620話 楽しいプレイヤーキラー講座!新ジョブ対抗編
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
掲示板とか覗いてたら案の定深淵獣がボロクソに叩かれてたな。
特殊な事情とか無い場合には深淵獣は害悪でしかない性質のエネミーなので仕方ないが、その深淵獣側にいる俺まで便乗して叩かれてるのは解せない。
いや、プレイヤーキラーだから標的にされやすいのは分かってるけどな!
今回のユニーククエスト抜きでも掲示板で叩かれることが多い俺だが、今回は包丁次元のプレイヤーの九割以上を敵に回しているのでなおのこと目の敵にされているのだろう。
だが、分かっていても釈然としないものは釈然としないのだ。
そんなわけで、今回は憂さ晴らしに新緑都市アネイブルの初心者イベントが開催された周辺にある空き地にやってきた。
ここにはスキルや動きの練習、武器を使った素振りをするプレイヤーなどが多く集まっていた……のだが、深淵獣の影響で今はまばらになっているな。
俺はそんな人混みの中にズケズケと入っていき、その中にいたプレイヤーに声をかける。
よぉ、とりあえず死んでくれ!
「は?えっ?」
突然俺に声をかけられたミリタリーナイフ使いのモブプレイヤーは、何をされたのか分からないといった情けない声と表情を顔に浮かべながら首と胴体を分断されて光の粒子と化していった。
「おおおおいいい!!!
【包丁戦士】が出たぞ!!」
「出たわね悪質プレイヤーキラー!」
「ここで会ったが百年目!
今日こそお前を倒す!」
おーおー、盛ってんなお前ら。
プレイヤーキルを仕掛けた俺を見たプレイヤーたちは一気に警戒体制をとり始めた。
「ジョブが【ウォーリア】のやつと、【レンジャー】のやつは最前線で【包丁戦士】を取り囲め!」
「【クレリック】と【メイジ】は後衛で牽制しながら前衛を支援するわよ!」
さっそく【ジョブ】での動きの割り当てがされているようだな。
この辺は今までよりもVRMMOらしくなってきたって感じがしていいな。
だが、お前らのにわか仕込みの連携で俺を止められるか見せてもらおうか!
俺は先程モブプレイヤーを一刀両断した包丁を握り直し、最前線にいたボクシンググローブがチュートリアル武器のモブプレイヤーと短刀使いのモブプレイヤーを同時に相手取る。
拳による攻撃はフットワークで回避しつつ、短刀による攻撃は包丁の腹を使った受け流しで捌きながら相手の攻撃のクセを読んでいく。
……こいつら、これで攻めきるというよりは何か狙ってるな?
どこか様子を窺いながら好機を待っている、そんな動きだ。
さっきの指示からするとここに集まっていたプレイヤーはジョブの慣らしをしていたはずだ。
つまり、この状況でやってくることで想定されるのは……
「ここだ!
スキル発動!【渡月伝心】!」
「……スキル発動、【波状風流】」
ボクシンググローブ使いは【渡月伝心】でオーラを纏ってきた。 【検証班長】の情報を基にするならこいつは【ウォーリア】か。
そして、その後ろで【波状風流】を使い姿を消していく短刀使い。
これは【レンジャー】の特性か。
オーラを纏ったボクシンググローブで連打してくると、俺はとあることに気がついた。
このオーラ、おそらくダメージ向上効果がメインだな?
つまり、当たらなければ問題ない!
「……そこ!」
気配でバレバレなんだよぉ!
俺はボクシンググローブ使いの攻撃をかわしている最中に背後に回ってきた透明化状態の短刀使いの攻撃を読み切り、逆に腹へと包丁の刃を通すことに成功した。
俺はプレイヤーキラーだからな、人の気配には人一倍敏感なんだ。
姿が消えたくらいで俺を欺けると思ったら大間違いだぞ。
「くっ、化け物め……」
「こいつ、本当にチート使ってないのか?
強すぎんだろ、なんで透明化状態のプレイヤーの位置がわかんだよ……」
「私がその傷癒すわ!
スキル発動!【花上楼閣】!」
俺に悪態をつき始めた前衛プレイヤーを見た後衛の本使いの女モブプレイヤーがスキル【花上楼閣】で短刀使いに花弁を咲かせて傷を癒し始めた。
これが生命花の力を持つ【花上楼閣】を活かせる【クレリック】の回復スキルか……
折角与えた切り傷がみるみる治っていっているのを見ると……益々燃えてくるな!
そうでないと手応えがないってもんだ!
俺をもっと楽しませてくれよ~
「この状況で燃えるって狂人でしょ……」
「そんなに燃えたいのなら私が燃やしてあげるわ!
スキル発動!【渦炎炭鳥】よ!」
杖使いのモブプレイヤーがスキルを発動すると赤色の魔法陣が現れ、そこから火の玉が飛んできた。
……っと危ないな。
これまで遠距離魔法とか中々飛んで来なかったから新鮮な気分だ。
俺は転がりながら火の玉を回避し、ついでに回転途中で近くにいた【レンジャー】の短刀使いを再度切り裂き心臓を露にさせて光の粒子へと変えていった。
「はやいっ!?」
「これ、もはやプロの犯行だろ……」
俺の手際に見惚れるのもいいが、そんな暇はないぞ?
転がった先にいた【クレリック】の本使いを包丁を使った切り上げの斬撃である逆風で胴をぱっくりと開いていく。
これにはアジの開きもビックリだろう。
干すといい感じに仕上がりそうな切れ具合だ!
さて、残ったのは【ウォーリア】と【メイジ】か。
先に曲者プレイヤーを潰しておいたので、後は直球勝負しかしてこないモブプレイヤー二人だな。
これはもはやイージーモードだ。
俺は包丁に取りつけられたμ素材で作られた【槌鍛冶士】の遺品である鞭を使い少し離れたところにいた杖使いの【メイジ】の首を巻き取り、そのまま縛り上げていく。
その間にもボクシンググローブ使いの【ウォーリア】は攻撃してきているが、そんな単調な攻撃に当たってやるほど俺は落ちぶれていない。
そうして呼吸の止まった【メイジ】が光の粒子となり消えていったのを確認して最後に残った【ウォーリア】と対峙する。
まあ、もう決着はついてるんだがな。
「これは……ペグっ!?
いつの間に俺の頭に刺さってた、ん、だ……」
鞭で縛っている間にペグを上空へ投げておいたのだ。
俺は暗器も使えるからな。
アルベー戦の決め手にもなった上空からの時間差攻撃を今回はペグでやったってだけの話だ。
プレイヤーキルもできて、ジョブの影響で環境の変わった戦闘にも少し慣れることが出来てホクホクの俺はそのまま顔を艶々させながらログアウトしたのだった。
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