66話 聞かせられません。(挿絵あり)
【Raid Battle!】
【包丁を冠する君主】
【菜刀天子】
【次元天子】【上位権限】【???】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【次元をさまよい】
【冒険者を導く】
【聖獣を担うが故に】
【深淵と敵対する】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、テンション低めにログイン……
昨日の【菜刀天子】の荒れっぷりは凄かった。
はじめに死に戻りしたあと、何度も【菜刀天子】の機嫌を直そうと特攻を繰り返したり、説得をしようとしたのだがどれも効果がなく無駄に死に戻りを繰り返すだけに終わったのだ。
だからこそ気が重い、まだ荒れていたら嫌なんだか……
ログインした場所からちらっと【菜刀天子】がいるであろう玉座を確認する。
……よしよし、大人しく座って事務仕事をしているな!
とりあえず杞憂で済んで良かった。
「ようやく来ましたか、底辺種族【包丁戦士】。
昨日の続きといきましょう」
えっ、またこいつと泥沼の戦いを繰り広げないとダメな感じ?
嫌すぎてイヤイヤ期に入りそうだ……
「違います、話の続きのことです。
早とちりは困りますよ、これだから底辺種族は……」
ほっ、良かった。
これでバトルが始まったら諦めて逃走するわ。
「昨日、ルルに会ったと口にしましたね?
あのタコは自らをそう呼ばせているので、私が会った者と違うということはないでしょう。
あのタコは憎らしくも私と同じく【上位権限】を持っていますが、別にサポートAIであったり、【次元天子】だったりするわけではありません。
【上位権限】を持つということだけが共通しているのです」
あっ、サポートAIではないのねルル様。
めっちゃそれっぽいムーヴしてたから勘違いしてたわ。
あれはサポートAIだからというわけではなく、ルル様の親切心からだったのだろう、俺に何を期待しているのかはそのところ分からないのではあるけど……
じゃあ、ルル様って何者なの?
会ったけどよくわからなかったんだが……
「あのタコは深淵域を管理する存在です。
以前全面戦争をした時に【深淵奈落】まで追い返すことはできましたが、素の実力では私よりも上ですね」
雰囲気的にそんな気はしてた、どう見ても強そうだったし……
でもそれなら何で勝てたんだ?
ジャイアントキリングってやつか……?
「いえ、実力があのタコの方が上回っていようとも私は負けません。
【次元天子】としての力が、深淵種族に対してとても相性が良いので。
しかし、その相性の良さを持ってしても辛酸を嘗めさせられる場面も多くありましたが……
先天的な種族相性を覆されかけるとは一生の不覚でした……」
じゃんけんでいう、当然のようにパーでグーに勝とうとしたら、接戦を繰り広げられた上負けそうになったという感じかな。
そりゃ堪らないよなぁ……
プレイヤーキラーの俺も病弱ボディーを持ったボマードちゃんと肉弾戦をして負けそうになったら泣くわ……
そこまで競れるということは実力が大幅に上回られていたのか、相性に関係のない部分で戦っていたのか、奇策を用いたのか……気になるところだ。
【上位権限】を持った者同士の戦いはいったいどれだけ凄惨な戦場が出来上がるのか怖いもの見たさで気になりはするが、過去にどんな戦いが繰り広げられたのだろうか。
「それは……【次元天子】&聖獣と深淵種族による全面戦争でした。
今はレイドボスとしてプレイヤーの前に立ち塞がっている聖獣ですが、あれらは私の武器のようなものですからね……
私のレイドバトルアナウンスでも散々耳にしていますよね、【聖獣を担うが故に】のことです。
これは【次元天子】としての権限で…… 【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
……この情報すらも開示できませんか……
いくらなんでも、この次元の底辺種族は聖獣巡りの進行パーセンテージが低すぎますね……これだから底辺種族は!
深度ばかり上げてどうしようというのですか……
ちなみに、運営からの情報によると……【聖獣巡り進行パーセンテージの最下位は包丁次元】と明言されていますからね、内部データですけど」
そんな内部の情報こんなところで話していいのか?
企業秘密的なやつじゃないのか?
変に聞いてはいけない情報を聞いてしまうとアカウントが飛ばされてしまうかもしれないので、内心冷や汗をかいている俺はおどおどと【菜刀天子】に問いかける。
そんな俺の表情を見てニヤリと笑う【菜刀天子】は趣味が悪いとしか言いようがない。
「底辺種族【包丁戦士】に言われるのは一番心外ですね……それは鏡を見てから言ってください……
機密として私の発言が規制されていない時点で問題ないはずですよ。
本当に話せない情報ならはじめからロックされていますからね」
……言われてみればそうだよな。
現実の人間とは違って、こいつの発言できるものはあらかじめ決まっているらしいし、そこまで心配する必要もなかったか。
そういう点でも種族人間の欠点が浮き彫りになるよなぁ……
【人の口には戸が立てられない】とはよく言ったものだ……
そういえばさっき、聖獣巡りっていう興味深いワードが出てきたんだけど、それについては聞けるの?
「……詳細については間違いなく機密に引っ掛かりますね。
表層だけなぞるように説明するなら、レイドボス攻略の進捗……のようなものです。詳しく説明すると色々と違いますし、込み合った事情もあるんですけどね」
こいつ絶対話せないだろうけど、こいつの手下みたいな扱いの聖獣をなんで俺たちに倒させようとするのかとか、深淵種族や次元天子のバックストーリーみたいなものとかフレーバーとして聞いておきたいんだよな……
絶対ロックされてて話せないだろうけど!
「そこまで強調しなくてもいいじゃないですか……
話せないのは事実ですけど」
やっぱりそうじゃないか!(完全勝利)
「しかし、話せないのは9割方底辺種族たちのせいですからね……?
あまりにも進みが悪いので、機密情報を解放できるキーが足りていないのです。
キーというのは……底辺種族【包丁戦士】にも分かるように説明するなら、グランドアナウンスで見られる実績のことです。
深淵関係のものばかり解放して、聖獣関係のキーは現れてすらいないものもあったのですからね!?」
あ、あそこにまだ出てきてないやつとかもあったのか……
実績候補として載せる必要がないくらいゴミのような進捗だったのだろう……
不甲斐ない種族ですまんな。
自らの不甲斐なさを詫びるために、腰に提げていた包丁で俺の首の上に乗っているものをストンと落とした。
そこから吹き出るのは鮮血ではなく、光粒子だったが、自分ながら見事なお手前だったと自負しながら死に戻りした。
うっそでーす!そんなことで詫びるわけないでしょ!
いやっぽー、お説教から逃れてフリータイムを満喫だ!
死に戻りした足で王宮を脱出し、新緑都市アネイブルにあるほのぼの市場で買い物に明け暮れる俺だった。
いや、見えてますからね?
迂闊な底辺種族ですね……これだから全く……
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