、【ガーネット】に【ヒスイ】ね……
仲が良いのは勝手だが、そんなに易々と情報漏洩していいのか?
ほら、包丁次元の洗礼を受けるといい!
お前は【ガーネット】、お前は【ヒスイ】だ!
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】が【名称看破】しました】
【【ピッケル次元】のプレイヤー二名】
【【包丁戦士】「お前は【ガーネット】、お前は【ヒスイ】だ!
」】
【【名称公開】により知名度に応じたステータス低下効果付与】
【【名称公開】により知名度に応じたステータス低下効果付与】
「なっ!?」
「身体が急に重くなったわ……」
「んあっ!?
狂巫女様の次元戦争の立ち振舞いは異質だな。
だが、素晴らしい!」
【ガーネット】と【ヒスイ】がステータスの低下に驚く中、【軍刀歩兵】は若干大袈裟に感心してくれていた。
包丁次元の戦い方は、相手から名前を聞き出すことからだからな。
これまでもそうやって戦ってきたからな。
【名称公開】と違って【名称看破】は正直仕様がよく分かっていないんだが、とりあえず何か出来たからヨシッ!
まあ、折角ステータスを下げられたんだ。
【軍刀歩兵】、あいつらの思惑通りに戦ってやろうか。
タワーシールド使いの【ガーネット】とはお前が戦え。
俺は斧使いの【ヒスイ】とやりあわせてもらう。
そう言って【軍刀歩兵】の返事も聞かず俺は【ヒスイ】へと突撃し、腰に提げていた包丁を引き抜きながら【月下心裏】によって張られたバリアを削っていく。
「やらせないわよ!
はああああああっ!」
バリアの中から斧を振り下ろして来たので咄嗟に回避すると、俺がさっきまでいたところに斧が突き刺さっていた。
……威力はそこそこありそうだな。
だが、これでどうだ!
俺は斧を引き戻せない【ヒスイ】の隙を突いて胸元へと包丁を差し込もうとした。
だが、それは予想されていたようで……
「……コッチちゃん、このスキルにしたのを恨むわよ。
スキル発動!【現界名称】!
私の名前は【深川緑】!
……ってあれっ!?」
攻撃は【月下心裏】によるバリアで包丁から身を守ったが、これでバリアは崩れ去ったな。
そして、ピッケル次元の【名前に関するスキル】だが無事不発してくれたようだ。
「そんな……これじゃ私が本名を勝手に喋っただけじゃない!
どうして防御力が上がらなかったの……」
どうやら【現界名称】で【月下心裏】のバリアとしての強度を上げる作戦だったようだな。
だが、俺たちから名前を暴いて(それぞれ相方が言ってたのを復唱しただけだが)【名称看破】を発動させたので【名前に関するスキル】のメリットのみがオミットされたわけだ。
【名称公開】のデバフも解除されないし良いこと尽くしだ!
明かしたり、明かさなかったりする……
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