580話 開幕の一撃
【まずは小手調べといきましょうか】
【菜刀天子】はそう言うと、中華包丁を握りしめて近くにいるプレイヤーを狙い始めた。
「ひっ、ひー!?助けてくれー」
まず狙われたのは【冒険者の宴】の太刀使いの男モブプレイヤーだ。
スキルは温存するつもりなのだろうが、開幕は近接戦となった。
「レイドボスの攻撃です。
通常攻撃だとしても当たっただけで死ぬと覚悟して挑んでください!
【トランポリン守兵】さん、援護をお願いします」
「承知致しましたわ!
ワタクシがタンクプレイヤーとして皆様をお守りしますわよ!
スキル発動!【近所合壁】!」
近寄ってきた【菜刀天子】に対して【検証班長】が警笛を鳴らすと、【トランポリン守兵】お嬢様とそのクランメンバーたちが最前線へと躍り出た。
そして、【トランポリン守兵】お嬢様はチュートリアル武器を空間に生み出すことができるタンクプレイヤーの特権スキル……【近所合壁】を発動し、トランポリンを間に挟み込むことによって襲われかけていた【冒険者の宴】のモブプレイヤーを凶刃から守りきった。
「た、助かった……
流石は南のトッププレイヤーの守りだ!
感謝する!」
「これくらいお安いご用ですわ!」
【底辺種族はやはり小賢しいですね……】
「当然ですよ、生産プレイヤーなら!
私も小賢しく立ち回りますよ!
釣竿一刀流【抜刀斬】!」
【トランポリン守兵】お嬢様が攻撃を凌ぎきった後に生まれた一瞬の隙を逃さないように見張っていた【釣竿剣士】が瞬時に畳み掛けていく。
釣竿をケースから一気に引き抜きながら、見るも鮮やかな曲線を描く斬撃を【菜刀天子】に向かって放ち、その首を落とそうとした。
【甘いですよ、こんな序盤から私が露骨な隙をさらすとでも?
その考えは次元天子である私に対して不敬ですよ】
【菜刀天子】は【釣竿剣士】の釣竿一刀流【抜刀斬】による一撃を見きっているかのように中華包丁を振り抜いて相殺してきた。
……っ!?
あんなシンプルな動きで釣竿一刀流を相殺しただって!?
おいおい、俺が思ってた以上に【菜刀天子】の対応力高過ぎないかっ!?
「釣竿一刀流【抜刀斬】をこうも容易くいなされると自信が無くなりますね……
ですが、生産プレイヤーは一人で折れることはありません!
団結こそが生産プレイヤーの真髄ですからね」
【釣竿剣士】がそう言い切るのと同時に、俺たちの後方から声がしてきた。
「ちょっwww
【釣竿剣士】の攻撃を片手間で止めるとか嘘だろwww
ウケるwww
それならこれはどうだろうなwww
ability【銀盃羽化】発動www
さらに……スキル【竜鱗図冊】っ!」
そう叫ぶと、腕に巻いていたシルバーを外し、口に運んだかと思うと、それをごくりと飲み込んだ。
そして、肩から提げていたポシェットの中から巻物のようなものを取り出すと、それを勢いよく広げた。
その巻物が鱗のように分解されたかと思うと、次の瞬間には【風船飛行士】の手元には銀色の杯が握られていた。
これが【風船飛行士】の基本戦術だ。
対人戦でも、レイドバトルでも初手でこれをやるからな。
もはや慣れてきた。
【風船飛行士】は片手で風船を握り、上空に浮かびつつももう片方の手で握った銀色の杯から放たれるオート照準の羽矢で【菜刀天子】を射撃していく。
【近距離攻撃が通用しないからと、今度は遠距離攻撃ですか。
底辺種族らしく、単純な思考ですね……】
まあ、オート照準の攻撃くらいでは【菜刀天子】には通用しないだろう……
案の定、中華包丁で羽矢を一つ一つ切り落としていき、塵も残らないほど粉々にされてしまった。
「ンゴンゴンゴwww
オレの攻撃でもダメなのかよwww
クソワロタwww
ワロタ……」
いや、笑ってる場合じゃないだろ……
包丁次元の中でも上位の戦闘力を持つようになっていたトッププレイヤーたちの攻撃がこうもあっさりと凌がれ続けると、どうやって攻撃したらいいものか悩みどころだな……
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