672話 爆炎乙女と発光少女37
スキル発動!【渡月伝心】!
【スキルチェイン【天元顕現権限】【渡月伝心】】
【追加効果が付与されました】
【スキルクールタイムが増加しました】
俺はパジャマロリが蛇腹剣で受け止めている【想起砂漠の現像鮫(廻)】の胴体に向かってスキルを放った。
俺の包丁の先から放たれる粒子たちがその巨体へと飛翔していき、ぶつかった場所を切り刻んでいっている。
ここまでクリーンヒットしたのなら普通は少なからず怯んでくれるものだ。
だが……
「変態お姉さんっ、全然効いてないよこれっ!?
手を抜いてるとか~?」
そんなわけないだろ、お前たちだけの命ならともなく俺たちの命をかかってるんだからな……
これでも出力はかなり高めにしてある。
なのにも関わらず俺のスキルチェイン【渡月伝心】は【想起砂漠の現像鮫(廻)】の身体に僅かに切り傷をつけただけに留まっている。
こんなのやってられるかよ!?
「やっぱり倒せないモンスターって扱いなのかな~」
「いや~、厄介ですね……」
どうも俺が今まで戦ってきたレイドボスたちとは勝手が違う感じだな。
なんというか攻撃を遮断されているというか……
……そうか、【特殊防御権限】かっ!?
俺は攻撃の手応えのなさに思い当たった。
言ってしまうのであればギミックを解除していない状態のレイドボスだな。
しかも、イベント仕様なのか【特殊防御権限】がより強固に、何重にも付与されているのだろう。
……一段階くらいならこの場で剥ぎ取れそうだが、それをやったところで焼け石に水だ。
何か対策を見つけないとな。
そう考えながら俺はスキル【渡月伝心】で攻撃を続けつつ、空腹度とスタミナを回復させるために簡易食料を口にした。
相手が蛇腹剣に夢中になっているから攻撃している俺の方に来てないのが幸いしたな。
このまま攻撃を続けることも出来るが、どうしたものか。
そう逡巡する俺だったが、地上になにやら新たな気配が近づいてきているのを確認した。
俺の足元には身体の軸をぶらさずにスマートの走りで駆けつけた人物がいる。
それは頭に青色の花飾りをつけた釣竿を担いだ少女、【釣竿剣士】だった。
「釣れそうな生き物の気配がしたので来ましたが、思ったより混戦していますね……
【包丁戦士】さんも【天元顕現権限】を使っていますし割とピンチですか?」
到着して早々に俺に問いかけてきた【釣竿剣士】だったが、釣りの気配を察知してくるってどんな超人だよ……とまずは思ってしまった。
それでワンテンポ遅れてしまったが、俺はこの【想起砂漠の現像鮫(廻)】から逃走するために蛇腹剣次元のプレイヤーと手を組んでいることを伝えた。
「なるほど。
それなら【包丁戦士】さん、【渦炎炭鳥】を使ってもらえますか?
【渦炎炭鳥】に合わせて私も釣竿一刀流で目眩ましをします。
それを合図に全員で逃走しましょう」
【釣竿剣士】はそんな提案をしてきたが釣竿一刀流の目眩ましとなると……あれか!
「【包丁戦士】さん、私も連れて飛んでいってください!
いや~、放置されたらそのまま死んじゃいますからね!」
ボマードちゃんは懇願するように上目遣いで俺に頼み込んできた。
まあ、それは織り込み済みだし連れていってやるが……
死んじゃいますからね!と断言する辺り自分の立ち位置はきちんと理解しているらしい。
「あっ、釣竿のお姉さんだ!
なになに~うち達も逃がしてくれるのっ!?
助かるよ~!」
パジャマロリも【釣竿剣士】が到着したのに気がついたみたいだな。
【釣竿剣士】とパジャマロリはこれを含めて三回の次元戦争で会っているからもはや顔馴染みだ。
「【マキ】さんもお久しぶりです。
今回は敵同士ですがこの場限りで手を貸しましょう、この鮫の攻撃も受け止めてもらっているお礼です。
さあ、【包丁戦士】さんお願いします」
【釣竿剣士】から作戦開始の指示が出た!
さあいくぞ!
スキル発動!【渦炎炭鳥】!
【スキルチェイン【天元顕現権限】【渦炎炭鳥】】
【追加効果が付与されました】
【スキルクールタイムが増加しました】
俺は赤色魔法陣を【想起砂漠の現像鮫(廻)】の頭上に生み出し、そこから下方に向けて火柱を発生させた。
轟々と鳴り響く音を立てながら【想起砂漠の現像鮫(廻)】の目の周辺に炎を直撃させて一時的に視界を奪っていく。
目にダメージが入ってないのは案の定ではあるが、炎そのものが目眩ましにはなるだろう。
「そして私の出番です。
釣竿一刀流【発光】っ!」
【釣竿剣士】は手に持っていた釣竿をどういう原理か分からないが極光のように発光させて周囲に何があるのか分からないほどの光が一帯を包み込んだ。
「さあ、逃げますよ!」
「了解だよ~」
「いや~、【釣竿剣士】さんの万能感凄いですね!?」
「当然ですよ、生産プレイヤーなら!」
そんな馬鹿なこと言ってないで逃げるぞ!
俺は地上にいたボマードちゃんを空中から滑空して拾い上げて包丁次元の拠点方向へと逃げ去っていく。
俺はプレイヤーキラーだからな、馴染みのあるやつなら目が使えなくても気配で誰か判別することもできる。
……パジャマロリも逃げていくな。
なるほど、あっちね?
無様に逃げるか、それもいいだろう。
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