581話 しっぺ返し
【さて、おおよそ私の想定と実際の実力とのすり合わせができてきたので次のステージに進みましょうか】
【低能な底辺種族たちにも分かりやすいように、馴染みのある【オメガンド】の試練方式を少し踏襲してみましょう】
【第一の試練】
【【燃焼】の力……【渦炎炭鳥】】
【まずはこのスキル単体でこれまでの底辺種族たちの蓄積した戦闘への対応力を測りますよ】
【菜刀天子】はそう言うと、自身の背後に赤い魔法陣を生み出し爛々と輝かせる。
痛々しいほど赤く光る魔法陣から生み出されてきたのは轟々と燃え盛る火柱だ。
火の粉を散らしながらもその荒れ狂うような勢いで俺たちプレイヤーの命を【燃焼】させようと、水流のごとく迫ってきている。
「にゃにゃっ!?
さっそくスキルを使ってきたのらよ!?」
「ほう【渦炎炭鳥】ですか、大したものですね。
プレイヤーが使う瞬間移動用のスキルではなく、攻撃に利用しているのは【包丁戦士】さんと一緒のようですが」
「ちょっとあなたたち、呑気にしてないで私たちの後ろに隠れてください!」
「「「スキル発動!【近所合壁】!」」」
【菜刀天子】が使う【渦炎炭鳥】を見たクラン【検証班】の【ペグ忍者】と【モップ清掃員】の二人だったが、それを押し退けるように現れたクラン【釣り堀連盟】のタンクプレイヤーたちが一斉にスキル【近所合壁】を発動して空中にチュートリアル武器の盾を生み出した。
防壁のように重なっていくタライや桶、大盾などが火柱と激突する。
数々のチュートリアル武器は次元天子である【菜刀天子】の放った【渦炎炭鳥】の猛威に耐えきれず、次々にガラス片のようにくだけ散っていっており、どんどん圧されていっている。
「そちら、先走りすぎですわよ!
ワタクシがさらに壁を並べますわ!
称号【大量生産職人】をセット!クラフトマイスター権限起動しますわよ!」
【Warning!】
【創り上げるのは多くのもの】
【均一物こそ美しい】
【【クラフトマイスター】権限により【近所合壁】の連続錬成!】
【【トランポリン守兵】のチュートリアル武器が連続錬成されます】
「スキル発動!【近所合壁】の最大展開ですわ!
【渦炎炭鳥】ならワタクシのトランポリンで遮ってみせましてよ!」
【釣り堀連盟】のモブプレイヤーたちが展開していたチュートリアル武器たちの壁が完全に消滅する寸前に【トランポリン守兵】お嬢様が気付き、フォローに入ってきた。
【クラフトマイスター】権限によって押し上げられた生産能力向上効果で大量のトランポリンを城壁のように次々と生み出し、【菜刀天子】のスキル【渦炎炭鳥】を受け止めた。
もちろん、【渦炎炭鳥】を受け止めて何もないはずはなく、トランポリンは先程のモブプレイヤーたちのチュートリアル武器のようにくだけ散っていっているが、それ以上のスピードでトランポリンを生成していっているため火柱は徐々に【菜刀天子】側へと押し返されていっている。
【【近所合壁】にこのような使い方があったとは……っ!】
【やはり底辺種族たちと私では思考回路が違うのか、私では思いつかない突拍子もない発想で驚かしてくれますね】
「驚くのはまだ早いですよ!
生産プレイヤーならここで慢心するのはあり得ませんからね。
釣竿一刀流【斬祓】!」
【釣竿剣士】は【トランポリン守兵】お嬢様が火柱を防いでいる間に【菜刀天子】の真裏に忍び寄り、必殺の間合いで釣竿一刀流【斬祓】を繰り出した。
釣竿一刀流【斬祓】は釣竿を高速でしならせ続け、扇状に見えるほど残像を残しながら放つ斬撃だ。
その鋭さは岩の裏にいても、その岩と一緒にいた俺が切断されるほどのものだ。
【これはっ!?】
【しくじりましたね……】
【まさかタンクプレイヤーたちの集団を囮に使うとは……】
【自身はタンクプレイヤーという壁を全く使わないで突撃してくるとは、タンクという守りの役割を遂行させないことになりますからわけが分からないですよ】
「既存の固定観念を打ち破るブレイクスルーこそが生産プレイヤーの醍醐味ですからね!
役割放棄こそが私の【菜刀天子】攻略法です!」
おおっ、なんか【釣竿剣士】が格好いいこと言ってるぞ!?
【菜刀天子】は【釣竿剣士】の斬撃を受けて少しだけだが仰け反った。
普通のプレイヤーならあれを直撃したらその場で死に戻り確定なのだが、流石はレイドボス。
【釣竿剣士】の決死の攻撃もその程度のダメージで済んでしまったのかよ……
人型のレイドボスだからといって体力を見誤ってはいけないということだな。
【悪くはない考えですが】
【どこまでそれが私に通用するか、試してみなさい】
【そして、身のほどを知るといいでしょう】
【Bottom Down-Online Now loading……】