608話 鵄嘴縁断
俺が授かった【失伝秘具】の【大深罪鉄林包丁】から感じる力によって、俺がまず何をすべきなのか分かった。
俺が【槌鍛冶士】に渡したプレイヤーがロストする可能性があるとかいう深淵の力を帯びたバグのようなアイテムを盛り込んであるから、嫌でも全身に力が漲ってくる。
俺以外のプレイヤーだったら不調を訴えるかもしれないが、俺は深度を深め続け種族も深淵種族に限りなく近い。
だからこそ、この力を有効活用させてもらうぞ!
スキル発動!【深淵纏縛Ґ(ゲー)】!
俺はここまで一度も使ったことがなかった俺の子供(?)である金鵄【深淵聖獣キリゲー=サキールシゥン】の細胞を最大限に励起させていく。
【Ґ細胞】は未熟なためこれまで使うことを避けていたが、【失伝秘具】の【大深罪鉄林包丁】による後押しによって俺の身体に急激に馴染んでいく。
キリゲー自体も俺の深淵の力を取り込んで成長した存在だからなおのこと、これまで使用してきた深淵細胞たちよりも適応率が高いように感じる。
俺が深淵細胞を励起すると全身が黒い霧に覆われていく。
そして、身体の先から身体が別物に置き換えられていくのような感覚になりながら、俺の衣装も変貌していっている。
頭には顔の長さよりも長い紫色のロリータヘアードレスがつき、胴体にはトップはフラットビスチェに胸元タック、スカートはマーメイドで、元々俺の頭についていたリボンは腰に移動して存在感を示している。
まるで菖蒲のような意匠がドレスに散りばめられていて、色のこともあってか大人びた落ち着いた雰囲気に見えるだろう。
全体的に紫色のドレスになったが、ボマードちゃんのフィッシュテールドレスと似たような感じになったな。
同じ深淵の力の影響を受けた衣装だからだろうか。
そして、俺のチュートリアル武器と化した【失伝秘具】の【大深罪鉄林包丁】に纏わりつくように紫色の霧が漂い始めた。
……やはり、こいつは俺の情報を元に生まれたやつだなと改めて実感させられた。
嫌でもわかる俺の要素が含まれてきているし、本当に扱いやすい深淵細胞だ。
利かん坊のルル様の細胞は除外するとして、使いなれているはずのジェーライトの細胞よりも自由がきく。
こんなことがあっていいのだろうか。
キリゲーは完全なレイドボスになってないから、アナウンスは流れなかったな。
【ガハハ!!!】
【ワシが調整に調整を重ねた【大深罪鉄林包丁】の補助があるというのもあるだろうな!!!】
なるほど。
理屈はわからんが、とりあえず【槌鍛冶士】のおかげってことにしておこう。
【姿が変わったところで、私に勝てるとでも思い上がっているのでしょうか】
【その考えは甘いですよ、【渦炎炭鳥】!】
【菜刀天子】は腕を【片刀ー朱雀】に切り替えて斬撃を繰り出してきた。
最も近くにいたプレイヤーたちが斬撃によって生み出された炎の魔法陣の集団によって炭化させられて死に戻りしてしまい、残されたプレイヤーはとうとう俺……だけになってしまった。
ここで俺が負けたらこの総力戦は失敗となる。
責任重大だが、俺のために全てを投げ出すといった【槌鍛冶士】の手前そう易々と負けてやるわけにはいかない!
キリゲーよ、俺に力を貸してくれ!
スキル発動!【鵄嘴縁断】
俺は本来会得していないはずのスキルを起動した。
理論じゃなくて感覚的に何故かスキルの名前とどんなスキルなのか、そしてそれを俺が発動できるっていうことが分かったのだ。
俺は紫色の霧を纏う大剣サイズの肉切り包丁を力一杯振り抜いて【菜刀天子】の放った【渦炎炭鳥】によって発生した魔法陣から生まれた火柱を切り裂き己の身を守った。
そして、そのまま紫色の霧が斬撃となって赤色魔法陣へと飛翔していき、魔法陣を元々なかったかのように霧散させた。
【ば、バカな……!?】
【劣化天子ごときが私のスキルに干渉を……!?】
【通常のスキルならともかく、【天命昇華】を介したスキルに干渉するとはなんとも不遜!!】
【これは許せませんね】
はんっ許すもなにも、事実俺がお前のスキルに打ち勝ったのは事実だ。
しかも今までとは違う、たった一撃でだ!
これがどういうことか分かるか?
【ガハハ!!!】
【つまり、ワシの【上位権限】や深淵細胞の補助を最適化した状態で受けた【包丁戦士】は【菜刀天子】にも匹敵させることができるということだ!!!】
【それに、ワシの作った【失伝秘具】の【大深罪鉄林包丁】は新緑都市アネイブル全域の地脈を次元天子や聖獣への加護を剥奪させることはもちろんのこと、深淵種族に有利な流れに変えることができる逸品だからな!!!】
【そんな力を持ったアイテムが聖獣と次元天子への特効を持っていてもおかしい話ではないだろう!!!】
【そして、深淵種族の力を底上げする力も持っている!!!】
【これがプレイヤーの中に紛れて活動していたワシの集大成!!!】
【常に上からしか物事を見ていなかったお前とは違うのだ!!!】
【Bottom Down-Online Now loading……】
昨日確認したら週間のVR部門ランキングで94位に入ってました!
ランクインしても何かあるわけではないですが、多くの人に見ていただき評価してもらえているということなので素直に嬉しいです。
ありがとうございます!