673話 赤き血の朱だし33
はい、というわけで【想起砂漠の現像鮫(廻)】から逃げ延びて拠点に戻ってきました。
「あの場では言いませんでしたけど、私たちの次元のプレイヤーならあの鮫に少し手を加えることができましたよね?
ちなみにですけど、何でやらなかったのですか?」
拠点について早々に【釣竿剣士】は俺にそんな疑問を投げかけてきた。
まあ、あそこから逃げることだけを考えたらその手札を切った方が良かったのは間違いない。
だが、後々のことも考えたら……な?
「あぁ、そういうことですか。
流石は生産プレイヤーですね、抜け目がないです。
あの時の視線の理由が今分かりました」
【釣竿剣士】は謎の褒め方で俺を持ち上げてきた。
生産プレイヤーに絡める理由は全くもって意味不明だが、俺の意図は伝わったようだ。
「えっなんで二人で意気投合してるんですか!?
いや~、私嫉妬しちゃいますよ!?」
ボマードちゃんが俺と【釣竿剣士】の間に割り込みながらそんなことを言ってきた。
こういうところは面倒くさくはあるが、愛嬌の範囲だな。
可愛いやつめ。
「えへへ……」
……まあ、それは置いておくとしてだ。
ぶっちゃけあの【想起砂漠の現像鮫(廻)】たちをどうするかな。
討伐するのか、無視して他の次元の連中に対処を任せるのかの二択だろうが。
「私としては釣り上げたいですね!
釣れそうなレイドボスは【ウプシロン】を含めて二体目ですからね!
生産プレイヤーとしての血が騒ぎますよ」
そんな血騒がれても困るんだが……
「んあ?
俺としては無視した方がいいと思うぞ。
あいつに対処しようとして既に包丁次元のプレイヤーが何人もやられているからな。
どこの班もかなり痛手を負っているみたいだ」
おっ、【軍刀歩兵】か。
こいつは関わらない方針で行きたいようだ。
堅実派の【軍刀歩兵】ならそう言うと思っていたが、案の定だったようだ。
「えっ、あの、その……対策だけでも……」
そして物陰からひっそりと意見を出してきたのは【検証班】の生産プレイヤー【ドライバー修理人】だ。
こいつはレイドボスとは戦わないが、万が一に備えて戦える準備だけでもしておこうという意見のようだ。
全く言葉が足りていないので俺が勝手に意訳しただけだから、実際には違うかもしれないがそんな認識にさせてもらおう。
色々な意見が出てきたが、その中でも俺がいいと思ったのは……【軍刀歩兵】と【ドライバー修理人】の意見をミックスしたものだな。
見つけても基本的に無視するが、もしもの時のために対策を練るのは止めないってことだ。
【想起砂漠の現像鮫(廻)】を無視しておくのは包丁次元にも被害が及ぶ可能性を捨てきれないが、積極的に戦闘を行わないと決めておくならむしろ他の次元への牽制になる。
あわよくば全滅させてくれないかな~とかいう甘い展望すらあるな。
そして、対策だが……
【ドライバー修理人】ならもう気づいているんじゃないのか?
これまで手に入れてきたアイテムたちがそれを物語っているからな。
その素材に一番触れてきたであろうお前が気づいていないはずはない。
「あの……えっと、その、【レッド】系統……ですよね」
「【レッド】系統?」
「んあ?」
「あぁ、なるほどです。
流石は生産プレイヤーの着眼点です」
やっぱり【ドライバー修理人】は気づいていたようだな。
そして、困惑するプレイヤーが多い中【釣竿剣士】も気づいたようだ。
そう、ここに出てくるモンスターから手に入れた素材の名前をあの馬鹿デカイ虫眼鏡で確認すると、全て【レッド】と名前に入っていた。
そして、それらを使ったアイテムは基本的に赤色の仕上がりになっているし、一部の素材には特殊効果を付与すると書いてあったりした。
つまり出現するモンスターはとある意図によって【レッド】系統のモンスターで統一されているってことが予想できるわけだ。
【検証班長】辺りがここにいたら何段階も前にこの結論に至っていたであろうが、居ないことには仕方がない。
「その意図ってなんですか?
いや~、【包丁戦士】さんの話していること私は全然分からないんですよ~!」
ボマードちゃんは肩を竦めながらお手上げのポーズを取り俺に更なる説明を求めてきた。
うーん、これで伝わらないのなら全部きちんと説明するか。
つまりだ、あの【想起砂漠の現像鮫(廻)】に対する特効アイテムを【レッド】系統の素材を使えば作れるんじゃないかっていう予測だ。
これまで作ったアイテムにはそんな効果は書かれていなかったが、そもそもあの虫眼鏡が全ての効果を映し出しているという保証はないからな。
むしろ、このプレイヤーに人権のないゲームなら平気でマスクデータにそういう要素を仕込んでプレイヤーが悩む姿を楽しんでいてもおかしくはないな!
「ゲーム運営プロデューサーの性格からの逆算っていうことですか」
「んあ……
メタ思考だが、狂巫女様の考えも一理あるな。
目に見えるものだけが真実ではない、俺が【黒杖魔導師】さんから教わったことだ」
あの中二病を発症しているような言動しかしない【黒杖魔導師】から教わることがあったのか……
たしかに言動さえ目を瞑れば有能なやつだし、あり得ない話ではないが意外だなぁ……
そういうところがあるからこそこの【軍刀歩兵】は【黒杖魔導師】に付き従っているんだろうけど。
……。
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