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603/2112

603話 逃げるが勝ち

 【このままでは悔しいが我の敗走は明らかか……】


 【やはり深淵種族の地縛能力を考慮に入れて【深淵奈落】まで連れていかぬとどうにもならぬようだのぅ……】


 【もちろん、それは深淵種族単体で次元天子に挑んでいた場合の話ではあるが……】


 【今回はプレイヤーが我と同じ陣営におるから、後はこ奴らに任せるとするかのぅ】


 【では、最後に次元天子を堕とせるだけ堕として我は力を取り戻しに、深淵奈落へと戻らせてもらうぞ】


 ルル様は俺たちや【菜刀天子】に向かってそう告げると、一度間を置いてから重々しく呪文の詠唱のようなものを口にしはじめた。

 始まりの言葉を聞くと、それはかつて俺たちが一度耳にしたことのあるものだった。



 【我が領域を侵すものよ】


 脚の先にあった黒色の粒子が、【菜刀天子】に向かって伸びはじめる。

 その伸びかたは、際限なく成長を続ける木々の枝のようだ。



 【流転する境界の狭間にて、我が深き業を刻み込め】



 黒色の粒子でできた枝が、枝分かれをし始め、棘のようなものを所々生やしながら伸長を続ける。

 その棘は、何かやばいものを刻み込んでしまうようなおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。



 【汝、聖なるものなれば我が深淵に染まるがよい】



 これでもか、というくらい伸びた黒色の粒子でできた枝は【菜刀天子】に棘を差し込みながら、身動きが取れないように完全に拘束している。

 黒色の枝に覆われた【菜刀天子】は、拘束されているだけにも関わらず、ルル様によってあたかも深淵に染め上げられたかのようにさえ見えてしまう。


 【これは我が存在の証明】



 先ほどまで黒色の枝ばかり変化していたが、ルル様の身体が黒い極光に覆われはじめた。

 そして、その極光に反応して粒子でできた枝も鈍く光始めた。

 誰もが息を殺して見つめることしかできない、もはや芸術的な光景はいつまでも続くかのように思えたが……



 終わりを告げるかのように漆黒の翼を生やした異形のレイドボスが、一言唱えた。


 【【堕枝深淵】】


 

 最後にスキルの名前である【堕枝深淵】の名を告げると【菜刀天子】の身体に異変が生じ始めた。

 

 【忌々しい棘ですね……】


 【身体が縛られていて動けないのは想定していましたが】


 【これを解除しようとする行動も麻痺させられてますね……】


 そう、【菜刀天子】が口にしたように今の【菜刀天子】は身体が麻痺してしまっているため腕の【切刀ー青龍】を動かせず困っているようだ。



 【カッカッカッ、いい気味だのぅ!】


 【それではプレイヤー共よ、我は深淵奈落へと去るが】


 【あとは頼んだぞ、くれぐれも討ち漏らすではないぞ!】


 その言葉を残し、ルル様はまるで夢であったかのように黒い霧に覆われた後忽然と姿を消していた。



 

 【ワールドアナウンス】


 【【深淵域の管理者】が退却しました】


 【【深淵域の管理者】の影響で増したフィールドの深度はそのままとなります】


 


 「ほっ、帰っていったでおじゃるな……

 妾はこれでも聖獣でおじゃるから、深淵の霧は毒のようなものでおじゃる!

 戦力としてこれ以上ないほど助かったでおじゃるが、生きた心地がしなかったでおじゃるよ……」


 ルル様が帰ったことで真っ先に安堵したのはあいてどっていた【菜刀天子】……ではなく【タウラノ】だった。

 一応味方として参戦したルル様に対してそう思うのはやはり小者狐と呼ばれるだけあって、レイドボスのわりに臆病な性格だからだろう。




 ……とは言いつつも、その臆病さからか今もプレイヤーたちに呪符を投げて身体強化のバフを連続付与していっている。

 【菜刀天子】がルル様の置き土産によって黒枝に縛られ、さらに麻痺状態というバッドステータスにかかっている今のうちに仕留めておきたいという魂胆だろう。


 「底辺種族たち、妾の支援を受けたものから【菜刀天子】に攻撃を仕掛けるのでおじゃる!

 妾に被害が飛んでくる前に倒してほしいでおじゃるよ~!」


 「ボクが言おうとしたことが言われてしまったね……

 でも、皆の聞いての通りこれはチャンスです!

 【菜刀天子】はレイドボス同士の激突で疲労してますし、見えるところでは束縛もされています。

 さらにもう一体のレイドボスがこちらに残っていて支援をしてくれている今の状況を逃したら勝ちは拾えませんからね」


 【タウラノ】が何故かプレイヤーたちに指示を出していて、それに従い速攻で攻撃を仕掛けにいくプレイヤーがいるのと、それに従っていいのか悩んでいるプレイヤーがいた。


 その様子を見た【検証班長】は後押しということで、【タウラノ】の言葉に重ねる形で再度指示を出した。

 【検証班長】のなんとも言えない表情を見ると本当は戦闘準備を整えていく時間として使うみたいに他の指示を出したかった可能性もあるが、ここで【タウラノ】と違う指示を出してしまうと一気にプレイヤーたちが混乱してしまうのは容易に想像が出来る。


 全く別の指示が出たときに指示を聞く側はどれを信頼して行動すればいいのか分からなくなってしまうからな。

 さて、これが吉とでるか凶と出るか……


 「【包丁戦士】さんは凶人ですけどね」


 【検証班長】、無理して上手いこと言おうとしなくていいんだぞ……








 【Bottom Down-Online Now loading……】

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