595話 必殺顕現
【ではさっそくその力を御披露目といきますか】
【スキル発動【兎月伝心】、スキル発動【虎月伝心】】
黄龍の姿と変貌した【菜刀天子】が【伝播】の力を持ったスキル【渡月伝心】の上位互換である【兎月伝心】と【虎月伝心】を同時に発動してきた。
紫色の粒子と黄色の粒子が合わさりながらプレイヤーたちへの集団へと飛び交っていく。
波のように揺れながら飛翔する二色の粒子は未だ呆然としているプレイヤーたちを千切りにしながら空間を伝播していっている。
「ぐわわをわわゎをわわ!?!?」
「えっ、つよっ」
「あっ(死)」
「無理ゲーじゃね!?」
これまでの順調さが無に還されるかのように、水に流される羽虫のごとくプレイヤーたちは光の粒子となり、あっさりと死に戻りしていっている。
「とりあえず妾が守れるだけは守るでおじゃるよ!?
【十二天将後五ー金神白虎】っ!」
ここにきて【タウラノ】はこれまで投げていた呪符とは秘めている力が圧倒的に違うものを取り出して解放した。
呪符からは粒子で形成された白虎が出現し、【菜刀天子】の二色の粒子とぶつかり合っている。
【菜刀天子】の合わせ技とぶつかっても耐えられるものを放てるとは、聖獣の中でも窓際属性の悲しい【タウラノ】だが腐ってもレイドボスということだろう。
切り札をここで素直に切ってきたのには素直に感心だ、臆病者の【タウラノ】のことだから最悪逃げ帰るくらい思ってたんだが思っていたよりは根性があるらしい。
だが、耐えられているだけで今にも消えそうという事実は変わらない。
「やっぱり黄龍天子は妾と格が違いすぎるでおじゃるよっ!!
これではいつまで耐えられるかわからないでおじゃる……
今のうちにお主らでなんとかしてほしいでおじゃるよ」
ここぞという時に他人任せというスタンスなのは小者と呼ばれる由縁でもあるな?
まあ、こいつの場合はバフとデバフをメインで使い分ける支援系レイドボスだから仕方ないけどな。
「でも【ペグ忍者】たちでどうにかできる問題なのら?
この状況だと微々たる影響しか与えられないと思うのらよ~」
「ワタクシは【タウラノ】様と一緒に【渡月伝心】の亜種のようなスキルから皆様を守りますわ!
スキル発動!【近所合壁】でしてよ!」
「おおっ、お主の防御は助かるのでおじゃる!
この【十二天将後五ー金神白虎】は【伝播】の力に対するメタスキルなのでおじゃるが、それ以外の要素には全く無力でおじゃるからな……
余波すら防げないのでおじゃる……んだゃっ!?」
【タウラノ】は喋っていて気を抜いたのか、スキルのフィードバックによって一瞬苦しそうにしていた。
それほどあの【十二天将後五ー金神白虎】に込めている力というのは強力なものであるということだろう。
まあ、それでも防ぎきれてないんだがな。
「【包丁戦士】さん、こうなったら最終手段を使うしかないですね。
ここで出し惜しみすると、【タウラノ】脱落時に即全滅する未来が見えるからね」
【検証班長】は俺にとある提案をしてきた。
ちっ、そろそろ潮時か……
今後のことを考えるなら俺たちだけで倒したかったんだが、総力戦が瓦解しそうな今、贅沢は言ってられない。
俺が呼び水の役割を果たしてやるか。
スキル発動!【深淵龍脈】!
俺はここまで温存していた次元戦争中に発現した新たなスキルを起動していく。
俺の深淵フルートを介して黒色の枝がじわじわと現れると、根を伸ばすかのように天子王宮の地面に張り巡らされていっている。
豪華絢爛な天子王宮の床が深淵の濃い力の影響で黒ずんでいき別物と成り果てているが、それをお構い無しに俺は【深淵龍脈】をさらに展開していく。
【菜刀天子】の二色の伝播粒子と【タウラノ】の【十二天将後五ー金神白虎】の激突による余波に曝されながらも、一面に【深淵龍脈】を広げ終わった俺は最後に内なる紅枝へと呼び掛ける。
「さあ、ルル様!
お待ちかねの出番だ!
宿敵を討つために、俺たちに、いや俺に力を貸してくれ!!!」
俺の呼び掛けに応えるように【深淵龍脈】が脈打つかのように激しく反応し始めた。
そして胎動する龍脈が姿を変えて現れたのは緑色のタコのような見た目に、漆黒の翼を生やした強大な力の主。
【カッカッカッ!】
【ようやく我の出番がやって来おったか!】
【あまりにも呼ばれぬ故に、待ちくたびれておったわ】
【いつまでも呼ばれぬから、既に全滅しておるのかと思ったほどだ】
【だが、こうして呼ばれたからには我の力を存分に振るわせてもらおうかのぅ】
【ようやく憎き次元天子と本来の姿同士で相対したのだ】
【ここで力を出し惜しむようでは深淵種族の主として侮られてしまうからのぅ……】
【それでは楽しませてもらおうか】
……そう、俺の頼れるボス、ルル様だ!!!
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