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660話 初戦と牽制50

 蛇行しながら俺の命を刈り取りに来た【マキ】の蛇腹剣を、俺は包丁の腹を斜めに傾けながら受け流していき最小限の衝撃で凌いでいく。


 蛇腹剣の独特な軌道は刃物としてはとても異質だ。

 投げナイフや手裏剣などのように鋭利でありながら、鞭や槍のように中距離程度離れた相手にも自分の意思を加えながらリアルタイムで攻撃の挙動に変化を与えることができる。


 こんな蛇腹剣のような武器は一見すると強そうに見えるが、現実で作ったら戦闘中に空中分解してしまうほど耐久性に無理のある構造となっている。

 それなら直剣や曲剣を使っていくのが普通だろう。


 だが、これはゲームだ!

 そして、このゲームのチュートリアル武器は壊れないようになっている。

 だからこそこんなロマン武器こそ真価を発揮するとも言えるな。


 「変態お姉さんって蛇腹剣にも詳しいんだね~?

 うちは料理なんて作ったことないから、包丁のことすらよく分からないのに~!」


 まあ、お前の見た目と年齢が一致してるのなら別に不思議なことじゃないさっ!


 俺はパジャマロリが無知であることを肯定しつつも、その無知に突け込むように包丁をぶん投げて【マキ】の平たい胸元を貫通させようとした。


 「えっ、包丁って投げるものだったの!?

 知らなかったよ~」


 「そんなこと無いんですけどね……

 いや~、現実で包丁を投げる人なんてヒステリックな人だけですから!

 【包丁戦士】さんくらいですよっ!」


 おい、爆弾魔……お前はいったいどっちの味方なんだ……

 包丁次元のプレイヤーなんだからせめて同じ次元の俺を擁護してくれよ!


 俺はそんな愚痴を口にしながらも【マキ】と剣戟を重ねていく。

 一撃一撃、ぶつかり合う度に肌がヒリつくこの感覚はやはり最高だ。

 相手から受ける真っ直ぐな殺意こそこのゲームを楽しむ上での極上のスパイスだからな。

 いいぜ、もっと来いよっ!


 「言われなくても行くよ~!!!」


 一定距離から詰めさせないように立ち回るパジャマロリの【マキ】と、包丁というリーチの短い武器を主武装として扱うからこそより接近戦に持ち込もうとする俺の相対する立ち回りが立ち替わり立ち替わりし目まぐるしい光景となっているに違いない。


 「やっ、やっぱり変態お姉さんの動きは変態的だよ~

 どんな体勢でもうちの命を狙ってきてるし、そんなにキルしたいんだねっ!」


 俺はプレイヤーキラーだからな。

 どんな状況下でも相手の命を刈り取る姿勢こそが、プレイヤーキラーの基本だ。

 その動きに対応できてないってことは、蛇腹剣次元にはプレイヤーキラーがそんなにいないってことだろう?

 右利き投手に慣れているバッターが、左利きの投手と対面したときに打ちにくくなるのと同じ感覚だろうな。


 「この戦闘だけでそんなところまで見抜かないでよね~

 だから変態お姉さんは変態お姉さんなんだよっ!」


 ちっ、さっきから変態変態と俺を不審者扱いするのは世間体的にも危ういから止めてくれよ!


 俺は口うるさいメスガキパジャマロリの口を塞ぐべく包丁に取り付けているμ素材の鞭を使って蛇腹剣擬きの動きを包丁で再現した。


 「それ、あの時の戦いでも使ってきてたよね~

 あの時は厄介に感じてたけど、そんなに変化してない動きならうちでも対応できるよっ!」


 パジャマロリは蛇腹剣を一度手元に集約させ、直剣のようになった状態で俺の包丁に応戦し始めた。

 先程までとはリーチが逆転した状況を作り出せたが、俺はこの時思わずしまったと感じてしまった。


 パジャマロリの直剣モードの蛇腹剣と、俺の鞭モードの包丁では扱いの熟練度の差で俺の攻撃がワンテンポ遅れ始めたのだ。

 あのパジャマロリ、【怠惰】の大罪を烙印されている割には色々と技術習得をマメにやっていたようだな。


 「よ~し、このまま圧しきる……よ?

