588話 黄泉月心
【たしかに【渡月伝心】の残骸を掌握したのには驚きましたが】
【それはある程度防いだ後にしか出来ないものと見ました】
【活発化している【渡月伝心】は今も宙を漂ったままですからね】
【これを一度防げたのには感心しますが】
【何度か続けて防げるでしょうか?】
【菜刀天子】が【骨笛ネクロマンサー】の力を一度で見切ったような口をきいてきた。
どうやら【荒野の自由】から何か吹き込まれたようだ。
だが、【菜刀天子】の言うように【骨笛ネクロマンサー】が集められる粒子は活発化していない……いわば死んだ粒子しか集められないのだろう。
プレイヤーが死んだ後の粒子しかこれまでabilityが反応しなかったのも、それが既に活発化を終えて消え去るのを待つだけの死んだ粒子だったからに違いない。
「ふひひっ、あまり深く考えたことなかったですけどぉぉ……
言われてみるとそうかもしれませんねぇぇ……
流石に動いている【渡月伝心】を掴みとろうとしても、びくともしませんでしたからぁぁ……」
「にゃにゃにゃ!
【渡月伝心】対策は【ペグ忍者】たちに任せるのらよ~!」
「【包丁戦士】ちゃん、私に任せなさいよ!
こういう時こそ私の出番じゃない!」
【骨笛ネクロマンサー】が【菜刀天子】の言葉に自信を無くし始めようとした時、俺たちの前に現れたのは淫乱ピンク髪の【ペグ忍者】と、際どいチャイナ服を着たプロポーション抜群の【虫眼鏡踊子】だった。
「にゃははっ!
【ペグ忍者】たちは種族的に【伝播】の力の使い手なのら!」
「そういうことね。
私たちも【伝播】の力を使って相殺できるだけやってみるつもりよ!」
「怪物には怪物をぶつける理論で、【伝播】の力には【伝播】の力をぶつけるのら~!」
急に前線に出てきて無茶苦茶なことを言い始めたと思ったが、ちょっと考えてみるとこいつらの作戦には一理ある気がする。
こいつらは【オメガンド】討伐総力戦の時も【オメガンド】が使ってきた【伝播】の力をこっちの【伝播】の力で対抗して防御していた実績がある。
よしっ、頼んだぞお前ら!
「……えっ、【包丁戦士】しゃんもやるのらよ?」
「あなたも【伝播】の力の使い手じゃなかったかしら?」
……どうやら俺もやるらしい。
いや、別にいいんだがお前たち二人でやる流れだと思ったぞ。
でも俺もやるならあいつも呼ばないとな。
おーい、【バットシーフ】後輩!お前も一緒に来い!
「えっ、俺っちもッスか!?」
【バットシーフ】後輩も俺同様に驚いている。
俺と【バットシーフ】後輩はたしかに【伝播】の力の方向性を変えられるが、【ペグ忍者】や【虫眼鏡踊子】のように特化しているわけじゃないからな。
そんなにあてにされても困るぞ?
「上等なのら!
メインは【ペグ忍者】たちがやるのらよ~!
スキル発動!【聖獣毛皮μ(ミュー)】!
スキル発動!【虎月伝心】なのら!」
まずは、【聖獣毛皮μ(ミュー)】のスキルの発動によって【ペグ忍者】の身体が紫混じりの白い装束に覆われていく。
髪の毛の色も上書きされていき、装束同様に白色がメインでメッシュのように紫色の髪が少し生えている感じになった。
そして、【虎月伝心】の発動で【ペグ忍者】がチュートリアル武器のペグを掴み、短い両手を上空に向けて掴んでいるペグにエネルギーを注ぎ込んでいく。
そして白光が点滅しながら周囲から集まってきている。
そして、エネルギーがたまった頃に白光の粒子が拡散していき、【菜刀天子】の放った【渡月伝心】を止めるため衝突していく。
「私も続くわよ!
スキル発動!【獣王無尽】!」
【虫眼鏡踊子】もスキルを発動し、黄色い粒子を全身から溢れるように出しはじめた。
そして、黄色い粒子を纏った虫眼鏡で【渡月伝心】の銀光粒子へと殴りかかっていっている。
「俺っちたちはいつものあれッスよね?
スキル発動!【渡月伝心】!」
そういうことだ!
スキル発動!【渡月伝心】!
【スキルチェイン【天元顕現権限】【渡月伝心】】
【追加効果が付与されました】
【スキルクールタイムが増加しました】
俺と【バットシーフ】後輩は既に起動していた天子の左翼とスキルチェインさせて【渡月伝心】を発動させた。
二人のスキルチェイン【渡月伝心】と、【ペグ忍者】の【虎月伝心】そして【虫眼鏡踊子】の【獣王無尽】が【菜刀天子】の放った【渡月伝心】と衝突したことによって、戦場全体に衝撃が走りあたかも地震が起きたかのような揺れも発生した。
攻防の結果は霧散していく粒子の流れによって見えないが、それでも俺が生きているということは……
「ふひひっ、やりましたぁぁ!
やりましたよぉぉ!!
新たなスキルの発現ですぅぅ!!!
ability発動!【粉骨再身】んん!!
スキル発動!【黄泉月心】んん!!」
溢れんばかりの【渡月伝心】の粒子をabilityによって収集した【骨笛ネクロマンサー】は骨粒へと変換すると、その骨粒を活性化させて俺たちの放ったような【伝播】の力を伴ったものを【菜刀天子】へと飛ばしていった。
骨粒粒子は途中何物にも遮られることがなかったことから、さっきの攻防は互いに相殺しあって消え去っていたのだろう。
その間を縫って放たれた【骨笛ネクロマンサー】の【黄泉月心】は【菜刀天子】を取り囲むと、粒が肥大化し骨が打撃を加えながら【菜刀天子】の周りを回転しはじめた。
【打撃と【伝播】の力を併せた拘束技とは】
【また未知なものを生み出しましたね……】
【これではまるで……?いや、気のせいでしょう……】
【ここまでやれるのであれば第四の試練はクリアでいいでしょう】
【ですが、ここまでは序の口です】
【ここからはどうでしょうか】
【Bottom Down-Online Now loading……】