642話 罪のクロス
「いきます、釣竿一刀流【抜刀斬】!」
【タウラノ】による全面的バックアップを受けた【釣竿剣士】は釣竿を一度釣竿ケースに戻すと、そのまま中腰の姿勢で【大罪魔】へとにじり寄っていく。
釣竿一刀流【抜刀斬】は自分の周囲に円状の警戒陣を張り、そこに入り込んだ存在に超スピードで切りかかるオートカウンターであるが、【釣竿剣士】はこれを能動的に発動させるために距離を詰めたのだろう。
そして、【釣竿剣士】がピクリと反応すると次の瞬間には【釣竿剣士】は【大罪魔】の目の前へと瞬間移動を思わせるようにいつの間にか移動しており、そこで釣竿ケースから釣竿を引き抜く勢いで【大罪魔】へと斬りつけた!
流れるような神業に対して【大罪魔】は反応こそ見せたものの、それを実行に移す前に全身を晒している状態で攻撃を受け止めることとなった。
「ううっ……これは痛かったり、想定以上だったりする……
聖獣の加護を目一杯受けたプレイヤーはここまで厄介なの……?」
【大罪魔】は【釣竿剣士】の強烈な一撃に困惑しつつも、それ以上の追撃をふせぐために釣竿一刀流【憂鬱三ノ型ー憂イノ雷】によって雷を纏った釣竿で【釣竿剣士】と打ち合っている。
「このまま押しきります!」
「……【憂鬱】では手の内がバレていたりする……?
それなら……」
【大罪魔】は一度後退して【釣竿剣士】から距離を取ると、全身を覆うように力を纏い直していく。
【【虚飾】だったり、【虚飾】じゃなかったりする……】
【大罪魔】はその言葉で、黒を基調とし、所々白いアクセントのあるシスター服へと着替えた。
そして、背中には身体よりも少し大きいのサイズの十字架を背負っている。
幼い見た目にシスター服という清廉な雰囲気を思わせる見た目になったが、実際は人の欲望を吸い上げる底無しの我欲にまみれた存在であるというのが皮肉だな。
これは十字架次元のMVPプレイヤー【綺羅星天奈】の服装か。
【綺羅星天奈】は攻撃ではメインアタッカーを務める動きと防御ではバッファーとタンクを務める動きができる役割の引き出しが多いプレイヤーだった。
【大罪魔】がここで【虚飾】の十字架を扱う理由はどっちだ……?
「姿が変わっても同じことですっ、釣竿一刀流【石砕き】!」
【釣竿剣士】は釣竿に鉄球と取りつけて【大罪魔】へと殴りかかってきた。
ここで一発大きいダメージを追加したいという想いからその技を選んだんだろう。
だが、俺の予想通りならこの後の展開は……
「純粋な物理攻撃ならこれで充分だったり、過剰だったりする……
【天元聖域】なの!」
【大罪魔】は背中の十字架を地面に突き立てて、その十字架から【大罪魔】を包み込むように黄金色に輝く風が発生し始めた。
そして、黄金色に輝く風域によって鉄球による攻撃はまるで、黄金の壁を相手にしているかのように弾き返されてしまったようだ。
俺も【綺羅星天奈】を相手にした時は同じように包丁を弾かれてたな……
あの時は結局このスキルを自力で突破できなかったから、下手するとタイマンだったら【綺羅星天奈】に勝てない可能性すらあるな。
ちなみにこの【天元聖域】は【天元顕現権限】と十字架次元の【流動】のスキルである【風流聖域】のスキルミックスによって生まれたスキルだ。
チュートリアル武器の十字架を媒介にした聖域……【天元聖域】はスキルミックスの影響で物理攻撃とデバフに対して強い守りとして働く強固な壁となる。
つまり、突破するなら魔法攻撃みたいな物理以外の手段でダメージを与えていくのが攻略法なんだろうが……
「【釣竿剣士】さん、それは物理攻撃を遮断するスキルです。
ここは魔法系統で攻めましょう!」
【検証班長】にはこのスキルのことを話してあるので、情報は一瞬で看破されたな。
仕方ない、次元戦争の内容は毎回説明していたからな。
情報アドバンテージは握れないが、それを上回るほどのスペックが【大罪魔】にはある。
【釣竿剣士】だけを相手にしているのなら【釣竿剣士】と戦うついでに周りに被害を与えていくのも可能だからな。
この状態が続けば機戒兵は殲滅できるはずだ。
膠着状態こそが俺たちの狙いですらあるからな。
もちろん、【大罪魔】が完全フリーになるのが一番の理想ではあるが、そうなったらそうなったで最悪同じ【上位権限】レイドボスである【荒野の自由】が止めにくる可能性が出てくるからな。
あえて、ほどよく止まっている……ような感じになっていれば相手もほどよく安心してくれるのだ。
これはプレイヤーキラーとして活動する上でも使えるテクニックだ、覚えておいて損はないぞ!
「【釣竿剣士】だけならなwww
わざわざ【検証班】のメンバーが伝言しに来たから戦線をクランメンバーに任せてオレだけこっち来たぞwww
ヒーローは遅れてやってくるってことンゴwww
おっおっおっwww」
上空から風船を使ってフワフワと降りてきているチャラそうな男が騒がしい声を上げながら戦線へと介入してきた。
うわっ、この状況で来て欲しくないランキングトップクラスの鬱陶しいやつが来たぞ!?
まるで俺に嫌がらせでもしたいのかというタイミングだ。
……。
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