635話 ラッキーパンチ
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
やっぱり天子王宮でのログインは快適でいいな!
あの監獄でログインしたときよりも身体が軽く感じられるし。
というわけで【機戒監獄】から脱出出来たのでログイン地点の固定が解除されたぞ。
そんな天子王宮には俺以外の人影もある。
以前なら九割方【菜刀天子】が登場してくるところだが、今回現れたのは先日一緒に脱獄を果たした【バットシーフ】後輩だった。
お前からこの天子王宮まで訪ねてくるのって珍しいな?
「いや、だって気になるじゃないッスか!
なんであの監獄と【荒野バー】が繋がってたッスか!?
違和感しかないッスけど……」
それは俺も気になっていたことだ。
以前【荒野バー】が実績照会に出てくる施設のわりに地味なものだと言ったが、あそこから監獄に繋がるというのなら話は変わってくる。
何せレイドボスが生息している場所への入り口ってことだからな。
あの【機戒監獄】は特殊な条件で連れ去られるか、【荒野バー】から入り込むことで行ける隠しエリアと思っておいて支障はないだろう。
「あっ、そういうことなんッスね!?
俺っちには何がなんだか分からなかったッスよ……
あの時は色々と混乱していて頭の整理が今でも出来てないッス……」
やはりこの【バットシーフ】後輩、ちゃっかりしっかりしているわりに柔軟力に欠けるな。
土壇場に弱いというのか、チャンスを活かしきれないというのか何と言って良いのかわからないが、不憫なやつである。
「あの看守倒したらどんなスキルが手に入るッスかね?
やっぱり柵関係ッスか?」
それは俺に聞かれても分からんぞ?
まあ、柵か封印かその辺に関係するものだと俺も思う。
どっちでも面白そうだが、流石に深淵スキルメタの封印能力だったら俺が号泣するハメになるのでやめて欲しい気持ちはある。
「全プレイヤーが深淵スキルを封印してきたら先輩が急激に弱体化するッスからね……
あとボマードちゃん、【トランポリン守兵】先輩、【フランベルジェナイト】、【骨笛ネクロマンサー】も影響を受けそうッスね。
みんな深淵に関するスキルをそれぞれ多用してるッスから」
そうだな。
だが、今【バットシーフ】後輩が挙げた中では【トランポリン守兵】お嬢様や【フランベルジェナイト】は深淵の力を行使しなくても一般的なプレイヤーよりも群を抜いた実力を持っているから問題はないだろう。
一方で、ジェーライトに頼らないと自力で戦えないボマードちゃんや、【堕音深笛】が戦闘の核になってる【骨笛ネクロマンサー】はかなり厳しくなりそうだ。
というか、戦闘開始直後から降参しないといけないレベルですらある。
そう考えると俺はまだマシか。
一応天子の力や、大罪の力も使えるからなんとかはなる。
「そういえば話は変わるッスけど、俺っちあの監獄で面白いもの盗ってきたッスよ。
今日ここに来た本題はこれッス!」
【バットシーフ】後輩はそう言うと、ポケットから歯車のようなものが内臓された時計を取り出した。
一瞬中々渋い趣味だなと思ったが、これの入手先を聞いてちょっと引いた。
あの監獄から抜け出すときになんか言っていたが、これを盗んでいたのか。
あんなギリギリの逃亡劇を披露している最中に自然に盗みを働くのは、もはや習性と言っても過言ではないだろうな。
……で、この時計だがあらゆるものを見て盗んできた【バットシーフ】後輩がわざわざ俺に見せに来ただけあって、普通の時計ではないようだ。
流れる力がレイドボスの持つものと遜色がない。
これ自体に巨大なエネルギーが伴っているのだろう。
「これ、なんだか凄そうッスけど俺っちには何かよく分からないッス。
だから先輩なら分かるかと思って持ってきたッスけど、分かるッスか?」
【バットシーフ】後輩はただの直感でこれを持ってきたらしい。
だが、俺はこれに流れるエネルギーの大きさに身に覚えがある。
なんなら最近の力を自ら振るったことさえある。
そう、これは【失伝秘具】だ!
それも、前に【大罪魔】が言っていた【荒野の自由】の秘密兵器のやつだ。
敵を一掃する攻撃を放つことが可能とかなんとかいっていたが、【バットシーフ】後輩はよくもまぁそんなキーアイテムをさらっと盗めたな。
「つい手癖で盗んじゃったッス!
俺っちに盗めないものは基本的にないッスからね。
大事に隠されていても、守られていても盗むのはお茶の子さいさいッス!」
それは誇って良いことなのか……?
いや、こいつは別世界の人間だから常識が通じないんだった……
……。
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