655話 雌伏のオメガ(挿絵あり)
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は【オメガンド】に会うために渓谷エリア……【地蒜生渓谷メドニキャニオン】に行くぞ!
深い理由は無いが、【菜刀天子】を倒した後に渓谷エリアって顔を出して無かったからな。
どんな風になったのか、あるいは変わってないのかを確認しておきたいのもある。
というわけでやってきました渓谷エリア……【地蒜生渓谷メドニキャニオン】。
何処かで聞いた記憶があるが、【新緑都市アネイブル】に深淵獣がしれっといるように、この【地蒜生渓谷メドニキャニオン】には機戒兵が何食わぬ顔で闊歩していた。
ただ、激戦区だった【無限湖沼ルルラシア】のように大量にいるわけではなく、あくまでも自然に……まばらな感じでここの生活に入り込んでいるようだった。
ここは【オメガンド】がいるはずなんだが、機戒兵についてどう思っているんだろうか。
さっさと冒険者ギルドに言って訊いてみるとするか。
「可もなく不可もなく……と言ったところじゃな!
わっちとしては他の種族の眷属たちに我が物顔で渓谷を歩かれるのにいい気はせぬが、悪事を働いておるわけではないのじゃ……
それに、機戒兵どもと敵対すると【荒野の自由】とことを構えることになるのじゃ。
深淵種族の長である【深淵域の管理者】ならともかく、十全の力を扱えなくなったわっちにはその選択肢は取れぬのじゃよ!」
冒険者ギルドでプレイヤーたちと交流していた黒い着物を着付けたギルドマスターである竜人ロリババア【オメガンド】に声をかけるとそんな回答が得られた。
【菜刀天子】という【上位権限】持ちレイドボスの拠り所を失った配下の聖獣たちは、これまでとは一転して弱い立場に追いやられつつあるということだな。
聖獣レイドボスたちに俺たちプレイヤーは苦しめられてきたが、こうも弱り目に祟り目のような状況を見せられると気の毒ではある。
【オメガンド】は黒い着物をパタパタと揺らしながら身振り手振りで少し大袈裟なアクションをしながら俺に説明していたから、この【地蒜生渓谷メドニキャニオン】を統括するギルドマスターとしての焦りもあるのだろう。
【オメガンド】はこの渓谷を完全復興させていきたいと言っていたからな。
「そうなのじゃ!
底辺種族たちを働かせて一部は復興したのじゃが、機戒兵共がここに来てからは物資を徴収されることがあって復興が遅れつつあるのじゃ……
世知辛いのじゃ~」
およよよ……と言わんばかりに手で目元の涙を拭う動作をしている【オメガンド】だが、別に涙を流しているわけではなくあくまでもフリだ。
この【オメガンド】は同じ聖獣レイドボスである【タウラノ】とは違って、芯が強く強かな性格でリーダーシップさえあるからな。
伊達に【菜刀天子】の忠臣を務めていたわけじゃないだろう。
まあ、強がりじゃなくて何かしらの打開策が【オメガンド】の頭のなかにはあるんだろう。
じゃなかったらわざわざ俺にここまで弱音っぽいことを話さないだろうし。
「それはそうなのじゃ!
今はまだおらんのじゃが、この渓谷がもう少し復興すればプレイヤーではないわっちの竜人の同胞が少しずつ帰ってくるかもしれないのじゃよ。
あくまでも量産型の機戒兵であれば力ある竜人の力で排除することができるじゃろう。
……もっとも、攻撃ではなく外に連れ出す形での排除じゃが。
プレイヤーが自発的に攻撃するのならともかく、わっちやその配下が直接的な攻撃をすると結局敵対することになるのじゃ」
ちなみに、深淵獣をここに送り込んで乱戦させるのはどうなんだ?
【無限湖沼ルルラシア】ではそうやって機戒兵を追い出したんだが。
俺がそう言うと【オメガンド】は露骨に嫌そうな顔をして機嫌を悪くした。
「深淵種族の手を借りるのは機戒種族たちの力を借りるよりもずっっっっっっと嫌なのじゃ!!!!
過去に【荒野の自由】率いる機戒種族たちと共闘して深淵種族と敵対したことがあるのじゃが、機戒種族の理念はわっちらとは軌道こそズレておるが方向は近いのじゃよ?
じゃから、今回も穏便に済ませようとしているのじゃ。
そこで目指す方向が真逆の深淵種族を連れてきては無意味どころか、復興してきている渓谷の環境が破壊されるのは目に見えておるのじゃ!
いくらお主が深淵種族と親交のあるプレイヤーだからといっても、それはあの狡猾な老害【深淵域の管理者】に唆されているだけだと思っているのじゃよ……」
【オメガンド】は最大警戒対象を深淵種族、そして深淵種族を率いるルル様としているようだ。
【荒野の自由】のことも警戒こそしているが、かつての共闘者ということで判断は甘めらしい。
まあ、妥当な判断だと俺も思う。
「わっちも早く自陣の戦力を整えて自衛くらいはできるようにしたいのじゃ……
焦りは禁物じゃがな!」
【オメガンド】はニカリと笑みを浮かべながらそう言い切った。
ミーの戦力もその間に拡張しマース!
【Bottom Down-Online Now loading……】