666話 のけものたちのとうそう45
ピッケル次元の【石動故智】による【紅石鉱山】、蛇腹剣次元の【ネコドラ】による【獣王無尽】、そして包丁次元による【メイジ】たちの【渦炎炭鳥】と【クレリック】たちの【花上楼閣】。
3つの陣営が入り交じりながら、戦いは激化していっている。
もちろん、蛇腹剣次元やピッケル次元のプレイヤーは他にもいるが可もなく不可もなく……というプレイヤーが多い。
ボマードちゃんが偶然倒せた中年鎧男は包丁次元でいう2つ名持ちプレイヤーに相当する輩っぽかったから、ピッケル次元は現状押され気味の戦線を強いられている。
蛇腹剣次元は【猫竜人】の【ネコドラ】を筆頭に接近戦で後退を許さない押せ押せのチームプレーをしてきている。
だからこそ、この戦況ではMVPプレイヤーの【石動故智】よりもこの蛇腹剣次元の近接プレイヤーたちが厄介に感じてしまう。
「んあっ!?
同胞たち、詰め寄られないように距離を取れ!
俺たちのクランは魔法主力の動きだからこそ、接近戦に持ち込ませると不味い」
「やべっ、間合いから抜け出さないとっ!」
「ひぃ~」
「いや、この状況ならむしろ【渦炎炭鳥】を当てやすくていいね!」
【軍刀歩兵】が蛇腹剣次元のプレイヤーたちから距離を取りながら、【渦炎炭鳥】で牽制をしていくがそれを掻い潜った蛇腹剣次元のプレイヤーはそのまま距離を更に詰めていっている。
「いや、よくねぇよ!
……じゃなくて、それは私の次元には悪手ね!
スキル発動!【水流万花】!」
【ネコドラ】がスキルを発動すると身体の周りに水の花弁が一枚現れた。
それに火の玉が防がれてしまい、ワンテンポ攻撃が遅れることになった【メイジ】プレイヤーの1人が【ネコドラ】の拳によって土手っ腹に風穴を空けられてしまったようだ。
ちっ、貴重な人員を早々にキルしやがって……
「あっ、そのスキルで火の玉止められるんだね。
コッチも使おうかな。
スキル発動、【水流万花】」
そんな【ネコドラ】の戦闘を見た【石動故智】も便乗して水の花弁を創造し、【メイジ】部隊に突っ込んでいった。
そういえばどっちの次元も【水流万花】とかいう防御スキル持ってたんだったな……
すっかり忘れてたが、あれは炎に対して高倍率の防御性能を持つって話だった。
つまり、火の玉を撃ち出す【メイジ】の【渦炎炭鳥】とはすこぶる相性が悪いってことだ。
おい、【軍刀歩兵】……
俺の言いたいこと分かるか?
「んあ……
悔しいが狂巫女様と同じ意見だろう。
……っ、撤退だ同胞たち!
このチーム編成でこの鉱山はおそらく奪取できない。
拠点に戻って作戦を練り直すぞ」
流石は【軍刀歩兵】。
俺をリスペクトしているって自称するだけあって、俺の考えていることを察してくれたようだ。
鉱山を手離すと正直後が怖いんだが、無理して包丁次元のプレイヤーを壊滅させると【神殿】とやらを作る手数が減るからな。
ここは温存策でいかせてもらうってわけだ。
鉱山の戦いはお前たちで勝手にやってくれ!
「どうしてそんな酷いこと言うの!?
俺……じゃなくて私たちだけでこの女騎士を止められる気がしないんだけどっ!」
悪いな【ネコドラ】っ!
中々の猫かぶりっぷりだったが、もうちょっと上手くやってくれよな。
素が見えすぎなんだよお前は。
素が見えたついでにそこの女騎士もお前に押しつけていくから、精々鉱山を死守してくれよな!
俺たちは……帰る!
「いいね、コッチとしては都合がいいから追わないよ。
コッチは採掘出来ればそれで満足だよ」
「よくねぇよ!
【インフォ】さんにここを守れって言われてるからね。
俺……いや私の独断で引けねぇよ……
むっ、無職を舐めないでよね!」
【インフォ】の指示が縛りとして機能してるみたいだな。
今回は俺に良い方向に働いてくれて嬉しい。
そうして、蛇腹剣次元に鉱山を押しつけて逃走していく俺たち包丁次元のプレイヤーたちは、次に何をするのか話し合っていた。
「このまま一度戻りますか?
いや~、今回の遠征は失敗でしたけど素材は少し集まってますし!
それに休憩したいですね~!」
まあボマードちゃんは虚弱体質だから、疲労感を他のプレイヤーよりも感じやすいのもあるんだろうな。
「んあ?
俺としてはもう少し探索してからにするつもりだったが。
鉱山を盗られたのだから、せめて別の採取スポットを占有していきたいところだ」
そうか。
俺としても【軍刀歩兵】の意見に賛成なんだが、ボマードちゃんを放置していくわけにもいかないからな……
新たな採取スポットの探索は【軍刀歩兵】たちに任せて俺とボマードちゃんは拠点に一度戻らせてもらうぞ。
「流石は【包丁戦士】さん!
いや~、これはとうとうデレ期突入ですよね!!
長かった冬も明けてこれからは春の時代ですよ~!」
誰がデレ期だ!
そんなこと言ってると置いていくぞ?
頭お花畑思考にも困ったものだ……
……。
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