650話 後悔と憧憬と意地と包丁(挿絵あり)
「【邪神像】、とぐろを巻いてください!」
【検証班長】がこれまで出してこなかった指示を出し始めた。
とぐろを巻くのは基本的に蛇なんだが、【検証班長】は【邪神像】にそれをやらせたようだ。
巨大が巻かれていくにつれて俺はあることに気がついた。
こいつっ、俺が亀裂を入れたところを身体を巻くことで隠そうとしているんだな!?
そして俺も巻き込みすりつぶそうとしてきている。
この【邪神像】を戦闘運用すると決めた時点で不利になってきた時の動きもシミュレーションしてきたのだろう。
それが包丁次元のブレインと呼ばれる白衣の男、【検証班長】だ。
用意周到に策を張り巡らせてきた【検証班長】はこの次元のどのぷれよりも厄介だ。
俺は今それを身をもって体感させられている。
これまでのクラン対抗サバイバルイベントや、チュートリアル武器交換漂流イベントなどで【検証班長】が率いるチームと戦いはしたが、【検証班長】はルールによる縛りがあったので準備できる範囲も少なかった。
だからこそ俺が往なすことが出来ていたのだろう。
だが、今はこのゲームで【検証班長】が手に入れてきた資産……【邪神像】やプレイヤーたちとの繋がりを使うことに制限がない。
だからこそトッププレイヤーを二人もここに呼び寄せたり、【タウラノ】、【邪神像】というオーバースペックな存在に力を借りることにも容赦がない。
「ふふふ、【包丁戦士】さん、ボクは今凄く興奮しているんですよ!
これまでの戦いで活躍してきた【包丁戦士】さんとぶつかり合えることにです!
クランリーダーとして、そしてこの次元のプレイヤーに頼られている者として機戒兵側に立って戦っていますが……本音としてはどちらでも良かったんですよ。
そう、【包丁戦士】さんと戦えるなら!
いつも後ろで見ていることしか出来なかったボクが直接【包丁戦士】さんと戦えるこの場面さえ作り出せたらそれで良かったんです!
【包丁戦士】さんとの触れ合いがいつもボクに閃きと驚きを与えてくれた……だからこそ、そんな【包丁戦士】さんとぶつかり合えることでボクの殻をここで破らせてもらいますよ!
これは……ボクが向上できるかという壮大な検証ということだよ!」
【検証班長】は俺を睨みながら、心の枷が外れたように思いの丈を、感情を激流のように吐き出した。
そこには【検証班長】が自らが戦えないことによるコンプレックスや俺への憧憬が含まれていて、自らの隠してきたものを洗いざらい話したということだろう。
だが、それは後ろ向きなものだけではなくこれからの進歩のための糧とすると言っている。
その糧を自らに落とし込むための儀式として、俺との戦いを選んだということだ。
……光栄なことだな。
俺は巻かれていく身体への極太レーザーでの攻撃を継続しながらそんなことを思った。
だからこそ、この【邪神像】にはこれで眠ってもらうとしよう。
【検証班長】よ、俺……いや、俺の全力を受けてみろ!!!
スキル発動!【紅枝深淵】!
【スキルチェイン【深淵纏縛P】【紅枝深淵】】
【追加効果が付与されました】
【デメリットが増加しました】
【origin【紅枝深淵】】
【俺の前に立ち塞がる【検証班長】っ!】
俺は【邪神像】そして【検証班長】に向けて宣言する。
蕀を指を伸ばすようにして【検証班長】に対して最期通告をする。
うねるように伸びていく紅の蕀は今は俺の支配下にあり、城塞のように巨大な【邪神像】にできた亀裂がとぐろに巻き込まれる前に蕀を内部へと侵入させていく。
見えない部分での蕀の操作だが、アルベーの眼で力の流れを監視しているので問題ない。
お前は今でも充分凄いさ。
【深淵獣側とか機戒兵側とか関係なく、俺とお前の意地をぶつけ合おう】
ルル様の宿業……その中でも【深淵へ誘い】は俺と一致しており、【境界に流転する】という項目については微妙に似ている【聖邪の境界を流転させる】という宿業を俺は持っている。
この2つについて意識しながら力をコントロールしていき、【邪神像】の潜り込んだ紅の蕀を内部から張り巡らせていく。
だからこそ、俺も全力のお前と戦えて嬉しいし、楽しい!
【お前が成長を望むのなら、俺色に染め上げてやるよ!】
これまではルル様に意識を塗りつぶされそうになりながら使っていた【紅枝深淵】も今は自然と俺の意思に従って、ルル様の意識を片隅へと追いやりながら力を行使できる。
紅の蕀は内部から【邪神像】への棘を突き刺していき、その力から逃れられないように入念に堕とす準備を整えていっている。
この戦いで成長をしたいのなら、俺の渾身の一撃をその身で味わってみるんだな!
【これが俺の1つの到達点っ!】
この力はルル様の奥義であり、偶然にも俺がその本質を垣間見た結果使えている力だ。
俺はこの力を幾度となく使用して数々の強敵と渡り合ってきた。
本来はルル様という存在を証明するためのスキルなんだろうが、俺にとってもゲーム内での存在を証明し、主張してきた力となっている。
そして、その到達点をお前にも真っ正面から見せてやるよ!
さあ、征け!征け!征け!
これからの道程、そしてこれからの道程を切り開くものとしてお前に1つの指針となってやる!
今こそ解き放とう、俺らの力の真髄!
その名は……
【スキル発動!【紅枝深淵】っ!】
そして、この戦線の戦いは終結することとなった。
……。
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