641話 よく見る助っ人(挿絵あり)
「【師匠】の技を使ってきたのには驚きましたが、レイドボスなので威力はともかく、技の冴えは【師匠】の方が上のようですね。
これなら……釣竿一刀流【波載】!
さらに釣竿一刀流【斬祓】!」
【釣竿剣士】は【大罪魔】の放った釣竿一刀流【憂鬱壱ノ型ー憂イノ吹雪】による猛吹雪に対抗するために、波のエフェクトを釣竿に付与する釣竿一刀流【波載】と、釣竿を高速振動させる釣竿一刀流【斬祓】を同時展開した。
波のエフェクトは吹雪によって凍らされていくが、それを釣竿一刀流【斬祓】による高速振動ですぐさま分解し【釣竿剣士】へ一点集中して押し寄せる吹雪を直前で無力化していっているようだ。
前はあんな器用な芸当をしてこなかった記憶しかないが、あそこまで見事にこの高威力の攻撃を防ぐとはな。
【釣竿剣士】の体力とかが桁違いになったらレイドボスとしてそのまま実装していいレベルだぞ!?
「むっ……
思ってたより簡単に防がれたり、あしらわれたりする……
技自体は有効なはずなの……?」
【大罪魔】も通ると思っていた攻撃を【釣竿剣士】の技によって防がれたことに困惑しているようだ。
「でも【憂鬱】にはまだ手札があったりなかったりする……
釣竿一刀流【憂鬱三ノ型ー憂イノ雷】なの!」
【大罪魔】が天に掲げた釣竿から雷が放たれ、戦場に落雷が発生し始めた。
雷が落ちる度に地面が焦げていき、沼地が蒸発していっている……
これは不味いっ!?
俺も身の危険を察知したので水辺(沼地)から足を引き抜き、その辺にいた深淵獣の上に騎乗していく。
俺はリデちゃんと違って深淵獣をテイムしているわけじゃないが、俺の種族の影響か一応乗せてくれた。
そして、その直後沼地にいたプレイヤーや機戒兵、そして深淵獣も丸焦げになり光の粒子となって消えていっている。
一方で陸地にいたやつらはほとんど無事みたいだな。
「流石に肝を冷やしましたね……
【師匠】よりも大規模なだけあって、迎撃は無理でした……
釣竿一刀流【飛翔】で回避してなければ私も死んでいたのは間違いないでしょうねっ……!
悔しいですがやはりレイドボスの出力は侮れません」
【釣竿剣士】はもはや【オメガンド】の天雷に勝るほどの雷たちを回避していき、冷や汗を流しながらも再び【大罪魔】と対峙した。
釣竿をプロペラのように回して飛ぶ姿は人類を超越した姿ではあるが、どこか滑稽にも見えるぞ。
「滑稽とは失礼ですね【包丁戦士】さん……
飛んでる姿を自分で見たことあるので否定はしませんけどね!」
一応自覚はあったのか。
「【釣竿剣士】さんでも抑えることすら難しいようだね。
【菜刀天子】の時も思ったけど、【上位権限】レイドボスは攻撃を防ぐことすら運に任せる必要がありそうです」
「【検証班長】さん、流石にあれを温存しておくのはもう限界じゃないですか!?
一人で抑えるのは生産プレイヤーである私でも無理ですよ!」
おっ、【検証班長】たちにも何か隠し球があるようだな?
出し惜しみしてもいいが、この力を解放した【大罪魔】を抑えきれるのか?
いや、俺としてはこのまま勝たせてもらえるなら全く損じゃないし楽だからいいが……
「本当は【深淵域の管理者】が出てくるまで温存したかったですが、どうやら他のトッププレイヤーたちは別のところで足止めされているようですしこのままでは敗北が見えていますか。
やむを得ないですね、ここで切り札を使いましょう!」
【検証班長】は白衣のポケットから取り出した和紙……式神を宙に投げた。
あの式神は見覚えがある。
俺の予想通りなら、これまでの戦いで俺が何度もお世話になったあいつが出てくるはずだ。
「妾の登場でおじゃる!
出てきたからには活躍させてもらうでおじゃるよ!
……ってなんでおじゃるか!?
相手が深淵種族じゃないでおじゃるよ!?
話と違うでおじゃる!
……とりあえず、スキル発動!【六根清浄急急如律令】!」
そして、その式神が姿を変えて狐耳ロリ陰陽師の【タウラノ】が出現した。
【タウラノ】がスキルを発動させて投げた呪符はいつもと違いプレイヤーに撒き散らすのではなく、【釣竿剣士】一人に貼り付いた。
一点特化の強化ってところか?
【タウラノ】は出てきて早々に小者感のある言動をしていたが、本来深淵種族へのカウンターとして【検証班長】が話をつけていたっぽいからまさか全く別の存在である【大罪魔】が目の前にいて驚くのはやむを得ないとは思う。
それを含めたとしても反応が小者っぽいけどな!
でもちゃっかり与えられていたであろうバフを撒く役割を果たしているから文句は出なさそうだ。
「小者だったり、臆病者だったりする……
でも、聖獣がここで出張ってくるのは分かってたの!
【暴食】、あれいけるの?」
……んー、今のあいつは本体じゃなくて式神だから無理そうだな?
そもそも、本体だったとしても【タウラノ】の性質的に聖獣でも効かなさそうだけどな。
【菜刀天子】があの時やって来なかった時点で分かってたけど。
「使えなかったり、無能だったりする……
よりによって効かない聖獣が出てきたのは面倒なの!
こうなったら力押ししたりする……」
「ほれ底辺種族【釣竿剣士】よ、妾を守るのでおじゃる!
妾の呪力を一点に集めたでおじゃるから、ある程度は戦えるはずでおじゃるよ!」
「当然ですよ、生産プレイヤーなら!
切り札を切ったからにはあなたの冒険はここで終わりですよ!」
【タウラノ】が現れてから体勢を立て直した【大罪魔】と【釣竿剣士】はそれぞれ釣竿を構えて、間に火花が走るのを幻視してしまうほど熱く睨み合っていた。
……。
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