600話 吹き荒れる生命花(挿絵あり)
【多少能力は下がってしまいましたが、圧倒的優位にいる私からしてみればいいハンデかもしれませんね】
【菜刀天子】はボマードちゃんとルル様から受けたデバフに対して苛立ってはいるが、まだ上から目線での物言いは止めないようだ。
それはプレイヤーたちとのスペックの差が埋まるほどのデバフではないことや、深淵種族への相性の有利ということ自体が変わったわけじゃないからだろう。
【菜刀天子】本人が言っているように、デバフを受けて丁度いいくらいなのだろう。
……まあ、俺の見立てでは戦い方の上手さはルル様の方が上だけど。
それでもカタログスペック的には【菜刀天子】が上ってことだ。
【いい機会ですし、こちらも新たな手に移行しましょうか】
【【上位権限】解放、【天命昇華】】
【私の配下ウプシロンよ、力を引き出しなさい!】
【菜刀天子】は攻撃に変化を持たせるために腕の包丁を新たな形状へと変え始めた。
発生した粒子によって姿が変わった腕はみねがが厚く、斧のように刃に向かって薄くなっている中華包丁に酷似したものとなった。
この重厚感のある中華包丁は……斬刀だ!
レイドボスの中でも特に巨体であるウプシロンの力を有した包丁に相応しいチョイスだな。
斬刀は骨付きの食材を切る時に使われるほど、固いものを切るのに適しているものだ。
【これは【斬刀ー玄武】です】
【【生命花】の力を存分に発揮するので躍動感溢れる攻撃を放つことができます】
【そう、このように!】
【スキル発動!【花上楼閣】!】
【菜刀天子】は【斬刀ー玄武】を介して【花上楼閣】を発動してきた。
今まで【菜刀天子】が使っていた【花上楼閣】は岩の花弁一枚一枚を飛ばすものと、巨大な花を設置するものの2パターンだったが今回はそのどちらにも該当していない更なるパターンだった。
【ぬぅっ……これは対処が手間になりそうな攻撃だのぅ……】
ルル様が思わず面倒くさそうに口を開いてしまっているが、それもそうだろう。
顔くらいのサイズ(黄龍【菜刀天子】比較なので結構大きい)の生命花がいくつも宙に浮かび始め、そこから花弁が放たれているのだ。
浮いている生命花はルル様を中心に衛星のように動いているので、360度あらゆる方向から継続的に攻撃されている。
俺たちの攻撃ならともかく、【菜刀天子】の攻撃でこの手数だとルル様でも厳しいものがあるのだろう。
【このまま私の宿権である千年王国への礎となってもらいましょう】
【いきなさい!】
【菜刀天子】は押せ押せムードで、生命花を操っている。
【こうなれば我も対抗せねばな……】
【暴飲暴食の亀のスキルであるのなら、こちらは【防衛】の力を司る配下の力を使わせてもらおうかのぅ!】
【【塞百足壁】】
ルル様は【菜刀天子】の攻撃に対して、黒い霧を生み出してそこから全方位に壁を形成し始めた。
圧迫感のあるこの壁には見覚えがある。
山間部エリアの崖下に潜んでいたルル様の配下の【蕭条たる百足壁】のスキルだな!
【蕭条たる百足壁】の脱け殻を集めている時にあの壁に挟まれて何度も死に戻りさせられたからよーく覚えているぞ!
悲しい記憶だ……
本格的に【蕭条たる百足壁】と戦ったことは一度もないから完全な比較は出来ないが、【蕭条たる百足壁】の作り出していた壁は平面的だった気がする。
それに対してルル様の作り出した壁はドーム状となっており、【菜刀天子】の【斬刀ー玄武】を介した【花上楼閣】の攻撃を遮断している。
流石は【防衛】の力を持つ巨大ムカデに与えられた力のだけあって、守りが崩れる気配もない。
とはいえ……
【この固さ……私の配下の聖獣たちが攻略しかねていた深淵種族のムカデを思い出しますね】
【たしかにこれを突破するのは私でも困難かもしれないです】
【ですが、そのように守りのなかに引きこもっているだけでは勝てませんよ】
【陰湿な深淵種族にはお似合いの姿ですけど】
守りの姿勢に入ったルル様を見て皮肉で煽る【菜刀天子】だが、その言葉には守りに専念したルル様を突破するのが難しいからこそ隙をさらして欲しいという想いもあるだろう。
俺だってそうする。
攻撃三倍の法則といって、攻撃する側が完全に有利に立つためには防御側の三倍の力を必要とするらしいからな。
戦理的に見て防御側は攻撃側よりも有利に立てることが多い。
相手を疲弊させることができるということや、攻撃に対して対処しやすい、ダメージを最小限に減らせるなど利点は多いからな。
もっとも、籠城戦までいくと兵站の関係上ただ引きこもっているだけでは負け戦になるので、援軍を期待できる場合や攻める側に時間制限があるなど特殊な場合以外は止めた方がいいけどな。
ルル様の場合は何を狙っているんだろうか……
あの狡猾なルル様がただ引きこもって攻撃を受け続けているだけとは考えがたい……
【カッカッカッ!】
【Bottom Down-Online Now loading……】