625話 歳の差キカイなペア
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は普通に沼地エリア……【無限湖沼ルルラシア】で深淵獣を排除するプレイヤーたちと戦おうと思う。
というわけでやってきました沼地エリア……【無限湖沼ルルラシア】。
そこでは今まさにボマードちゃんがやられている最中だった。
「流石に二対一で私が勝てるわけないじゃないですか!?
いや~、というか一対一でも勝てそうな気配が無かったんですけどね……
あっ、【包丁戦士】さん、運命的な出会いですね!
後は任せましたよ!
スキル発動!【名称公開】!」
ボマードちゃんは自身が光の粒子となっていく最中にスキルを発動して、下手人へと干渉していく。
まるで地獄からの呪いを思わせるかようにデバフの枷としてのし掛かっていく。
そして、その対象とは……
「あらら、このタイミングでお嬢ちゃんが来るなんてオジサンツイてないねぇ……
よりによって【名称公開】を受けた直後にプレイヤーキラーのお嬢ちゃんとは当たりたくなかったねぇ……」
そう、俺と似たマントを羽織った常に不機嫌そうな表情を顔に浮かべるオジサンプレイヤー、【短弓射手】である。
俺の天敵プレイヤーであるが、開始早々にデバフくらって弱体化した状態なのは非常に助かる。
グッジョブボマードちゃん!
そして、ここには【短弓射手】と手を組んでいたと思われるプレイヤーがいた。
それは赤色に黄色の模様の入った機戒兵にのっている件の【パイロット】女モブプレイヤーだった。
「オジチャン!
でもこっちは二人のままだから【包丁戦士】が相手でも勝てるんじゃない?
私と【フレイムギア】はまだまだ頑張れるよ~!」
「そうか、リデちゃんは若くて元気があるねぇ……
オジサンに連戦は中々堪えるものはあるけど、もう一丁踏ん張らせてもらおうかねぇ!」
ほう、あの【パイロット】女はリデちゃんと言うらしい。
おい、リデちゃんとやら。
その名前ってどうせ愛称なんだろ?
もし2つ名とかあるなら教えてくれよ、お前だけ俺の名前を一方的に知ってるってのはどうもやりにくいからな。
戦況をそこまで左右するものでもあるまいし、戦闘前に教えてくれよ。
俺が女モブプレイヤーってわざわざ呼ぶのが面倒臭くなったので直接本人に聞いてみることにした。
「そう言われてみれば自己紹介なんて【包丁戦士】にしたことなったよね!
これはうっかり!
私は【リフレクトミラーディフェンダー】だよ~
チュートリアル武器はこの鏡ってわけ!」
【リフレクトミラーディフェンダー】は盾のように装備していた鏡を俺に見せてきた。
サイズとしては大型な盾と言ったところだが、タンク系チュートリアル武器を扱うプレイヤーだったか。
「タンクの動きは苦手だからあんまり目立ってなかったけどね。
2つ名も長いからみんなは略してリデちゃんって呼ぶよ!
【包丁戦士】もリデちゃんって呼んでね~」
「オジサンも全く同じこと言われたからリデちゃんって呼んでるけど、愛称で呼び掛けるのはなんだかむず痒いねぇ……」
この二人、年の差の割には仲が良いな?
怪しい……
ま、そんなことは置いておいて、そろそろヤろうか!
久しぶりに【短弓射手】とヤれると思うと身体が疼いてくるんだ!
前見かけたときは無理やり身体を抑えて我慢してたからもう、欲求が破裂しそうなんだ!!!
そんなことを赤裸々に明かしながら腰に提げた包丁を手に取って【短弓射手】へと駆け出していく。
【短弓射手】はそんな俺に対して弓をマシンガンの如く乱射して、俺の進路を妨害してきた。
「そんなはしたない言い方は止めて欲しいねぇ……
オジサン、所帯持ちだから間違いでも起こると嫌だからねぇ!」
【短弓射手】はジョークの通じるやつだから俺の発言に対しても乗りつつ、きちんと拒否してくるという大人の対応をしてきた。
「むぅ……っ!!
オジチャンは渡さないよ~!
【フレイムギア】!オジチャンと【包丁戦士】の間に入って進路をふさいでっ!」
おっと、リデちゃんは【短弓射手】にお熱のようだ。
俺が【短弓射手】に熱いリビドーをぶつけていこうとしたのをシャットアウトして、【短弓射手】の射線を塞がないように機戒兵を差し込んでタンクプレイヤーのような壁役を引き受けた形になったな。
機戒兵のようなプレイヤーよりも頑丈なスペックをもったやつが壁として塞がってくるのは厄介だ……
こいつだけなら淡々と処理できるが、こいつの後ろにいるのが技巧派乱射の【短弓射手】っていうのが実に嫌らしい。
機戒兵のパンチを飛び退いて回避しようとすると、その回避先を読んでいたかのように矢が連なって飛んでくる。
このまま回避すると間違いなく矢によって串刺しにされてしまうので身体を無理やり捻り、横に転がり込む。
「ひゅ~、やるねぇ!
今のを回避できるのは流石はお嬢ちゃんってところだねぇ……
リデちゃんだったらこうはいかないよ」
「もー!!!
私だってやるときはやるんだからね!
見ててよオジチャン!」
リデちゃんはチュートリアル武器の鏡を手にとり俺に接近してきた。
お得意の機戒兵じゃなくて自ら来るとはいい度胸だな?
そんなに【短弓射手】にいいところを見せたいのか?
だが、そんな動きでは俺を捉えるのは困難だろうよ。
俺は鏡の盾の真横からリデちゃんへと接近し、そのまま包丁を首へと突き刺していく。
包丁を引き抜くと首から光の粒子が漏れ出すように宙へと舞っていき、リデちゃんはその姿をこの場から消したのだった。
「あらら、リデちゃんは直情的なところがあるからねぇ……
せっかくの手堅い布陣がパーだよ」
【短弓射手】は呆れて片手で頭を抑えている。
あのまま堅実に戦っていたら【短弓射手】側に有利な状況だったからな。
あの行動で一気に瓦解してくれた。
俺はその隙を逃さず【短弓射手】へとにじりよっていく。
俺を遠ざけるために弓矢を忙しなく動かす【短弓射手】だったが、事前にボマードちゃんによる【名称公開】のデバフを受けているからかいつもよりかなり動きが遅い。
さっきまで機戒兵がいたからそれでも戦えていたが、もはや勝負は見えただろう。
俺は矢を包丁で切り落としながら【短弓射手】へと肉薄し、得意の袈裟斬りで身体を切り裂いていった。
「くぅ、今回はオジサンの負けだねぇ……
今度またリデちゃんとリベンジさせてもらうから首を洗って待ってて欲しいねぇ!」
嬉しいこと言ってくれるじゃないか、プレイヤーキラー冥利に尽きるぞ!
俺はその包丁を通じて伝わってきた感触の余韻に浸りながら、沼地を跋扈している機戒兵を駆逐して残りの時間を過ごしたのだった……
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