614話 魔境と化した沼地エリア
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は【検証班長】が言っていた沼地エリア……【無限湖沼ルルラシア】の様子を見に行くぞ!
なんだか大変なことになっているらしいから実は物凄く気になってる。
というわけでやってきました沼地エリア……【無限湖沼ルルラシア】。
ここでは今、ルル様率いる深淵種族の下位存在である【深淵獣】と【荒野の自由】率いる【機戒兵】が熾烈な争いを繰り広げていた。
まるで波と波がぶつかり合うような激しい物量戦で、どちらの陣営も押せ押せムードだ。
「深淵獣しねぇぇぇぇ!!!!」
「深淵死すべし!深淵死すべし!」
「世界を汚染するなよ!!!!」
「【包丁戦士】をどん底に陥れてやれ!!!」
……それと、ユニーククエストを受けたプレイヤーたちが深淵獣に挑みかかっている最中だった。
【検証班長】が言っていたように、プレイヤーのほとんどが深淵獣に標的を絞って攻撃している。
この中にはジョブ【メイジ】のプレイヤーもいるようで、【渦炎炭鳥】を使って火の玉で攻撃しているやつもいた。
だが……
「ぐわわわわわわやられた……」
「レイドボスほどじゃないから力を合わせれば倒すことは出来るんだが、それ以上に数が多すぎる!」
「というか、深淵獣だけじゃなくて機戒兵の数も多いから味方と思っている機戒兵に踏み潰されて死に戻りしたやついなかったか?」
「……それ悲しすぎるな」
「もしかしなくても、俺たちプレイヤーって足手まとい……?」
このモブプレイヤーたちが言っているように、この深淵獣と機戒兵の争いにおいてプレイヤーの価値は極端に低い。
はっきり言おう、ゴミ以下と言っていいだろう。
例えるなら、海のなかに石ころを投げ入れているほどの影響力しかないのだ。
この【無限湖沼ルルラシア】の中に深淵奈落が内包されている土地関係の影響もあるのか、何も変化がなければ深淵獣が機戒兵を上回っている。
それでもそれぞれ量産型の下位存在であるからか力の差はほとんどないので、石ころ程度の変化を与えるプレイヤーであっても機戒兵に肩入れするのであれば多少の意味はあるか。
このまま何もしなければ深淵獣が勝手に機戒兵を倒すんだろう。
だが、プレイヤーの九割があっちに加担している以上何があるか分からない。
そもそも、初っぱなから片方だけ有利なのってどう考えても罠だよな?
絶対に向こう側には逆転の切り札とか、そんな感じのが隠されているに違いない。
それで正義は必ず勝つ!完!で締められたら俺としてはたまったものじゃない。
必ずその幻想を打ち砕いてやる……
俺を孤立させたこと、その身を以て敵に回った九割のプレイヤーたちに思い知らせてやるからな!!
……と決意してから再び深淵獣の様子を見直してみる。
すると、深淵獣が接している周囲には薄くではあるが黒い霧が発生しているのに気がついた。
あれだけの数が集まってこれだけかよ……とか思ったが、そもそもあの霧は一般的プレイヤーにとってかなり有害なものである。
少量でも鬱陶しいんだろうな……
その証拠に……
「ちっ、黒い霧のスリップダメージで体力がヤバイ気がする……」
「時間経過でダメージくらうの本当に厄介だよな……」
「こんな霧を発生させる深淵獣が勢力を伸ばしてきたらプレイヤーがまともに活動出来ないだろ」
「新緑都市アネイブルにも少しだけど来てるから、あっちも守らないとな……」
「おい、ジョブ【クレリック】のプレイヤーはいないのか!?
回復!回復ぅ!!!霧のダメージでシヌゥゥゥゥ!!!」
「はいはい、【花上楼閣】」
「た、助かった……」
どうやらモブプレイヤーたちが深淵獣討伐に意欲的な理由はここにありそうだな。
深淵の黒い霧の濃度が薄いバージョンが深淵獣のいる範囲に発生するから、それでプレイヤーたちはダメージを受けてしまう。
その有害環境の形成を阻止するために皆が心と力を合わせているのだろう。
俺は深淵種族に片足突っ込んでるから関係ないがな!!!
深淵種族の力を保有している俺は深淵の黒い霧でダメージを受けるどころか、むしろパワーアップする。
へっザマーみろ!
お前らは勝手にダメージ食らってるといい!
そして仕上げには……袈裟斬り!横凪!逆風!
ダメージを受けて疲弊していたモブプレイヤーたちを虐殺して回って気が清々したところで俺はログアウトしたのだった。
【Bottom Down-Online Now loading……】