559話 底辺種族への偏見
【ワールドアナウンス】
【【深淵域の竜帝王】が聖剣次元へと送還されました】
【深淵の力の蔓延が収まりました】
やっぱり俺が見たように【ガルザヴォーク】は【ランゼルート】によって倒されてしまったようだ。
この特異次元ではレイドボスが消滅することは無いみたいなので元の次元に戻されただけなのだが、【ガルザヴォーク】はきっと悔しがっているだろうな……
勝つ気満々でいたにも関わらず、ぽっくり逝ってしまったから敗北感はとてつもないものだろう。
……と退場したやつばかりに思考を割いているわけにはいかない。
【ガルザヴォーク】が退場したせいでここに充満していた深淵の力の源が断たれてしまい、俺は【深淵纏縛】のフォームの切り替えを容易にすることが出来なくなってしまった。
今はルル様のゴスロリフォームだが、他の力を最大限に使おうとするならここまで深めてきた深度を犠牲にしながらスキルを使わないといけない。
「だけど、君はその姿のままでいいのかな?
僕の【正義】の力の前で深淵の力を行使するとどうなるのかはさっき見たばかりのはずだけど」
【ランゼルート】の言う通りである。
このルル様のゴスロリフォームは全身に深淵の力を纏っているので、深淵の力に対しての特効ダメージを与えてくる【正義】の大罪を行使する【ランゼルート】からの攻撃が即死級のダメージになってしまうのだ。
だからこそ、俺は今揺れている。
この【深淵纏縛】を解除して戦うのか、それともこのルル様のゴスロリフォームで継続戦闘するかだ。
「考える余裕なんて与えないよ!」
【ランゼルート】は考え込もうとした俺に対して聖剣による斬撃を放ってきた。
俺はすかさず受け流しを……いや、待てよ!
この局面でそれはまずい!
俺の筋力で化け物ステータスになった【ランゼルート】の攻撃を受けるのは愚策だ!
それなら受けるのではなく、迎撃するまで!
いくぜ、スキル発動!【フィレオ】!
俺は四肢の一つを犠牲にして飛翔する斬撃を放った。
包丁による斬撃の軌道を延伸するように飛んでいく斬撃を見た【ランゼルート】は俺に攻撃をするのではなく斬撃に対して対処しようと動きを変えてきた。
「【フィーレ】の亜種スキルっ!?
しかもデメリットが重いと見た!
これはスペックに関わらず当たると不味そうだから相殺させてもらうよ!
スキル発動!【フィーレ】!」
俺の足がスキルのデメリットによって切断されて明後日の方向にぶっ飛んでいっているのを見た【ランゼルート】は必要以上に警戒してくれたようで、スキルによって迎撃してくるようだ。
だが、お前が真に警戒すべきなのは俺じゃないはずだ、見誤ったな!
「劣化天子に貸しを作るのは不服ですが、この好機を【次元天子】である私が有効活用してあげましょう、泣いて喜びなさい!
スキル発動!【渦炎炭鳥】!」
【菜刀天子】は赤色の魔法陣を生み出していき、そこから火柱を放出して【ランゼルート】に直撃させていく。
聖なる銀光を帯びた火柱が次々と現れたため、周囲の温度が急上昇しており額から汗が滴り落ちた。
聖剣を振り下ろしている最中の【ランゼルート】は死角にいる【菜刀天子】による魔法の一撃を避けることができず、火柱に煽られながら樹木に激突することとなった。
「まさか自分を囮にして【次元天子】にチャンスを作っていたとは気づかなかったよ……
【アイシア】を破って僕の前に来ただけの戦闘慣れはしていたようだ。
状況把握能力、勝機を逃さない胆力、自らの身体が失われることへのためらいの無さ……どれを取ってもこれまで戦ってきたプレイヤーたちより優れていると僕は思うよ。
釣竿次元の【師匠】は君と違ったところで強かったけど、精神性では君の異常さの方が際立っているからね。
それにしても、久しぶりにここまで大ダメージを受けたから逆に新鮮な気分だよ!
君たちは【アイシア】の敵だと言うのに、心なしか気持ちが昂ってきてしまった!」
「本性を現しましたね?
【正義】を名乗るといっても、所詮は【底辺種族】。
弱小種族が偶然にも手にしたその力を振りかざすことに酔っているだけで、【正義】などという風が吹けば倒れてしまうものに縋るなど……笑止です」
【ランゼルート】は戦闘に対して興奮を隠せないようだが、それに対して【菜刀天子】はドライな反応を見せていた。
【菜刀天子】には【底辺種族】に対しての偏見の目があるようで、【ランゼルート】は俺のように完全に底辺種族という種族を自分のなかから消し去ったわけではないので、【菜刀天子】の好感度はかなり低めなのだろう。
一方で、【ランゼルート】も【ランゼルート】で、大ダメージを食らったのにテンションが上がってきているのは客観的に見るとちょっと怖いぞ……
いや、俺もたまにテンションが上がることもあるから突っ込んでは言わないが……
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