585話 嫉妬の音
自らの出番だと言わんばかりに存在感を出しながら前に進みはじめたのは【フランベルジェナイト】……いや、【エルラシア=ガルザヴォーク】。
……やっぱり【フランベルジェナイト】でいいか。
こっちの方が言い慣れてるし。
何故こいつがこの場面で前に出てきたのか、俺には心当たりがある。
こいつは【オメガンド】討伐の時に不可視の刃を平然と切り落としていた。
だから今回も同様にこの不可視の刃に対応できるのだろう。
「フェイちゃんの言うとおりさ。
俺は竜に関する力の流れを読み取ることができる。
前のレイドバトルの時は不思議だったけど、俺の前世からの縁みたいだからきっても切り離せない感覚のようだよ?」
……こいつの前世は深淵種族の竜だったからな……
その竜の力を使っていた感覚が今も残っているということなのだろう。
半分チートっぽいが、俺と敵対しない限りは頼もしい味方と言ってもいい。
【フランベルジェナイト】は飛んできている……と思われる不可視の斬撃を見えているかのようにチュートリアル武器であるフランベルジェで切り払っていく。
一見すると何もない場所で剣舞を踊っているようにも見えるが、空中で何かとぶつかり合ってる音がすることから間違いなく【菜刀天子】の放っている【波状風流】を捉えているってことだ。
「前よりもよく見える気がするよ。
例えばここを切れば……っと!」
【い、一刀両断ですね!
で、でも前よりもあっさり斬れてますよね……?】
「当然だよ、斬撃の切れ目を抉り取る感じで切り裂いたからね。
濃い深淵の力に身を委ねたからか、崩壊の基になるような場所が【視える】ことがたまにあるからね。
もっとも、竜の力に関係するものだけにしか反応したことがないけどっ!」
【フランベルジェナイト】は【フェイ】に説明しながらも、本来反応することすらも困難な斬撃をばっさばっさと切り捨てていく。
まるで辻斬りでもしているかのようなキレだ。
俺が度々プレイヤーキルとかに連れていったりしているので、その要領を上手く掴んだのかもしれない。
まさかこんなところで成長を見られるとは思ってなかったが嬉しい誤算だ。
【【オメガンド】を倒された時の戦いを見ていても思ってましたが、このプレイヤー……やけに対応力がいいですね……?】
あ、そういえば【菜刀天子】は【フランベルジェナイト】が【エルラシア=ガルザヴォーク】の生まれ変わりってことを知らないんだな。
あの聖剣次元との次元戦争でも【フランベルジェナイト】は【菜刀天子】とは別の戦場で死んだから、全くあのややこしい事情も知らないってことだ。
……明かすと面倒くさいことになるし、俺から伝えることはないだろう。
「なんだか知らんがチャンスだ!
あのイケメンが抑えてる間に道を切り開け!」
「うおおおおおお!!!」
「行くのらよ~!!!」
「ガハハ!!!
ワシも行くぞ!!!」
「これは爆撃チャンスですよね!
いや~、テンション上がりますよ~!」
【フランベルジェナイト】が駆けていく後ろについてモブプレイヤーたちや、【槌鍛冶士】、ボマードちゃんなどなどが追随し【波状風流】の核と思われる場所へと急接近していっている。
そんな中俺は……
スキル発動!【堕音深笛】!
腰に提げていた深淵フルートを取り出して演奏を開始した。
俺の演奏につられたかのように深淵の黒い霧が発生し、【フランベルジェナイト】を後押しするためにバフをかけていく。
いくら【フランベルジェナイト】でも、何も支援がない状態で特攻を仕掛けると消耗が激しいからな。
先輩プレイヤーとしてこれくらいはしてやるさ。
……この局面だと俺よりもあいつの方が先陣を切るのに向いているし、俺は大人しくバッファーとしての役割を果たさせてもらおう。
俺は口と指を激しく動かし、リズムを変えながら戦場に音色を響かせていく。
黒い霧も【フランベルジェナイト】に纏わりつきながら形を変えていき枝のような形に変わっていった。
「フェイちゃん、これはいいね!
力が湧いてくるよ!」
【(ギロリ)】
【フランベルジェナイト】が俺の支援にご満悦のようで調子も良さそうだが、【フェイ】は俺に嫉妬しているのか凄い形相で睨み付けてきた。
元が俺ってだけあって、殺気を飛ばすの上手いよな……
そして、【フェイ】も負けじと黒い霧から生成した深淵フルートを手にとって【堕音深笛】による演奏を開始した。
俺と【フェイ】のデュエットは【フランベルジェナイト】の動きを活性化させていき、高速移動モードの【ペグ忍者】に匹敵するレベルの動きで不可視の斬撃を完封していっている。
これはいけるぞ!
【……】
【Bottom Down-Online Now loading……】