623話 パイロット漏洩
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日はジェーライトに負けてしまったが、前の復刻アルベーとの戦いでは瞬殺されてしまったということを考えると少しは戦えるようになってきた気がするな。
流石にタイマン勝負で勝つには時期尚早かもしれないが、暇を見つけてはゾンビアタックを仕掛けるとしよう。
でも、今日は気分を変えて別のことをしようと思う。
とは言ってもユニーククエストに関係することをしたいので、機戒兵の観察かな。
荒野エリアだとまたレイドボスの【荒野の自由】が襲撃してくるのでおちおち観察も出来ないから、消去法で沼地エリア……【無限湖沼ルルラシア】でやることになる。
というわけでやってきました沼地エリア……【無限湖沼ルルラシア】。
ここにはびこる機戒兵を木の上から観察していく。
似たような色の機戒兵同士で固まりながら動いているのは前に見たときに分かったが、他の動きに規則性が見つかれば一掃するのに役立つだろうし何でも良いから見つけたいところだが……
うーん、三十分くらいボーッと眺めていたが特にこれといったものは見つからない。
ただ機戒兵は前進を繰り返し、深淵獣と衝突した際に身体に内蔵された装備を使用して攻撃を開始するというパターンだ。
……そういえば、前に機戒兵と戦った時よりも単調な攻撃に見えなくもないな。
あの時と今の違いは……上に乗っているプレイヤーの有無か?
あの時戦っていた機戒兵は女モブプレイヤーが乗っていたが、今俺が見ている機戒兵は無人(?)だ。
それと外装の模様が違うな。
こいつらは単色の塗装だが、あの時戦ったやつは赤色の塗装に黄色の模様がついていた。
レアキャラということか?
とか考えていると、噂をすればなんとやら。
俺が前に戦った女モブプレイヤーが機戒兵に乗ってきた。
「【フレイムギア】の改造も終わったし、私たちの冒険の再開よ!
この剛直な鋼鉄のボディ……いつ触っても最高ね!」
【フレイムギア】とはあの女モブプレイヤーが機戒兵を呼ぶときの名前だ。
見た目が炎のような色と模様だからだろう。
せっかく来てくれたんだ。
じっくりとなめ回すように見てやろうじゃないか。
「ブルルル……なんだか悪寒が……
【フレイムギア】の灼熱みたいな見た目の機戒兵の上にいるのに寒いのってなんだかおかしいよね!
誰か私の噂でもしてるのかな~?」
噂をされた時に起きる反応はくしゃみなんだが、その辺は特に気にしてないようだ。
どちらにしても本能的に俺の観察について察知したようだが、何をされているのかとかを分かっていない時点で俺に不利益はない。
「でもまさか【テイマー】の派生で【パイロット】にジョブが進化するなんて思わなかったな~!
これまでテイムしてた子たちは全員契約解除されちゃったし一時期はどうなることかと思ったけど、代わりにこの【フレイムギア】をテイム出来たからラッキーだったのかな?」
【テイマー】の派生ジョブ!?
そんなのがあったのか!?
というか【ジョブ】って派生していくものなんだな……
アナウンスには一切流れてこなかった情報なので、【パイロット】というジョブを知っている連中は全くいないはずだ。
この女モブプレイヤーが他のやつに伝えていないのなら俺とこいつしか知らないまである。
独り言で呟くにしてはウカツ過ぎる情報だぞ……
この女モブプレイヤーは自分の持つ情報の重要性が分かっていないらしい。
「【想起現像】でいつでも【フレイムギア】を呼べるから移動も楽チンだし、私が直接戦うよりも【フレイムギア】の方が強いから急に快適プレイが出来るようになったのは嬉しいよ!
……この前【包丁戦士】に遭遇したのはアンラッキーだったけどね」
戦闘系エネミーである機戒兵をテイム出来るということだから、下手するとかなり強いジョブという位置付けになってもおかしくないのがこの【パイロット】というジョブだ。
もしかすると機戒兵以外にも対象がいるのかもしれないが、それでもテイムできる種族が限定されてしまうのがデメリットってところか。
でもそれって【深淵天子】である俺も似たようなものなんだよな。
俺も聖獣と深淵関係の種族しかテイム出来ない縛りが勝手につけられていた。
ルル様の支援もあってキリゲーを運用出来るようになったからいいものの、そうじゃなかったら途方に暮れていたところだ。
その点、この女モブプレイヤーは【パイロット】になってからそんなに困っていないようだな。
前後関係は不明だが、機戒兵である【フレイムギア】をテイムしたのと、【パイロット】のジョブを手に入れたのがほとんど同時だったに違いない。
俺は今さら【パイロット】のジョブに就くつもりはないが、【パイロット】の情報を機戒兵陣営に渡すのは非常に不味い気がする。
全員【パイロット】になってみろ、そうなったら機戒兵を有効活用した作戦を決行してくるだろう。
特にあっちの陣営には【検証班長】や【風船飛行士】がいるからな。
どんな際どい作戦でくるのか考えただけで面倒くさいことになりそうだ。
「まあ、私だけの秘密にしておこっと!
せっかくの珍しいジョブだからね!」
ガクッ!
俺は思わずよろけてしまった。
とりあえず【パイロット】による作戦はしばらく考慮しなくていいらしいぞ!
なんか知らんがやったぜ!
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