601話 粘着行為
【カッカッカッ、我がただ攻撃を防いでいるだけだと思ったか?】
【甘い、甘いのぅ次元天子は……】
【そうである故に、些細な兆しさえ見逃してしまうのだ】
【我としては与しやすい相手で助かったと思うが】
【せっかくのスキルが有効活用されておらんのは、見ていて泣けるのぅ……】
【菜刀天子】が攻めながらも焦っているのを見ながら、ルル様は【菜刀天子】へと言葉を投げかけた。
どうやら俺たちや【菜刀天子】が見逃している何かがあるらしいが……
【何を口からでまかせを……】
【……いや、おかしいですね】
【【花上楼閣】の攻撃の数が減っていってます!?】
【何をしたのですかこの陰湿なタコはっ!?】
【菜刀天子】が自らの放っている【花上楼閣】の異変に気がついたようだ。
ちなみに俺は何が起きているのか全く分からない。
そして、周りの連中……【検証班長】も含めて気づいていないような顔をしていることからまだ微妙な変化しか起きていないのだろう。
【カッカッカッ!】
【わざわざ敵に塩を送るような真似をする義理はないのだが】
【次元天子があまりに滑稽なので特別に教えてやるとするかのぅ……】
【ほれ、仕込みは既に終えた!】
【さあ【塞百足壁】よ、塞ぎ尽くすのだ!】
ルル様が現在使用中のスキル【塞百足壁】に呼び掛けると、周囲の深淵の力の流れが変化し、これまでの流れが固定化されていっていることに気がついた。
そして、その影響は誰が見ても分かる視覚的な変化として現れた。
【そのやかましい花をよく見てみるがいい】
【我のスキル【塞百足壁】によって一つ一つ壁のなかに塞ぎ尽くされておるであろう?】
【これが我の仕込みだ】
ルル様が説明したように、あの一声の後宙に舞う【花上楼閣】の集団は一つ一つ立方体の形をした漆黒の壁の中に閉じ込められてしまっている。
おそらく中から【花上楼閣】たちが花弁を撃ち出して、この黒い壁で形成された立方体をそれぞれ突破しようとしているのだろうが一向に破られる気配はない。
ルル様もわざわざ一つ一つを閉じ込めるなんて凝った芸当をよくやり遂げたよな……
別に巨大な立方体を何個か作って纏めて閉じ込めるっていう手もあっただろうに、それをこんな細かい操作までしてやるとは。
【油断してもいい相手であればそれもよかろう】
【しかし、今回の相手は次元天子である故に執拗に仕込みをしてやったのだ】
【確かに纏めて閉じ込めるのは手間が少ないが、それではスペースの無駄も多くつけ入る隙も見せてしまうからのぅ……】
【であるからして、手間ではあるが一つ一つ隔離することとなったのだ】
ルル様が講釈しているように、纏めて隔離すると中からの一点集中攻撃で突破されることはあるからな。
強い攻撃、強い守りに対して集団での力を一点に集めて打ち破るというのは古来から創作でありがちな展開だ。
それすらも事前に根回しをして予防してしまうルル様の容赦のなさに俺は思わず身震いしてしまった。
今は味方として【菜刀天子】討伐に協力してくれてはいるが、もしプレイヤー全体でルル様を討伐するということになったらこの老獪な【上位権限】レイドボスに真っ向から戦わないといけないんだよなぁ……
ほとんどの行動を読んでいるかのように動くルル様は、【菜刀天子】とは全く違った意味で厄介な相手だからな。
今回のように助っ人がいないと難しい。
しかも、半端な助っ人だと俺たちもろともやられて、手篭めにされて敗北する未来しか見えないのが怖いところだ。
【この手口……やはり陰湿ですね……】
【私のスキルをわざわざ手の込んだ方法で封じてくるとは】
【陰湿で回りくどい方法ばかりで戦って来ること自体は長年想定していたので、分かってはいましたが】
【それでも実際に戦ってみると厄介なことこの上ないです】
【無限湖沼ルルラシアまで追い込んだあの時に確実に仕留めていればこんなことにはならなかったはず……と考えると悔やんでしまいますね】
【ですが、これで膠着状態です】
【ここから仕切り直しといきましょうか】
【菜刀天子】が新たな手に出ようとしている。
だが、ルル様の様子からすると……
【何を言っておる】
【我の攻撃はまだ終わっておらぬぞ!】
【【塞百足壁】よ、塞いだ【生命花】の群れを圧縮せよ!】
ルル様がスキルに働きかけ、【塞百足壁】ごと【花上楼閣】を圧縮破裂させ始めた。
その圧縮によって【花上楼閣】たちは破裂していき、【菜刀天子】へとダメージのフィードバックが起こったのか【菜刀天子】は疲弊し始めた。
【……私の中の【生命花】の力を削いできましたね】
【憎らしいほど粘着的な攻撃とはこのことですか】
【Bottom Down-Online Now loading……】
いつの間にか600話突破していました!
今後ともよろしくお願いします!