602話 プレイヤーによる影響
ボマードちゃんのデバフの影響もあってか、【菜刀天子】はどんどんルル様に押し負け始めた。
元々【菜刀天子】が若干優勢で戦いを進めていたが、その均衡が崩れてしまい調整が利かなくなったからだろう。
そんな【菜刀天子】だが、自身が劣勢であることを知ってか悔しそうにしながらもその目に宿る闘志は消えていない。
【【生命花】の力が削がれてしまった以上、【斬刀ー玄武】の力も低下してしまいましたし使い物になりませんね……】
【そうであるならば、次の手を使わせてもらいましょう】
【【上位権限】解放、【天命昇華】】
【私の配下オメガンドよ、力を引き出しなさい!】
【菜刀天子】は躊躇うことなく腕の形状をさらに変化させ始めた。
これまで使ってきた形状の包丁の中でも中間ほどの重量感のある包丁だ。
あの形状はさいの目切り、ぶつ切り、みじん切りに使われることの多い切刀だな。
俺は料理系生産プレイヤーだからわかる。
あの幅広い用途に使いやすい包丁は、オメガンドが持つ多彩な力の比喩のようなものかもしれない。
だからこそ、オメガンドの力を使いこなすのにピッタリだろう。
【これは【切刀ー青龍】】
【私の忠臣である【オメガンド】の能力を凝縮したこの中華包丁は、特に私の腕に馴染みますね……】
【【流動】の力を最も使いこなすことが出来る私の武器でもあります】
【この【切刀ー青龍】でこの場の状況を一変させてみましょうか】
【スキル発動!【波状風流】!】
【さらにスキル発動!【水流万花】!】
【菜刀天子】はここぞとばかりにスキルを連発して形勢逆転を図ってきた。
【菜刀天子】は風の渦を纏い始め、さらには水の花弁も発生し【菜刀天子】を中心とした衛星軌道を描くように回り始めた。
風と水、純粋な【流動】の力の【波状風流】と、【流動】と【生命花】の力が合わさったと考えられている【水流万花】を同時に扱うとはな……
たしかに【オメガンド】も試練の時にいくつものスキルを重ねていっていたが、それでも時間差で使ってきていて同時発動はしていなかった。
その点も踏まえるとやはり【菜刀天子】はこれまでのレイドボスたちとは格が違うんだろうな……
風と水の護りに包み込まれた【菜刀天子】だが、ルル様が先ほどただ守っていただけじゃなかったのと同様に、攻めについても考えているようだ。
【【上位権限】AIである私は底辺種族たちよりも劣っているとは思いませんが】
【底辺種族たちの突拍子もない発想には一目置いています】
【これは【釣竿剣士】の釣竿一刀流【波載】を参考にしたスキルの合わせ技です】
【陰湿な深淵種族の主には少々刺激が強いかもしれませんが】
【どうでしょうか!】
【菜刀天子】がルル様に向かって挑発的な言葉を投げかけると、纏っていた風と水の渦からルル様のいる方向へと風の刃が向かっていった。
だが、これまで俺が見たことのある飛翔する斬撃ではなく、水を纏ったまま進んでいっているのだ。
水しぶきを立てながら飛翔する風の刃は、纏っている水の残像の影響であたかも水龍のようにさえ見えてくるほど幻想的な光景となっている。
【ほう、これまでよりワンランク上の攻撃のようだのぅ……】
【だが【塞百足壁】よ、無慈悲に攻撃を遮断するのだ!】
ルル様は迫り来る水龍の刃に対して、黒い霧を変形させて生み出した漆黒の壁で攻撃を防ごうとしているようだ。
【花上楼閣】も難なく耐えることができたスキル【塞百足壁】の防御力であれば先ほどまでと同じように【菜刀天子】の攻撃をものともしないという考えなんだろう。
これまでルル様は後の先の一手を打ち続けてきたから、これもその一環ということか。
しかし、ここに来て【波状風流】と【水流万花】による攻撃を防いでいた【塞百足壁】の漆黒の壁に亀裂が入り始めた。
風の刃によって傷つけられた部分に【流動】の力の誘導力で、【生命花】の力である活性化で刃の切れ味が増していきさらに深く刃が沈んでいっているのだ。
まるで電動ノコギリを木に当て続けているかのような攻防ではあるが、本来であれば【塞百足壁】の漆黒の壁に当たっただけで突破できずに消えていたはずの刃が活動を続けていることにルル様は驚いているようだ。
【これは……】
【我の防壁が破られるのか!?】
【憎き次元天子の分際でっ!!!】
【菜刀天子】による想定外の攻撃にルル様は驚愕と憤慨の感情を抑えきれないようだ。
そして、防ぎきれなかった攻撃はルル様へと直撃し、ルル様に致命的なダメージを与えていった。
おいおい……一撃で身体が抉れてるぞ!?
これが次元天子と深淵種族との相性による効果ってわけか……
地脈操作をして多少緩和していてこれなんだから、事前にギミック解除してなかったらここでルル様がリタイアしていたのは確実なほどの大ダメージである。
そりゃ、いくらルル様でも過去の対戦で勝ちきれず敗退させられてしまったと言うのは納得だなぁ……
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