560話 心強さ
四肢の2つを失った俺は今や戦力外となりつつあるが、その代わりに余裕綽々だった【ランゼルート】に大ダメージを叩き込むことが出来た。
「さあ、僕の【正義】を執行する時だ!
大罪スキル発動!【正義裁決】!」
大罪スキルの発動を宣言した【ランゼルート】が死にかけの俺に向かって聖剣からビームを放ってきた。
さっき【ランゼルート】が言っていたことを鵜呑みにするのであれば、これも悪特効のある攻撃だろう。
満身創痍の俺ではかすっただけで死ぬ!
仕方ない、手札を同時に何個も切ることになるがやむを得ないな。
まずは称号【神淵使徒】をセットし直して……
スキル発動!【天元顕現権限】!
【スキルチェイン【深淵纏縛】【天元顕現権限】】
【追加効果が付与されました】
【デメリットが増加しました】
俺は骨翼から黒羽を生やした状態だったが、さらにそこから黄金色に輝く天子の翼をスキルによって生み出した。
右翼は黒く、左翼は黄金色に輝いている非対称な状態だが、このスキルチェインによって称号【神淵使徒】の効果が発動される。
【フィレオ】によって失われていた四肢が深淵と天子の相反する力の影響によりどこからともなく生えてきたのだ。
これが俺の狙いの一つ。
そしてもう1つは……
両翼による高速回避だ!
【ランゼルート】の聖剣から放たれたビームを間一髪で上空に逃げ込んでスレスレで回避することに成功した。
あれにかすっていたら危なかったかもしれないな……
「かわされてしまったかっ!?
まさか相対する天子の力と深淵の力を同時に行使するプレイヤーがいるなんて想定外だったよ」
「この奇天烈さが劣化天子が劣化天子たる所以ですからね。
【正義】を語るような頭の固い底辺種族であるあなたではたどり着けない境地でしょう」
「言ってくれるね……」
天子になること自体かなり難易度が高いが、それに加えて深淵種族に種族転生をするのはもはや運命的な出会いをしないと無理だからな。
【次元天子】にはなんだかんだ会う機会があるから、最悪倒してしまえば天子にはなれる。
だが、深淵種族になる方法はプレイヤーキラーであることや、フレンドが少ないことなど他のプレイヤーの敵であることが条件になってくるからな。
大罪とはいえ、仮にも【正義】を名乗っている【ランゼルート】のフレンドが少ないとは思えないし、能動的にプレイヤーキルをし続けているとは思えないからな。
まあ、【ランゼルート】はそもそも底辺種族から脱却できないらしいからあくまでも出来たとしてもという仮定だけどな。
「今回はかわされたようだけど……
だけど何度か放てばあたるよね。
大罪スキル発動!【正義裁決】!」
【ランゼルート】は何度もスキルを放ちビームを乱射してきた。
俺と【菜刀天子】はそれに対して両翼をせわしなく動かして回避に専念していく。
だが、あたり構わず放たれる正義の力の奔流をかわし続けるのは難しく、直撃こそしなかったが俺と【菜刀天子】に少しだけ攻撃がかすってしまった。
「ふん、私は公明正大な次元天子ですからね。
かする程度であれば悪への特効攻撃など大した問題ではないですね」
【菜刀天子】はそうだろうな。
こいつが悪と断じられる行為をした記憶はないどころか、プレイヤーたちを導いているから正義寄りだろう。
そして俺だが……
若干腕は抉れたが、思ったよりも被害が少ない気がするな?
さっきまで抱いていた危機感が少しだけ和らいだ気がする。
「それは天子の力を顕現させたからでしょうね。
次元天子である私の力の一端ですから、【正義】の力を受ける時に少しその影響力が分散されたと考えるのが自然です。
深淵種族の力だけを纏っていた時よりは身体が危機感を覚えなかったのもそのためでしょう」
「そういうことだったんだね。
今ので完全に倒せたと思ったんだけど、思わぬ誤算だったよ」
「頭が高いですよ底辺種族!
私を誰だと思っているのですか、【上位権限】AIの私……【菜刀天子】に対して敬意と畏怖の気持ちを覚えなさい!
話はそこからです!」
いつもは上から目線の高飛車な感じがする【菜刀天子】だが、強大な力を持つ【ランゼルート】に対しても同じように言えるのは頼もしく思えてくるな。
力のあるなしに関わらず底辺種族であれば自分より立場が低いと考えているというのもあるんだろうが、それでも【菜刀天子】の言葉を聞いていると不思議と勇気が出てきて根拠の無い勝てそうな気がしてくる。
「……単純ですね」
一言多いよお前は……
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