663話 二度明かされる名49(挿絵あり)
さて、野良エンカウントしたトカゲを討伐し、ドロップアイテムも回収したところで鉱山探索再開といこうか。
「そういえば先に出発した【包丁戦士狂教団】の人たち見かけませんね?
いや~、もしかして迷子ですか!?」
迷子も何も、鉱山だっておおよその方角しか分かってないからな……
ここは樹木に囲まれていて空を見上げることも出来ないし。
……いや、待てよ?
別に下から見上げる必要なんて無いよな。
俺には三種類の飛行手段があるじゃないか!
そのうちの2つ【深淵顕現権限P】と【天元顕現権限】は戦闘の要だから軽率に使うのは躊躇われるのだが、俺にはあまり使っていないもう1つの飛行手段がある。
先に挙げた2つよりも今使うのに相応しいスキルはこれだ!
スキル発動!【竜鱗図冊】!
俺はスキルによって生み出した巻物から現れた漆黒の鱗を身に纏い、背中からはどす黒い翼を生やしていく。
【フェイ】や【フランベルジェナイト】と同じ【邪悪竜人】の翼だな。
俺は種族転生したわけじゃないが、【フェイ】の性質に引っ張られているらしくこの漆黒の竜翼へと変貌したのだ。
「おおっ……
いや~、凄く黒いですね……」
見たままの感想だろうが、その通りである。
俺は翼をはためかせて樹木の先にある空へと飛び出し、上空から周囲を見渡していく。
鉱山はたしか南方にあるって話だったが……
あっ、あれか!
俺は緑色に覆われた山が南東に聳え立っているのを発見することに成功した。
ここからそんなに遠い場所ではなかったが、俺とボマードちゃんが進んでいた方向からは若干ズレた場所にあったようだ。
このまま何も考えずに進んでいたらきっとたどり着けていなかっただろう。
そう思いながら俺は地上にいるボマードちゃんのところへと着地した。
「あれ、降りてくるの早かったですね!?
いや~、【包丁戦士】さんのことなんで空中で誰かと戦闘してくるものだと思ってましたよ!
私の勘もあんまり当たらないものですね……」
そんな勘早々に当たってほしくないがな……
俺はあいつよりも早く鉱山に到着しておかないといけないからな!
俺がボマードちゃんに怒りながら反論していると、背後から人の気配が近づいてくるのに気がついた。
この気配にこのタイミング……噂をすればなんとやらって言うが、言霊ってものを信じてしまいそうだぞ。
「あいつって誰のことかな。
コッチも気になるんだけど、教えてくれないかな」
いやっ、お前のことだぞ!
次から次へとMVPプレイヤーが俺の前に現れるとは、作為的なものを感じるぞ!?
樹木の裏から現れたのは、ヘッドライトつきのヘルメットを被ったポニーテールの女性だ。
服装は砕いた石の跳ね返りを防ぐためか、頑丈そうな灰色の鎧を身につけている。
そして、利便性を担うためなのか茶色のマントもついているな。
手に持っているピッケルとヘッドライトつきのヘルメットの2つが無かったら凛とした女騎士以外には見えない、そんな感じだ。
身長も2メートルくらいあるのもそうだが……他にも……な?
俺は断崖絶壁と化している自分の胸元と、ヒマラヤ山脈かと見間違えるような規格外のデカさのものを見比べて意気消沈した。
こいつは、手に持っている武器で分かると思うが、ピッケル次元の石動故智とかいう、本名を自ら晒しながらプレイしているネットリテラシーの欠片もない女騎士だ。
「だって君、さっき空飛んでたよね。
あれだけ派手に音を立てて飛んでいたらコッチも当然気づくよ」
ごもっとな意見ありがとう。
この【石動故智】はネットリテラシーは皆無だが、それ以外の思考についてはかなり常識的だ。
包丁次元で例えるなら【トランポリン守兵】お嬢様に近いだろう。
「そしてさっき鉱山って聞こえたけど、本当かな?
コッチとしては聞き逃せないワードなんだけど、もしかしてこの辺りにあったりするのかな」
この女騎士、よりによって一番聞いてほしくなかったことを聞き取りやがったな!?
俺はこれ以上情報を漏らさないためにも腰に提げていた包丁を手に取り、【石動故智】へと切りかかっていった。
「これは図星かな。
こうなったら追い詰めて情報を吐かせないとね。
私は【ピッケル次元】のMVPプレイヤー、【石動故智】!
コッチって呼んでね」
【石動故智】は俺の包丁による斬撃をピッケルで受け止めながら自己紹介をしてきた。
そして、名前を名乗ったということは……
「そうだよ。
スキル発動、【現界名称】」
【石動故智の【現界名称】】
【石動故智の現界情報に応じて防御力が伸長した】
【石動故智の【名称公開】】
【石動故智に知名度に応じたステータス低下効果付与】
【石動故智】の名乗りに呼応して、ステータスの変動が行われた。
こいつっ、全体的なステータスが下がるのを承知の上で防御力を上げてきたな!?
「ドワーフ系種族は基本的に防御力が高いからね。
そこにスキルの補正を加えたらコッチは割り増しで強くなるよ」
そう言いながら【石動故智】はピッケルを俺に向かって振り下ろしてきた。
俺はそれを受け止めるのではなくバックステップで回避し、ピッケルが完全に振り下ろされるのを確認してもう一度包丁で斬撃を放って直撃させた。
だが……
かっっっっった!?!?!?
俺の包丁は女騎士の鎧に阻まれてしまった。
完全に身体まで行ける場所に切り込んだはずなのに……
もしやさっきのスキルは装備の防御力も上がるのか。
前の次元戦争では気づけなかったが、思ったより厄介な【名前に関するスキル】だな……
攻撃だったり、防御だったりする……
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