631話 看守と窃盗の達人
【Raid Battle!】
【荒野の自由】
【????】
【機戒天使】【上位権限】【保安官】
【螺旋のように回る歯車は輪廻の象徴】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【罪を裁き悪を挫く】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【罪を迎え撃つ雌伏する弾丸は】
【増長する悪意を討ち滅ぼす】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日もやっぱり【機戒監獄】からログインさせられてしまったな。
そして相変わらず俺の正面の檻に入れられているのはシルクハットを被った【バットシーフ】後輩だ。
「先輩、やっぱり先輩もここにログイン場所を固定されたっぽいッスね。
これで俺っちたちは運命共同体ッス!
一緒に脱獄を目指すッスよ!」
後輩に慕われているのは悪い気がしないものの、脱獄をしようと持ちかけられるのはなんだか複雑な気分だ。
だが、こいつの言う通り協力して抜け出さないと埒が明かない。
とりあえずお前の手癖の悪さで鍵を盗んだり出来ないのか?
ここの檻は普通に鍵穴があるし、それさえ手に入れたら出れそうなものだが……
「それがそう簡単に行かないッスよ……
ここの看守が厳重に警戒しているッスから……」
看守?
昨日はそんなやつ見かけなかったが、鍵や俺たちを見張るやつがいるってことなのか?
「そういうことッスね。
実は一回だけ鍵を奪取してこの檻から抜け出せたッスけど、すぐに看守に見つかって死に戻りさせられたッス……
俺っちの盗みの力があれば高確率で檻から出ることは出来ても、この【機戒監獄】自体からは抜け出せないって感じッスね」
おっ、流石は【バットシーフ】後輩。
檻に閉じ込められてもなおその盗みに支障はないってことか。
だが、出てもその看守に見つかり倒されるから意味がないと。
その看守ってどんな感じのやつなんだ?
人型か?
「人型と言われたらそうかもしれないッスが先輩が思い描いているのとは多分違うッスね、どう考えてもモンスターッスよ!
アナウンスも流れてくるッスから間違いないと思うッス!」
アナウンス?
つまり、ここの看守は……
「先輩の想像通りレイドボスッスね!
ほら、さっそく来たッスよ!」
【バットシーフ】後輩が迫り来る気配に気がつき俺に伝えてきた。
そして脳内に無機質なアナウンスが鳴り響く。
【Raid Battle!】
【監柵の機戒大猩々】
【レイドバトルを開始します】
俺の前に現れたのは銅色に鈍く輝くゴリラだった。
輝いているのは毛並みというよりは銅線が毛のように見えるだけみたいだ、銅そのものが身体を形成しているからだろう。
機戒と名前にあることから、機械チックなレイドボスってことだな。
「とりあえず戦うのはオススメしないッス!
俺っちと先輩は機戒種族との相性が悪いッスからね。
【荒野の自由】と戦ったときにそれはよくわかったッス」
ほう、なんかさっきから思ってたんだが【バットシーフ】後輩の情報整理上手くなってないか?
このゲームで出会った時よりも成長が感じられる。
「クラン【裏の人脈】で何故か鍛えられたッスからね……
なんで入ってないクランの活動の軸にされてるのか今も分からないッスけど、その経験が無駄じゃなかっただけマシッスね」
ああ、なんか怪しい名前のクランな。
俺は遭遇したことはないが、地味に知名度はあるらしい。
【検証班】と比較されるくらいだからな。
なお、規模と戦闘力には差がある模様。
そんな雑談をしていたら【監柵の機戒大猩々】は通りすぎていったようだ。
完全に見回りに来ただけっぽい。
……で、【バットシーフ】後輩は目的を果たせたのか?
「えっ、流石先輩ッスね!?
後から説明して驚かせようと思ってたッスけど、先輩にはバレバレッスか……」
【バットシーフ】後輩は袖の中から銅で形成された鍵を取り出した。
まあ、ちゃっかりしてるこいつなら勝手にやらかしてくれるとは思ってたぞ。
それが分かっていても俺の目で追えない手際のよさで盗んでいたのには、感服するしかない。
こいつの盗みに敵うやつはもはや存在しないんじゃないかと俺に思わせるほどである。
「看守が通りすぎる時につい手癖で盗んじゃったッスね!
後からどうせ必要になると思ってたッスから丁度いいッスよね?」
最高だな俺の後輩は!
ちょっと頼りない時も多いが、キメるときはキメてくれるのは普通に助かる。
織田信長も本能寺を叩いて渡る感じだな(???)。
テンションが上がった俺は意味不明な例えをして【バットシーフ】後輩を誉めていく。
ここに幽閉されたやつが【バットシーフ】じゃなかったら脱出の目処すらたっていなかったはずだからな。
何せ俺ではあの【監柵の機戒大猩々】が鍵を何処に持っているのかすら分からなかったのに、この【バットシーフ】後輩はその状態でも瞬時に鍵を盗みとったのだからな。
まさに適材適所だ。
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