644話 強欲な衝撃
「おいおいおいwww
あのタイミングで【釣竿剣士】を狙うなんて鬼畜過ぎワロタwww」
ワロタとか言いつつも、苦笑いを浮かべている【風船飛行士】。
そりゃそうだろうな。
だって最上級戦力と言っても過言ではない【釣竿剣士】をこの場面で失ってしまったんだからな。
いくら【風船飛行士】の態度がふざけたものだからといっても、あいつの脳内は【検証班長】に劣るとも勝らず……それでもこの次元でもトップクラスに頭がキレるんだからな。
お得意の並列思考で【釣竿剣士】が落ちたことで取れなくなった戦法や、これからの自分の動きを再計算しながら立ち回っているに違いない。
俺と敵対している三人……いや、二人のトッププレイヤーだからそれくらいはやってくれないとな。
「【大罪魔】の進行そのものは防げていますけど、その分プレイヤーの被害があまりにも大きいですね……
【釣竿剣士】さんも死に戻りして、プレイヤーも百人以上この時点で死んでるというのは【菜刀天子】討伐総力戦以上のペースで消耗してるってことですからね!
いくら初見のプレイヤーが多いからとはいえ、これでは深淵獣の侵略を許してしまうよね……」
タンクプレイヤーに守られている【検証班長】が頭を抱えている。
俺がその立場だったら同じことをしていただろう。
「頼みの綱の【釣竿剣士】が死んだでおじゃるが……?
妾に勝機あるのでおじゃるか?
でも、とりあえず全体の被害を抑えるためにバフからデバフに切り替えるのでおじゃるよ!
なんとかしてほしいでおじゃる!
スキル発動!【丑刻参釘】っっっ!」
【タウラノ】は手に藁人形と釘を出現させた。
そして、藁人形に釘を突き刺している。
すると、俺と【大罪魔】に強烈な負荷がかかり、動きが目に見えて鈍くなっていった。
【釣竿剣士】が機能していたらあいつ一人に対処を任せていたら良かったんだろうが、大黒柱が折れた状況ならその【タウラノ】の判断は賢明だろうな。
倒壊寸前の家屋を支えるには倒れてくるものの重量そのものを軽くするのが被害を抑えるには手っ取り早いからな。
「次から次に鬱陶しかったりする……
……そういえば、かつての対戦で私にデバフをかけてきた聖獣がいたとか、いなかったとか……
念入りに潰してあげるの!」
【【強欲】だったり、【強欲】じゃなかったりする……】
【大罪魔】は再び軸の大罪を変化させていくようだ。
衣装が弾け再構成されていくと、【大罪魔】は堅牢な騎士の鎧に包まれ頭には防護用のヘルメットを被っていた。
この女騎士のような姿はピッケル次元のMVPプレイヤーである【石動故智】の力を行使するためのものだな!
手にはピッケルが握られており、【風船飛行士】がオート照準で放ってきている魔法攻撃を地面に撃ち落とし始めた。
【強欲】の力を身に纏った状態ならその程度お茶の子さいさいって感じだ。
そして【大罪魔】に迫った目前の身の危険が去ったことで新たな攻撃を開始する。
「衝撃だったり、破壊だったりする……
【スマッシュ】なの!」
姿を変えた【大罪魔】がまず行ったのは、【石動故智】が愛用していたカタカナスキルである【スマッシュ】を繰り出したことだった。
ピッケルを大きく振りかぶって【風船飛行士】を殴打し、目にも止まらぬスピードでその身体をぶっ飛ばしていった。
「うぉぉぉぉぉっwww
吹き飛ばされるwww」
「不味いでおじゃる!?
スキル発動!【休息万命急急如律令】でおじゃるっ!」
機戒兵側の主戦力の一人である【風船飛行士】が吹っ飛ばされていく様子を見た【タウラノ】は、慌てて呪符を【風船飛行士】へと投げて回復の呪術を付与していっている。
やはり【タウラノ】は臆病なだけあって、不利な状況下での判断はとてつもなく早いな。
今までの行動を見ても、プレイヤーの思考スピードよりも一歩先を行く判断力で行動を起こしているのは戦闘経験が豊富なレイドボスだからだろうか。
ルル様に小者小者とよく言われているから勘違いしがちだが、【タウラノ】自身の戦闘経験はプレイヤーよりも圧倒的に多いはずだ。
俺たちプレイヤーがこの次元に参入する前から深淵種族たちと激戦を繰り広げていたんだから当たり前のことではある。
それでも本人(?)の言動から滲み出る小者感が実力を過小評価させてしまうんだろう。
俺もそう思って【タウラノ】にソロでレイドバトルを仕掛けたことがあったが、結果は見事に惨敗している。
どんな在り方であってもレイドボスはやはりレイドボス。
侮っていい存在ではないということなのだろう。
「急になんでおじゃるか!?
照れるでおじゃるよ……!」
俺の言葉に反応し、嬉しそうに顔を赤らめる【タウラノ】。
こういう反応が可愛いんだが、一方でチョロく見られる原因の一つなんだよなぁ……
……。
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