567話 最後の深淵結界
まあ、雑談はその辺にしておいて本題に入ろうじゃないか。
深淵結界をパパっと張ってしまおう、いつプレイヤーたちからのちょっかいがかかり始めるかわからないからな。
【忍び寄る蜘蛛糸】は普通に喋ってるけど、これでもレイドボスだからな。
時間が経つと倒そうとするやつらが群がってくるだろう。
しかも、今まで姿を見せたことがなかったレイドボスなら、なおさら珍しさのあまり挑んでみようと思うだろう。
俺も事情を知っていなかったら挑んでいただろうから、その気持ちは想像できる。
【そうでござるな!
ボスのためにも迅速に憎き次元天子を堕とす結界を張らせていただくでござる!】
【忍び寄る蜘蛛糸】はそう意気込み、いくつもある足を使ってガッツポーズをした。
蜘蛛のガッツポーズなんて現実でも見れるものじゃないから違和感がハンパないが、気合いが入っているのは伝わってきた。
なんか深淵種族っぽくない明るい性格のレイドボスだが、それでも次元天子である【菜刀天子】を目の敵にしているというのは共通のようだ。
過去の深淵聖獣対戦での因縁だろうか?
【それではいくでござる!
拙者の妙技をご覧あれ!【儡蜘蛛糸】!】
【忍び寄る蜘蛛糸】は糸を身体から噴射すると、それを巧みに操り幾つものネットを産み出しながら天子王宮を包み込んでいく。
そして、ドーム状になった蜘蛛糸によるネットがマリオネットを操作する糸のように垂れ下がり王宮に付着していった。
【ワールドアナウンス】
【【ユニーククエスト【忍び寄る蜘蛛糸】のスキルで結界を王宮に張り巡らせよ】clear!】
【新緑都市天子王宮の深度が深まりました】
【新緑都市天子王宮での【菜刀天子】は包丁次元のプレイヤー相手時に身体操作速度が激減します】
【ユニーククエストチェイン!】
【【ユニーククエスト【蕭条たる百足壁】のスキルで結界を王宮に張り巡らせよ】clear!】
【【ユニーククエスト【忍び寄る蜘蛛糸】のスキルで結界を王宮に張り巡らせよ】clear!】
【【ユニーククエスト【鳴動する阻鴉眼】のスキルで結界を王宮に張り巡らせよ】clear!】
【【ユニーククエスト【荒れ狂う魚尾砲】のスキルで結界を王宮に張り巡らせよ】clear!】
……【チェインユニーククエスト【【深淵域の管理者】の多重深淵結界作戦】clear!】……
【プレイヤーの諸君、全ての準備は整った!】
【【深淵域の管理者】である我、【エルル】と共に憎き次元天子を打ち倒すのだ!】
【あやつはこの次元のレイドボスを消し去ろうとしておる】
【そうなれば、お前たちがレイドボスからスキルを獲得出来なくなるからのぅ……】
【それは困るだろう?】
【であるからこそ、我と共に立ち上がるのだ!】
【次元天子を堕とすのだ!】
【ボス……やけに感情が昂っているでござるな……
宿敵打倒を目前に控えているから気持ちはわかるでござるが!】
お、おう……
ワールドアナウンスでやけにテンションの高いルル様の演説がこの包丁次元に広まっていったな。
いつもより五割増しでテンションが高くて一瞬誰かと思ってしまったが、喋り方で次の瞬間にはルル様だと分かった。
アナウンスの内容としては【忍び寄る蜘蛛糸】の深淵結界で【菜刀天子】の動きのスピード(?)が落ちるってことと、ルル様が【菜刀天子】との戦いに参戦してくれるということだ。
【忍び寄る蜘蛛糸】が使ったスキル【儡蜘蛛糸】は深淵種族が司ると言われている【侵略】【阻害】【防衛】【占領】の力のうち【占領】に相当するものだろう。
これまでの深淵種族レイドボスたちのものから消去法で判断してもそうなるのだが、今回見せてもらった深淵結界の様子からしてもあの蜘蛛糸で相手を縛る……あるいは操ることが戦術っぽいからな。
【占領】と言うにふさわしいものだろう。
【拙者の力を見抜くとは流石はボスが見込んだプレイヤーなだけあるでござるな!
拙者は普段とある場所を占領し続けているからして、あまり表舞台には上がれないでござるが、もし機会があれば【包丁戦士】殿と手合わせ願いたいでござるよ。
その時は拙者の【占領】の力を存分に堪能してもらいたいでござるな!】
うへぇ、勘弁してくれ……
レイドボスとサシで戦ってまともなことになった試しがないからな……
初期のジェーライト=ミューンですら、何度も戦って辛うじて攻撃が見れる程度になったのに初見でとなれば瞬殺間違いなしだ。
ましてや、深淵種族の中でも上位の力を持つと思われる【忍び寄る蜘蛛糸】相手ならなおのことだろう。
【つれない返事でござるなぁ!
それはともかく次元天子討伐は頼んだでござるよ!】
ああ、任せておけ!
任せたり任せられたりする……
【Bottom Down-Online Now loading……】