 おりょっ?」


 パジャマロリは俺に追撃しようとしていたが、その直前で攻撃を止めて後ろに退いていった。

 

 「一旦拠点に戻るろ?

 情報を纏める必要があるら!」


 「うわっ、なんですかこの人!?

 いや~、見た目が怪しすぎますよ……

 【黒杖魔導師】さんと互角かそれ以上かもしれないですっ!?」


 そこには語尾が狂った発言をする怪しい男がおり、パジャマロリがその横に立ち男を見上げている。

 黒衣を着て髪の毛がボサボサというなんともやる気が無さそうなプレイヤーだ。

 猫背で丸メガネをかけた目の下に隈がある青年だな。

 端から見ても健康そうな見た目ではないが、ゲームの中での見た目はあんまり当てにならないからキャラクターメイクだと信じておこう。


 あの怪しい風体の男には見覚えがある。

 二回目の次元戦争でパジャマロリが助っ人として連れてきた蛇腹剣次元のability【現界超技術】を保有したプレイヤー……【インフォ】だ!

 あいつは魔術の発生源を感知できるという探索系の異能力を保有している【釣竿剣士】とは異なる才能を持ったプレイヤーだな。

 異能力の名前は【魔力察知】だったかな?

 たしかそんなんだった気がする。


 そして、蛇腹剣次元の情報取り纏め第一人者……包丁次元で例えるなら【検証班長】ポジションだ。


 そんな怪しい男である【インフォ】がこの戦闘を止めたということは、この辺りが引き際だろう……

 どうせ後ろに護衛でも連れてそうだからな。

 【検証班長】もいつもそうしてるから、この【インフォ】が同じように守りを固めていると想定しても問題ないだろう。


 「ここは一旦手打ちにしてお互いに撤退するのはどうから?

 悪くない条件だと思うも」


 誤字のような語尾だから頭に入りにくいが、今回の激突は引き分けにしてほしいという示談を持ちかけられているんだろう。

 パジャマロリが満身創痍で俺に勝ったとしてもまだピッケル次元のMVPプレイヤー【石動故智】がこのフィールドにはいるからな。

 抑止力としてもMVPプレイヤーという手札は温存しておきたいという魂胆だろう。


 その考えは俺も同意できるが、俺が素直に退くのも癪な話だ。

 引き際とはいえ、相手の提案に乗るんだから何か条件をつけてやりたいが……




 そんな俺の考えを見抜いたのか、【インフォ】は俺に譲歩条件を突きつけてきた。


 「蛇腹剣次元のプレイヤーが見つけてきた情報を少し教えるのはどうかま?

 序盤に情報が増えるのは悪くない話だお」


 ちっ、底を見透かされている感じで良い気はしないな……

 俺が出そうとした情報を先に言われてしまったぞ!


 「その表情……同意とみたほ。

 地形情報だけど、南には鉱山があったも!

 これだけで今回は見逃してもらうら!」


 「そういうことだからバイバイ変態お姉さん~!

 さてっ、拠点に戻ったら寝るかなっ!」


 【インフォ】に首根っこを捕まれ、引き連れられて遠ざかっていくパジャマロリの【マキ】を見送りながら俺はもらった情報についての有用性を考えていた。


 「【包丁戦士】さんにしては珍しくあっさり見逃しましたよねっ!?

 いや~、てっきり情報をもらった後にあの【インフォ】って人をキルするじゃないかと冷や冷やしながら見てましたよ~」


 ……まあ、もらった情報が鉱山とかいう厄ネタじゃなかったらそうしてただろうな。

 あの【インフォ】め……安全に【マキ】を連れ帰るために俺の思考を読んで渡す情報を精査してきたなっ!?


 

 この次元戦争で一番あってほしくなかった地形だぞ鉱山は……

 俺は急いでこの厄ネタを持ち帰るためにボマードちゃんを脇に抱えながら来た道を全力で引き返すこととなったのだ……






 行ったり、戻ったりする……


 【Bottom Down-Online Now loading……】

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