671話 天地鳴動鮫39
警戒する俺たちの足元から震動が伝わってきている。
その震動の元を見ると、地面に貫通するようにサメの背びれが飛び出しながら迫ってきている最中だった。
「うわわわっ!?
いや~、なんか来てますよ!?
なんで地面の中を動いて来てるんですか!?」
「あれにうちらもヤられたんだよ~
そろそろくるよっ!」
迫ってきていた背びれが水飛沫をあげる代わりに砂埃を舞わせながら浮上し、その身体の全体像が露となった。
一言で言うのであれば、全身が鋼鉄に覆われたサメである。
深紅の鋼鉄のボディで空中を泳ぐように飛んでおり、5メートルほどの巨体は俺たちの頭上で影を落としている。
地面を泳いだり、空を飛んだり忙しいやつだな……
この分だと、地形を利用して逃げようとしても追い詰められるだけだ。
なにせ、相手は自由自在に行動可能範囲を変えられるんだからな。
少なくとも明確な隙を作り出さないことには話は始まらない。
「うわっ、竜巻出して来ましたよっ!?
いや~、空も飛んでますし風属性使いのレイドボスなんでしょうかね~」
ボマードちゃんは他の包丁次元のプレイヤーに引きずられながら竜巻を何とか回避したが、その最中に口から出た感想は間違っているぞ。
「そうなんだよっ!
変態お姉さんの言うようにあのサメは色々な属性の攻撃を使ってくるから気をつけてね~
まるで技のデパートみたいでワクワクするけど、そんなに悠長なこと言ってられる場面でも無いのが残念だよっ!」
パジャマロリは頬をぷくっと膨らませながら【想起砂漠の現像鮫(廻)】を見つめているが、このサメを眺めていたい感情とそんな余裕はないという切迫感がごちゃまぜになって自分の中で気持ちを整理できていないのだろう。
まあ、こいつは正真正銘のロリっぽいからな……仕方ない。
【nNnNnNnNNNnNNn!!!!!】
深紅の機体である【想起砂漠の現像鮫(廻)】は叫び声あるいは金属音を発しながら竜巻を連続して生み出し、周囲にいるプレイヤーたちを寄せ付けないように攻撃を開始し始めた。
「竜巻を纏いながら突進してきましたよ!?
いや~、これさっそくピンチじゃないですか!」
「包丁次元がいる時にあんまり使いたくなかったけど……仕方ないよねっ!
スキル発動!【真名解放】!
うちの名前は【マキ】だよっ!
そして、うちの蛇腹剣の真名を教えてあげる。
【修練武器上位解放】【涸沢之蛇】だよ~!」
【マキは自らの名称を公開した】
【マキは自らの真名を開放した】
【【名称公開】マキに知名度に応じたステータス低下効果付与】
【【真名開放】マキのステータスが割合に応じて伸長した】
マキがスキルを発動すると、手に持っていた蛇腹剣が形を変えていく。
蛇腹剣は元々物々しい、幼女には手に余るサイズの武器だったが、姿を変えた蛇腹剣は剣の先端に蛇の頭のようなものがつき、剣のサイズも5メートルくらいの巨体になっていた。
【名称公開】によるデメリットによって自らのステータスが下がることも承知の上で【修練武器上位解放】【涸沢之蛇】を起動してきたのは大型のエネミーである【想起砂漠の現像鮫(廻)】に対抗するためだろう。
竜巻を纏いながら突進してきた【想起砂漠の現像鮫(廻)】と同じサイズになった蛇腹剣を力一杯振り回し、進路上に横倒しにすることでなんとか進行を遅くすることに成功していた。
「なんとか止められたけど、ずっと抑えるのは無理だよっ!
変態お姉さん早くなんとかして~!」
まあ、抑えられたといってもあの質量の攻撃をパジャマロリの身体で受け止めきるのは難しいだろうからな。
攻撃を直接止めているのはチュートリアル武器である蛇腹剣の【涸沢之蛇】だが、それを操作しているのはパジャマロリだし当然といえば当然だ。
「どっ、どうするんですか【包丁戦士】さんっ!?」
パジャマロリも貴重な手札を切ったんだから俺も一つくらいここで使ってやろうか。
俺たちが逃げのびるためにもここで手を抜きすぎるのはまずいからな……
スキル発動!【天元顕現権限】!
俺は天子の力を解放し、左肩に黄金色の粒子を集約させていく。
黄金色の粒子たちは集まると輝きながら翼を形成し始めた。
顕現させるのは神聖なる上位者の力、今はまだその一端しか扱えないがそれでも【菜刀天子】を倒して神度が30まで上がった俺が使うと前よりも操作性や耐久時間が大幅に向上しているからな。
それでも深度を参照する【深淵顕現権限】の方が俺としては使いやすいが、デメリットなしで使える顕現スキルとしては【天元顕現権限】の方が取り回しが利く。
そんな天子の黄金の翼を左肩に広げた俺は空中に飛び立っていった。
【想起砂漠の現像鮫(廻)】っ、空中はお前だけの領域じゃないってことを思い知らせてやるよ!
ユーにそれが出来るのか?
【Bottom Down-Online Now loading……】