62話 深淵の密約
前回【深淵奈落】とかいうグランドアナウンスにあった実績を解除してしまった俺だったが、進む前にちょっとアナウンスについて考えてみる。
さっきまで落ちていた大穴が【深淵奈落】だったのかそれともこの横穴が【深淵奈落】なのかは分からないが、どちらにしても発見、視認するだけだと実績が解除されていなかった。
そもそも、さっきまで落ちていた大穴を見ただけで実績を解除できるなら、既に俺より前にこの大穴が他のプレイヤーたちに発見されているのでそれ以外の条件を満たさないとだめだったのだろう。
そして【深淵域の管理者】とかいうやつに会ったからか、こいつから【深淵奈落】について聞いたからか、また別の何かがあったからか、その辺りが場所関係の実績に関わってくるのかもしれない。
今後項目が追加されたときはそこを考えてみるか……
「ようやくここまでたどり着いたか。
底辺種族がこの地にたどり着くのはもうしばらく先だと聞いていたが、この次元では随分と【Bottom Down】と深淵に関する親和性が高いらしい。
正当な手段でたどりつくには、深度が100を越えなければ道筋すら示されぬというのにな。
しかし、お前はまだ深度が一桁しかないにも関わらずここにたどり着いておる。
世界の管理者たちも道こそは作っておったが、本当にこの時点でここに来れるとは誰も思っていなかっただろうに」
重圧を乗り越えて到達した先にいた存在に声をかけられた。
声の先にはとても異様な姿をしているクリーチャーがいた。
胴体は緑色のコケが張り付いているタコのような姿をしているが、背中と思われる部分には漆黒の羽が生えている。
タコのような姿をしているので、もちろん8本の軟体の足が生えていてせわしなく動いている。
吸盤もついていて、ヌルヌルしている足が複数独立したような動きをしているので気持ち悪い。
「我の姿を見て正気を保っているようだな。
それに我が面前まで来れていることから考えるに、【深淵細胞】か【八卦深淵板】でも持っておるのか?
ではなければ、そもそも我の張った結界を突破することが出来ないのだからな」
あー、あの無限ループはこの堕天使タコ(仮)の結界が原因だったのか。
そしてグランドアナウンスにもあった深淵に関係がありそうなワードのものを挙げていることから、同族に関係していないものを弾くシステムみたいなものなんだろうな。
あ、俺が持っているのは【深淵細胞】の方です。
「その通りだ底辺種族よ。
この【深淵奈落】はあの忌々しい聖獣や【次元天子】に地上から追い出された同族が住み着いている場所であるからな。
我らの棲みかにあやつらを入れさせないために我が結界で守り続けておるのだ」
あー、なるほどね。
……こいつには言えないがその【次元天子】と俺は一心同体タブで登録されているフレンドなので、めちゃくちゃ関係者なのだがそれを伝えたら絶対に生きて帰れない気がするので隠しておこう。
まだ情報をばんばん吐いてくれそうなのにここで死ぬのはもったいなさすぎるからな。
聖獣とかと敵対してるのオタクら?
俺、1匹倒して来たんだけど、どうよ?
「ふむ、底辺種族お前の名前は?」
【包丁戦士】です。
「……真名ではないな。
ということは地上では名前を明かせない世界法則にテクスチャが塗りつぶされたのだな、時代は移り変わるものか……
まあいい【包丁戦士】よ、どの聖獣を倒したのだ?」
こいつ、上位権限を持っているわりに現状の把握が全く出来てないな。
つまり【菜刀天子】があそこまで把握していたのは別の権限を使っていたからなのか?
あ、倒したのは……白虎です。
「あの戦闘狂を倒したのか、たしかに一番御しやすそうなやつだったがそれでもよくやった。
あの聖獣どもは、我ら深淵に潜むものに対して強く出ることができる権限を持っているらしいのでな、同等の力を持っていようと我らでは犠牲が多すぎるのだ」
そのわりには深淵に潜んでいるっぽいウナギがついてましたが……?
