638話 エネルギーためため
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は【検証班長】たちによる猛攻をなんとかすべく根本対策をしようと思う。
ちなみに、戦場では分かりやすいところだと……俺のクラン【コラテラルダメージ】のメンバーや、クラン【裏の人脈】、クラン【包丁戦士狂教団】などが防衛に当たっているようだ。
俺がそんな面白そうな戦場に今日は参戦できないのが正直残念ではあるが、勝つためには真っ向勝負だけしてても埒が明かないようだからな。
【検証班長】に真っ正面から宣戦布告されたのもある。
あそこまで正面切って宣言されたのなら俺も負けてやるわけにはいかない。
相手が包丁次元のブレインだからといって、今や次元天子となった俺が負けると悔しいからな。
このユニーククエストが終わってから煽られるネタになるだろうし、先手を打って逆転の手口をあらかじめ用意しておきたい。
……というわけでやってきました草原エリアにある元【槌鍛冶士】の鍛冶場。
そのひっそりとした鍛冶場の奥まで歩いていくと、奥のスペースでは銀髪褐色ロリの【大罪魔】が我が物顔でくつろいでいた。
「快適だったり、極楽だったりする……
ここは力が集まる場所として作られているみたいなの」
まあ、【槌鍛冶士】のことだから簡素な見た目のものと思わせて実はすごい施設を作っていたというのは大いにあり得る話だ。
他の種族の【上位権限】レイドボスである【大罪魔】ですら快適に過ごせるのなら、それだけで一級品なのだろう。
ま、今日はそんなことを話しに来たわけじゃない。
【大罪魔】のために盗ってきた【失伝秘具】があるからな。
こいつを見てもらおうか!
俺はそう言うと、ごく僅かな膨らみしかない悲しみのカルマを負った胸元から歯車のようなものが内臓された時計を取り出した。
この前【バットシーフ】後輩が【機戒監獄】でしれっと盗んできてくれた盗品である。
「……!?!?!?
驚きだったり、驚愕だったりするっ!?
な、なんでよりによってこれを持ってこれたのか気になったりするっ!?」
基本的に表情の変化が少ない【大罪魔】が珍しく表情を青ざめさせたり、上気させたり、目を見開いたりとコロコロと変えている。
そんなにこれを持ってきたことが意外なのか?
俺はここまで【大罪魔】が驚く理由が分からないので直接問いかけていく。
たしかに【失伝秘具】は珍しいものだが、こいつは前にも【槌鍛冶士】と作り上げていた。
だからこそ、これにそこまで驚くとは思っていなかったのだ。
【個人アナウンス】
【【ユニーククエスト 大罪の失伝】をクリアしました】
【【包丁戦士】に称号【【失伝秘具】奉納者】を付与しました】
【称号の効果で【Bottom Down】!】
【【包丁戦士】の深度が74になりました】
【【『sin』ーーー大罪を司る悪魔】が一時的に他のユニーククエストに乱入可能になりました】
「そこらの【失伝秘具】だったら驚かなかったはずなの。
次元天子の秘宝でも、深淵種族の秘策でも……
だけど、まさかよりによって私の天敵の【荒野の自由】から秘密兵器を持ってくるなんて思っていなかったの。
例には挙げたけど、普通なら持ってこれなかったりする……」
普通なら……か。
確かにその可能性は高いかもしれないな。
銅ゴリラとあんな弾幕シューティングゲームを繰り広げながら厳重に保管されていたであろう【失伝秘具】を盗むのはこの次元でも……いや、もしかすると全ての次元を含めたとしても【バットシーフ】後輩しかやり遂げられるプレイヤーはいないかもしれない。
それほどあいつの盗みは神業と言えるだろう。
ともかく、そんな経緯で手に入れたからこそ俺は【大罪魔】に見せにこれたわけだ。
「これは【失伝秘具】【クロックギア】。
時計の針が進むにつれてエネルギーがたまるものみたいなの。
【荒野の自由】はこれで溜め込んだエネルギーで敵を一掃するのが最終手段だったりした……
他にも効果があったり、なかったりする……」
あ、敵を一掃する攻撃はこの【失伝秘具】そのものの性能じゃなかったのか……
あくまでも【荒野の自由】が使った場合にはそうなるってことね。
「触れてみて分かったけど、一番相性がいいのはやっぱり【荒野の自由】だったりする……
でも、このエネルギーを解放すれば私が【無限湖沼ルルラシア】に介入することは可能だったりする……
つまり【荒野の自由】に一泡ふかせてやれるの!」
すっかり殴り込みムードとなった【大罪魔】と明日のことを話しながらログアウトまでの時間を過ごすこととなったのだった……
……。
【Bottom Down-Online Now loading……】