590話 ミューン前線
「予想外の展開ですが、それぞれ自分が攻略していたレイドボスに挑んでください!
【包丁戦士】さん率いる【コラテラルダメージ】は【ミューン】を、【釣竿剣士】さん率いる【釣り堀連盟】は【ウプシロン】を。
【トランポリン守兵】さん率いる【お屋敷組】は【クシーリア】を、【風船飛行士】さん率いる【冒険者の宴】は【オメガンド】を抑え込んでください。
こういった場合は変に捻るよりも形態は違うとはいえ、一番見知った相手と戦うのが一番やりやすいだろうからね。
ボクたち【検証班】は遊撃隊として満遍なく臨機応変に支援していくから、各個撃破を祈ってるよ」
【検証班長】からそれぞれの人型形態の聖獣の相手の指示が飛ばされた。
今回の場合は言われなくとも俺は【ミューン】と戦うつもりだったが、他の連中がそうだったとは限らない。
指示無しで、聖獣一体でも野放しになるようだったら即座に俺たちは蹂躙されてしまう未来が容易に想像できるから、そんなリスクを負わないために【検証班長】は先手を打ったのだろう。
その辺りのことは抜かり無いのが【検証班長】だからな。
「生産プレイヤーとして、再戦で負けるわけにいかないです」
「ワタクシとしてもまた【クシーリア】と戦ってみたいと思っていましてよ!」
「ちょwww
オレの活躍を見逃すなよwww
【オメガンド】はオレの獲物だからなwww」
どうやら【検証班長】の心配は杞憂だったようだがな。
俺たちトッププレイヤーと呼ばれる4人は実力が高いからトッププレイヤーと呼ばれているわけじゃない。
実力だけだったら【ペグ忍者】も含まれているだろう。
俺たちトッププレイヤーの由縁はそれぞれのレイドボス討伐に対する意欲の高さが基準で【検証班長】が選定したものだ。
つまり、言われなくとも自分たちが過去に必死になって攻略方法を探していた聖獣が立ち塞がったのなら因縁の深い相手を自ずと選ぶってことだ。
「こらこらお主ら、慌てるでないでおじゃる!
レイドボスである妾の支援が要らないわけではないでおじゃろう?
スキル発動!【六根清浄急急如律令】!」
狐耳ロリ陰陽師は俺たちに向けて呪符を投げつけた。
「今発動した呪符に込められたスキルは、五感と少しの身体能力のバフでおじゃる。
これで存分に戦うでおじゃるよ!」
「助かる」
「ロリのバフは身に染みるぜ!」
「これで百人力だ!」
モブプレイヤーたちも【タウラノ】による支援が行き渡り、攻撃を開始しはじめた。
「いつか、また、たたかうとおもってた……」
奇遇だな、俺もお前とは何故だか再戦する機会があると思っていた。
【ミューン】と対峙した俺はそんなことを語りながら【ミューン】の鉤爪による攻撃を包丁の腹を使って受け流していく。
【ミューン】も【ペグ忍者】同様に加速性能がデフォルトでついているようで、一挙動一挙動のテンポが異様に短縮された状態で爪撃を繰り出してきているのがとても厄介だ。
今のところは防げているが、こんなの続けてられるか!
【短弓射手】っ!割り込め!
「人遣いの荒いお嬢ちゃんだねぇ……
オジサンの上司でももうちょっと配慮してくれるんだけどねぇ。
でも、そんなことを言っている場合じゃないか。
スキル発動!【レインボウ】!」
俺が【ミューン】の高速連続攻撃を防いでいるその隙間を縫って【短弓射手】が七色の矢を放ち、俺が後方へと退避する余裕を作ってくれた。
ちなみに、七色の矢自体は【ミューン】によって切り裂かれて地に落ちた。
「あらら、やっぱり聖獣相手だと上手く当てないと通用しないみたいだねぇ……
オジサン自信無くしちゃうねぇ……
というわけで【黒杖魔導師】の旦那、次はよろしく」
「クククッ、我輩の詠唱は既に終わっている!
禁忌に触れし、臨界点を突破せよ!
禁忌漆黒闇極大魔法!【ハリクロス】!」
【短弓射手】が攻撃後ステップを踏みながら位置を変えていくと、その後ろから【黒杖魔導師】が尊大なゆったりとした歩みで前進してくると、途中でピタリと止まり呪文を詠唱した。
【黒杖魔導師】が詠唱した呪文で発動する魔法はハリクロスだ。
これはゲーム内のスキルではなく、ability【現界超技術】による異世界の技術をそのままゲームに持ち込んで発動してきているものだ。
そのability【現界超技術】によって発動したハリクロスは、本来なら高層ビルすら倒壊させてしまうほどの威力であるはずだが、abilityのデメリットにより大幅に威力が下げられてしまっている。
それでも、【ミューン】を一旦ノックバックさせることは叶ったようだ。
「……いまの、おもしろい!
これまで、みたことなかった」
【ミューン】は自分が攻撃をくらったのにも関わらず、ニヤリと笑みを浮かべている。
普段無表情なのに、こういうところで微笑を浮かべるのは心の底から戦いが好きなのだろう。
戦闘狂とルル様などに言われているだけはあるな……
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