561話 勇者装備
「それなら少しだけ品を変えようか。
スキル発動!【勇者見参】!」
姿は変わらなかったが感じられる力の流れからすると、【権限顕現】スキル……いや、スキルの名前の法則から考えると【深淵纏縛】のようなその上位のスキルか!
こいつは元々【勇者】の力を常時垂れ流していたが、スキルで出力を上乗せしてリミッターを外してきたのだろう。
「ご明察!
これは【勇者】としての力を最大限に発揮するためのスキルさ。
これまで、【次元天子】、【底辺種族】、【正義】の大罪の力などを使ってきたけれど【ガルザヴォーク】を倒したのはこの【勇者】の力によるものさ。
本来僕に与えられた【上位権限】の権限の範囲は狭いものだけど……
この【勇者】の力によって僕は【上位権限】を最大限に行使することが出来る!
そう、例えばこんな風にね!
【上位権限】発動!【他次元スキル】ー【名称公開】ー【修練防具上位解放】ー【勇者鎧アンチノミー】!
【上位権限】発動!【他次元スキル】ー【真名解放】ー【修練武器上位解放】ー【勇者聖剣パラドクス】! 」
【ランゼルート】はスキルを発動し、聖剣や鎧の姿を変えていく。
聖剣は宝玉が埋め込まれた黄金色と銀色が入り雑じった刀身へと変化し、鎧も同様の配色となった。
そして、1つ、また1つと翼が増えていく。
おいおい、包丁次元がこの次元戦争に参加しているから【名称公開】を使ってくるのはまだわかる。
だが、全く関係の無い蛇腹剣次元のパジャマロリのマキが使ってきた【名前に関するスキル】も使ってきて、さらに両方の派生スキルであるチュートリアル武器を進化させるものも使ってきたぞ!?
どうなってんだ【菜刀天子】!?
「あり得ません……っ!?
その力は底辺種族の身に余るどころか【次元天子】でさえも不可能な権限です!
どんなカラクリを使ったのですか底辺種族は!?」
【上位権限】を持つ【菜刀天子】でさえも分からないことか。
……いや、この【ランゼルート】の持つ【上位権限】は後天的なものだから【菜刀天子】の持つやつとは少し法則が違うのかもしれないな。
「【勇者】はその名を行いによって世界に広めていくものだ。
その性質から、最大限の力を発揮した今の状態であれば全ての次元の【名前に関するスキル】が使えるのさ、しかもデメリットが無い状態でね。
【上位権限】発動!【他次元スキル】ー【名物怪々】!」
【ランゼルート】はまた新たに【名前に関するスキル】を重ねてきた。
これは望遠鏡次元の牛乳パフェが使ってきたやつか!?
確か相手に状態異常を与えやすくなるスキルだったはずだ。
だが、この【ランゼルート】が今まで状態異常攻撃をしてきたことは無かったし、そんなタイプじゃないと思うが……
「それは今から作るのさ!
【上位権限】発動!【他次元スキル】ー【安価名案】!」
作ると言って新たに使ってきたのは【安価名案】……アンカー次元の夢魔たこすが使ってきた【名前に関するスキル】だ。
掲示板に書き込まれた能力を一時的に得ることが出来るというものだが……
「ありがとう掲示板のみんな!
僕が授かったのは【聖剣で触れた相手に毒を与える能力】だ!
これで準備万端だ!」
くっそ、よりにもよってそんなピンポイントで都合のいい能力をっ!?
包丁次元の掲示板連中相手に俺が同じことをしたら、【一歩歩くと死ぬ能力】とか【強制ログアウト】とかやられそうなものだが、この【ランゼルート】は聖剣次元でも相当慕われているらしいな。
これが人望の成せる技か!
準備の整った【ランゼルート】は勇者の力を纏い【菜刀天子】へと切りかかっていった。
「いくら小細工ばかり講じても私は底辺種族に負けませんっ!
スキル発動!【花上楼閣】!」
【菜刀天子】はそれを迎撃するために岩の花弁を【ランゼルート】に撃ち出しながら手に持った中華包丁を振るい、斬撃を互いに打ち合っている。
【菜刀天子】は射撃と斬撃を同時に行っているのに対して、【ランゼルート】は聖剣による斬撃のみでその両方に対処している。
聖剣の一撃が【菜刀天子】にかする度に【菜刀天子】は苦悶の表情を浮かべているので、おそらく毒が注入されていっているのだろう。
このまま長期戦を続けると体力がスカスカになってしまうのは目に見えている。
【ランゼルート】の聖剣による隼のような素早い連撃に対して【菜刀天子】は圧され気味であり、このままでは【ガルザヴォーク】同様に【菜刀天子】まで失ってしまうぞ!?
若干傍観気味だった俺は焦って背後から【ランゼルート】を刺突による一撃で仕留めようとしたが、岩の花弁を粉砕するついでと言わんばかりに聖剣を横方向に一回転させて振り回し、俺の攻撃を防いできた。
「君のような奇襲を好む手合いも今まで相手にしてきたことがあるから、そう易々と攻撃が通ると思わない方がいいよ」
と、思うじゃん?
「スキル発動!【渡月伝心】!」
【菜刀天子】がさっきまで居た【ランゼルート】の横ではなく、上空で浮遊しながら中華包丁から銀光を放ち【伝播】の力で【ランゼルート】の身体に切り傷をつけていった。
「何っ!?
うぐっっ……してやられたよ……」
俺の攻撃は通らなかったがそれは百も承知の上で奇襲を仕掛けた。
その真の目的は俺に意識を向けさせることだ。
「本命が私だったというわけです」
「でも確かに気配は僕の横に残ったままのはず……
いや、これはっ!?火で作られた人形!?
こんなものに僕の気配察知が騙されてしまったのか、ありえない!?」
それがあり得るんだよなぁ。
【菜刀天子】が密かに使っていたスキルは【火出惹没】。
火でデコイ人形を作るという変わったスキルだ。
これは相手の認知を騙すことができるらしく、半分プレイヤーの【ランゼルート】であってもそこから逃れられなかったようだ。
気配まで再現するとは見事なものだ、俺も使いたくなってくる。
「そんな軽口を言っている劣化天子に悲しいお知らせがあります」
突然どうした。
そんな悲壮感溢れる表情を浮かべるなんて【菜刀天子】らしくないぞ。
折角攻撃をぶち当てて【ランゼルート】をボロボロにしてあとちょっとで勝てるってところまで来たっていうのに。
「私は今の一撃で全てのエネルギーを使いきりました……
毒の影響で生命力まで削られてしまったようです。
劣化天子だけを残すのは心残りですが、必ず勝って包丁次元に戻ってきてください……」
【菜刀天子】はそう言い残すと光の粒子となって消えていった。
おいおい、この局面で俺だけ残ったか……
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