「地上に出て消息が一切途絶えていたジェーライトのことか?
あやつ、さては聖獣に力を利用されおったな……いや倒されたのなら、それはいいか。
それよりも、だからこそお前が【深淵細胞】を持っていたのだな。
ジェーライトのやつ、面白い置き土産をしおって……」
ウナギ尻尾のジェーさんと知り合いのようだ。
なんかレイドボス同士で合体してたからか、理性とか欠片もなかったけど合体前は普通に喋れてたんだろうか。
「【深淵細胞】を持っているのであればその細胞を活性化させて見せよ。
ここに入れているということは、最低限活性化まではできるはずだ」
活性化……?
【深淵顕現権限】のことかな?
でも、デメリットを支払えないんですが、それは……
「デメリットとな?
かっかっかっ、この【深淵奈落】での活性化に代償は必要ない。
安心するとよい」
まじですか!?
たしかに落下するときに使った【深淵顕現権限】は【釣竿剣士】を生け贄に捧げなくても使えたし、こいつの言い分は多分合ってるんだろうな。
では、スキル発動【深淵顕現権限】っ!
俺のおしりからヌルヌルのウナギ尻尾がメキメキと姿を現す。
何回も出しているとちょっと愛着がわきつつあるな。
「ジェーライト……たしかにジェーライトだが……
力が分散しておるな……
どれ、我が軽く調整してやろう」
そういうと蛸足を俺に伸ばして巻きつかせてきた。
うわっ、俺の触手プレイシーンとか誰得なんだよっ!?
俺の身軽な服装の間からぬるぬると蛸足が入ってくる、うへぇ。
肌を這いずり回るように蛸足がうごめく様は、端から見ると俺が蹂躙されているようにしか見えないだろう。
「うむ、ここをこうして……
こちらを繋いで、こちらを分離……
よし、ジェーライトの力を前よりは引き出せるようになったはずだ。
具体的に言うと、ジェーライトの口からあやつの固有スキルであった【魚尾砲撃】……を簡略化したものを放てるようになったはず。
あやつの力を少しでも聖獣どもに見せつけてやってくれ」
……つまり【深淵顕現権限】を発動した状態で【魚尾砲撃】を撃てば、今まで行き場がなくプレイヤーが爆発するだけだったあのスキルを本当の意味で砲撃に使えるのか。
今までその組み合わせを試したことはもちろんあった。
何せ出所が同じスキルだからな、だがスキルチェインが失敗するときのように今までは不発になっていた。
それができるようになるのは大きい。
それにレイドボスの器官を使ってスキルを使えるならデメリットは踏み倒せるしな!
なお、【深淵顕現権限】を使うデメリットは踏み倒せない模様。
「それで、聖獣を1匹倒したお前のことだ。
次の聖獣を倒す計画もあるのだろうな?」
はい、沼地にいる棘亀ですね。
「あの暴飲暴食か。
あやつのせいで我らがここに押し留められているのだ、あやつの固有スキルは我らに対して相性が悪すぎるので他の聖獣や【次元天子】よりも厄介と見ている。
もし、あやつをこの大穴付近まで近づけることができるなら何かしらの形で戦いを支援すると約束しよう。
そして討伐の暁には、我らの棲みかで宴を開催することを約束しようぞ!」
【個人アナウンス】
【【ユニーククエスト 底無し沼の棘亀を誘導せよ】を受注しました】
【運営からの忠告】
【このクエストは失敗しても失うものはありませんが、成功することによって特別な報酬が与えられることがあります。】
【ユニーククエストは達成する前に状況の変化によって、クエストそのものが消失している場合もあります。
他の次元では発生しないことも考えられますので、この機会に世界を変えていきましょう!】
なんかえらいことになってきたぞ、おい!?
ほう。
【Bottom Down-Online Now loading……】